episode6.休み時間(転校生もあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいとの幼馴染、春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 これはそんなバカップルの、休み時間の1話に過ぎない。


「あけおめですね、山瀬くん」


「そうですね。今年もよろしくお願いします。神崎さん」


 二学期後半から俺たち3人にプラスαで神崎さんがよく会話に混ざるようになっていた。俺からしたら嬉しい限りだ。


「神崎さん、あけおめ」


「神崎ちゃんあけおめー!」


 春樹に続き結菜も新年の挨拶を交わす。結菜の机に春樹が腰掛け、俺も壁にもたれかかる。春樹がそんな俺たちを見て明るく声を上げる。


「この4人って無敗の陣だよな」


 なんか頭悪そうなセリフだな。結菜もそう思ったのか説明を促す。


「どう言うこと?」


「俺たちそれぞれに役職をつけるとするだろ?俺と結菜が[ボケ]海斗が[ツッコミ]そして神崎さんが[ヒロイン]。な?」


 4人中4人が非戦闘要員じゃねーか。あとボケ2人もいらんわ。足手纏いだろ。まあそれはツッコミも一緒か。


「ゴブリンにもボコられるだろそれ」


「って言うか流石にバランス悪いよね」


 結菜の言う通りだ。大道芸でも始めんのかってレベルのメンツじゃん。


「私は[ボケ]じゃなくて[ヒロイン]だと思うの」


「どっちしゴブリンにもボコされるって!」


「試してみるか」


 俺のツッコミに訳分からんことをほざきだす。


「クッソ!ゴブリンの群れに囲まれちまった!海斗、前線頼む!」


 またなんか始まったぞ。俺はとりあえず春樹の前に立つ。俺は前衛らしい。


「ゴブリンってペットボトルに似てるよねー」


「ボケなくていいから」


 早速結菜が役職の能力を遺憾無く発揮している。俺も役職通りにツッコむが収集つかねーぞこれ。てかボケからヒロインにジョブチェンジしたんじゃないのかよ。


「じゃあまず海斗、突っ込め!」


「あっ、ツッコミって物理?!」


 ツッコミながらも3歩ぐらい前に出るけど既に何やってるか分からない。


「よし、神崎さん!テレポート!」


「テレポート使えるなら俺突っ込んだ意味ねーじゃんか!」


 俺の何度目かのツッコミは聞かず、神崎さんも苦笑いしながらテレポート!と小声で吐いた。


「海斗ぉぉぉ……どうして、こんなのってないよ」


 誰が置いてきぼりにしたと思ったんだ。結菜が椅子から崩れ落ちる。だいぶ熱が入ってきましたね。


「結菜。あいつは俺たちを逃すための時間稼ぎをしてくれたんだ」


「いや、テレポートに時間稼ぎいらんだろ。世界観知らないから分からんけど」


 詠唱もなく、テレポートって言っただけだし置いていかれたとしか思えない。


「私たち、海斗のために何かできるのかな?」


 テレポートで助けに来いよ。まだワンチャンあるだろ。


「海斗はもう帰ってこない。でも海斗のことは忘れないようにしよう」


「そうだね、私たちの子供には……」


「待て待て待て!もうちょい俺の死に悲観しろよ!立ち直るの早いって!」


 隣では神崎さんが必死に笑いを堪えている。でもまあ子供の名前を海斗にしてくれるならまだ出番あるのか。


「私たちの子供には、田中って名付けよう」


「誰だよ田中!そこは海斗ってつけろや!」


 まず田中は名字だ。田中が下の名前は俺の知る限り存在しない。居たらごめん。


「ピーンポーン……誰だろ?」


 春樹が口でインターホンの真似しながら新しい風を吹かせて来た。これ以上要素いらないんだよ。


「まっ!魔王?!下がれ〜!」


「設定が想像の数段上なんだよ!」


 てか魔王律儀にインターホン押すのかよ。なんか嫌だな。


「俺がここは食い止める!結菜と神崎さんは田中を連れて逃げろ!」


 もう田中生まれてんのかよ。と言うかテレポート使えよ。


「何言ってるのよ。仲間を置いてなんて行けないわ」


「どの口が言ってんだ」


 結菜が春樹の隣に立つ。もうそろそろ終わらない?


「ちょっと待て、お前……なのか?」


 ラスボスが知ってる感じのやつあるけど!!情報量が多すぎて入ってこないわ。てかこれ俺なんじゃね?


「お前……なのか?かえでだよな?」


 かえでと言う名を聞いた瞬間背筋が凍る。


「おい、その名前を俺の前で出すな」


 俺の呟きで場が静まり返る。


「そんな怒らなくても良いじゃん」


「嫌いなんだよ」


 俺たち3人の幼馴染の1人。紅葉もみじ彼女は中学2年の時に隣の県に引っ越していて、おそらくもう会うことはないけど。


「ま、海斗は紅葉のこと意識しまくりだったからなー」


「山瀬くんの初恋の人ですか?」


「違いますよ。単に嫌いな奴ってだけです。まあ、もう会うことないんで気にしなくて大丈夫ですよ」


 俺の声と同時にホームルーム開始のチャイムが鳴り、それぞれが席に着き始める。


「3学期から、転校生がこのクラスに来ます」


 教卓に手を置き、先生が新年早々、話のネタを持ってきた。まさか……。嘘だろ。この流れ……


 先生の「入れー」の声と同時に茶髪でボブの女の子が入って来た。そして髪を揺らしながら一声。


「初めまして、山口 田中です」


「誰だよ!んで下の名前、田中のやつ出て来ちゃったよ!!」


 この後教師に怒られたのは言うまでもない。

 

 

 

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