episode7.愛してるゲーム(テスト返却もあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいとの幼馴染、春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 これはそんなバカップルの、愛してるゲームの1話に過ぎない。



 今日と今日とて俺たち四人はホームルームまで暇つぶしを謳歌していた。


「みんな!愛してるゲームしない?」


「アイシテル……ゲーム?」


 結菜に続けて、春樹が鸚鵡返しする。愛してるゲームは分かるだろ。頭悪そうなやつだよ。


「お互いに愛してるって言い合って、照れたら指の骨を折るの。折る骨が無くなったら負け」


 想像以上に頭悪かった。照れたときの代償エグっ。


「いいじゃん!やろうぜ!」


 どこらへんが良かったのかご教授願いたい。でも指の骨を犠牲に神崎さんから愛してると言ってもらえるなら、メリットの方が大きいな。


「じゃあ……私と海斗、春樹と神崎ちゃんペアね」


「何でだよ!結菜と春樹はどう考えても固定だろ」


 そうじゃないと骨が折れるだけになってしまう。


「いいのいいの、じゃあいきます。海斗、愛してる」


 結菜が上目遣いで俺の手を握る。やめろやめろ!口角が上がってきた。やばい!俺の指の骨が!


「海斗……あとで覚えとけよ」


 ひっ!春樹の憎悪で満ちた視線に頬が強張り何度か照れることを回避した。次は俺のターン。


「結っ、結菜……あっ、あい、してる……」


 これは照れてるんじゃない。神崎さんに見られながら他の子に愛してると言うことに後ろめたい気持ちがあるだけだ。


「海斗、もっと心を込めて!もう一回!」


 結菜が、ほら!ほら!とジェスチャーしてくる。次も俺のターン!


「愛してる!」


「ありがとっ、私も愛してるよ」


 リベンジと言わんばかりにウィンクと告白が飛んでくる。アフンっ……。無事敗北した。


「よーし、海斗、照れた罰だ。約束通り骨を折らせて貰う」


「やめろ!おい!絶対私情混ざってるだろ!ギブ!ギブ!」


「山瀬くん、ギブスなら用意しときます」


 折れる前提かよ!結局、握力42の春樹に全力で人差し指を握られ、真っ赤になるだけで済んだ。


「じゃあ次、残った二人だね」


「んんっ、春樹くん……愛してる」


 神崎さんの口から、俺の欲しい言葉が漏れる。ゲームだと分かっていても、膝から崩れ落ちそうだ。恋には既に落ちている。てか春樹のこと下呼びなのか……。俺今だに山瀬くんなのに。


「余裕だな。次は俺か、愛……愛……ちょっと待ってくれ。深呼吸挟む」


「なんでだよ!深呼吸いらねーだろ!」


 俺のツッコミも無視して肩で息をしている。一体何をしているのか。


「もう一回言うぞ」


 一回も言えてねぇんだよ。


「愛、して、愛……愛……無理だ!俺には出来ないっ!海斗!俺の指を折ってくれ!」


 言えねーのかよ。俺も指を思いっきり握ることで罰ゲームを完遂した。


「骨がポキッ––とはならなかったな」


「いつまでポッキーネタ引きずるんだよ」


「最後までネタという名のチョコがたっぷりだぜ」


「それトッポな」


 そこでチャイムが鳴り響く。今日はテスト返却がある。


 そうして、次々とテストが返される。10教科の学年末テストだ。最後には学年順位が書かれた通知表も貰える。


 俺は一つ、この世の不思議があるのだ。何故、結菜と春樹はあんな頭なのに毎度俺より順位が高いのだろうか?


「結菜!何位だった?」


「ひひっー、12位だよ!」


 この学校は約400人。流石結菜と言ったところ。ただ理解は出来ん。何故俺はこいつらに一つも勝てないのか。


「俺は7位だ!前回より上がったね」


 結菜は100歩譲としてコイツに関してはガチで何でこんなに頭がいいのか分からん。サッカー部スタメンだぞ。いつ勉強してんだよ。


「海斗は?」


「39位だ。まあいつも通り」


 おかしいだろ!俺はコイツらがイチャコラしてる間に勉強してるってのに!結菜が少し考えたように言う。


「素数だね」


 素数じゃねーよ。続いて春樹も続く。3でも13でも割れるだろ。


「39の倍数だな」


「そりゃ39位だからな!」


 俺、こんな奴らに負けてんのかよ。


「神崎ちゃんは何位だったの?」


 そう言えばあんまり知らないんだよな。神崎さんのこと。何となく春樹よりは上な気がする。そうであって欲しい。


「私ですか……?お恥ずかしながら……408位です」


 408位?!?!お恥ずかしすぎん?!流石に失礼か。


「そのキャラで?!」


 キャラとか言うなよ。因みに細かく言うならこの学年は412人なので下から5番である。そのキャラで?!


「留年とか大丈夫なの?」


「はい、一回まではいいよって親に言ってもらってます」


「その答えがよくないじゃないですか!」


 予想斜め上の回答に声が出てしまう。一回まではいいって、赤点みたいに……。


「いいんです。山瀬くんと過ごした数ヶ月、とても楽しかったですから。私のことは置いて、先に進学してください。すぐ追いつきます」


「追いつくとかいう制度ないでしょ。あとなんですかその感動の別れみたいな」


 神崎さんのキャラ崩壊と同時にツッコミにジョブチェンジされると収集つかなくなるから辞めて欲しい。


「無理よ!海斗はともかく神崎ちゃんを置いてなんていけないわ!」


「ナチュラルに俺をディスるな」


「そうだぞ!海斗はともかく!」


 もういいよ。泣くぞ。


「二人とも……そうだよね。私には友達が二人もいるんだもん。追試がんばるね」


「絶対俺、はぶられてる!そんなに俺のこと嫌い?!」


 なんか目頭が熱い。泣きそう。ちょっと可哀想すぎない?もっと優しくしてよ。


 海斗、悲壮の短歌、詠みます。

『はぶられる 四人組でも はぶられる 奇数じゃないのに はぶんなよ!』(自余り)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る