episode5.お泊まり会(恋話もあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいとの幼馴染、春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 これはそんなバカップルの、お泊まり会の1話に過ぎない。


「出来たよー!」


 キッチンの方から結菜の声が聞こえ、俺と春樹は急いでリビングに向かう。既に机にはフランス料理的な夜ご飯が並べられている。


「良い匂いだ!」


「だな。流石結菜」


 料理、スポーツ、勉強。全てにおいて合格点以上。それに春樹というイケメン彼氏もいるのだからもう何においても勝ち目がない。頭はアレだけど。


 今日は半年に一回のお泊まり会。毎年、年末とお盆に結菜の別荘で開かれている。俺の役目はこの2人が早まってチョメチョメしないか監視することである。なんだよチョメチョメ。


「ふぅー、美味しかった。風呂沸いてたよな?結菜、一緒に入るぞ」


「ざけんな。せめて俺のいないところでやれ」


 結菜の肩に右腕をかけ、風呂まで向かっている春樹に待ったをかける。


「でもよ、俺の可愛い結菜を海斗と2人きりにできる訳ないだろ?死んじゃうぞ?」


「一応聞くけど死ぬのどっちだよ」


「俺だ」


 なんでお前が死ぬんだよ。マンボウかな?でもまあ春樹の言い分もわかる。不安で死にたくなるのだろう。これもうウサギだろ。


「はいはい、男2人で入ればいいでしょ」


「そうなりますよねー」


 いつも通り俺と春樹が一緒に風呂に入る。中学の頃は俺も春樹とサッカー部に所属していたのだが、しんどくなってやめた。何が言いたいのかというと俺も微妙に筋肉があるということだ。


「海斗、良い肉してんじゃねーか。これは……豚肉か?」


「バカにしてんのか」


 因みに豚は8割が筋肉らしい。じゃあ褒め言葉か。それは流石にないな。


 風呂のドアを開けると露天風呂がっ!ってほどではなく、1人が洗って1人が湯船に浸かれる程の普通のお風呂だ。


「しっかし、見るたびに海斗の子海斗こかいとは成長してるなー」


「なんで覚えてんだよ気持ち悪ぃ」


 あと子海斗って言うなよ。湯船に浸かりながらバッキバキの春樹の腹部を見る。こりゃ、おったまたま。間違えた。おったまげた。


 見事に割れたシックスパック。胸筋が凄まじい。肩幅も大きいはずなのにスレンダーで、全体的にシュッとしている。


 春樹の全身を堪能したあと、俺も体を洗い風呂を出る。入れ替わりで結菜のサービスタイム。俺は暴走する春樹を止める係。前回は指の骨が二本折れた。これマジ。二つの意味で骨が折れる。


「頼む!音だけでも聞かせてくれ!もう俺の子春樹が大春樹なんだよ!」


「うっせぇ!大人しくしてろ!入ってるって事実だけで大きくなるんだったら音聞いたらどうなるんだよ!」


「骨が折れる」


「それ、折れるの俺の骨だろ」


 今回は何とか無事にお風呂タイムを終えられた。寝室は同じなのだが、両端にベッドがあり、その間の敷布団で俺が寝る。これで2人の暴走を止められる。


「じゃあ恋話でもしよっかー」


「だな。今回の議題はやはり!どうなる海斗?!神崎さんとの愛の行方、ラブラブチュッチュのヘキサゴン〜だな」


「後半わけ分かんなかったぞ」


 春樹結菜が両端、俺が真ん中のいつもの位置で寝床につく。ここでおしゃべりするのもいつもの流れだ。


「でも実際神崎さんあると思うんだよねー。海斗のこと好印象ではあるでしょ」


「適当言うなよ。調子乗っちゃうから」


 神崎さんと関係を持ちたいのは間違いない。でも神崎さんから好印象ってのはないだろう。何てったってポッキーがポキッだぞ。


「はー、あのな海斗、恋心ないやつにポッキーゲームしようとするやつがいるか?仮にいたとしても神崎さんはそのタイプじゃないだろ」


「確かに……」


 春樹の言う通りだ。間違いなく神崎さんはフェアリータイプ。俺悪タイプだから効果抜群じゃねーか。


「な?乙女心を分かってやれよ。女だろ?」


「男だよ」


「ミニスカ履いてたのに?」


「結菜が履かせたんだろ」


 あのミニスカをタンスにしまってある俺は丁寧なのかバカなのか。おそらく後者だろうな。


 その後も恋話に花を咲かせ、日を跨ぐ。もう寝ようと言わんばかりに結菜が提案した。


「しりとりしよう!」


 これまた定番の流れだ。寝る前の恒例行事まである。


「じゃあ俺から!結菜の!」


 春樹の第一声に俺も続く。当たり前のように結菜から始まるのはもう諦めた。


「な?……泣き虫の


「春樹の


「早速おかしいだろ」


 1ターン目からイレギュラー起こりすぎだろ。しりとりのルールしってるか?


「俺か、えーっと、結菜愛してるの、


「愛を伝えるゲームじゃないんだよ」


「私も愛してるの!」


「俺のターンないじゃん!」


 いよいよ俺が始めたゲームがしりとりだったのか怪しくなってきた。


「あっ、海斗で終わったー。負けー」


 どうやらしりとりだったみたいだ。もう良い、寝る。因みにこれは泣き寝入りには含まれない。


「あーあ、海斗拗ねちゃった」


「しょうがない。俺たちがしりとり強すぎたのが悪い」


 2人が悪いのだけは肯定してやる。その後はおやすみと挨拶だけ交わし、寝息だけが部屋を包んだ。そして俺も微睡のなかへ……。




「もう……春樹の大きすぎっ……」


「しょうがないだろ。こんなに舐められたら立っちゃうって」


 2人の掛け合いに目を覚ます。まだ深夜だ。くっそ、こうなったらもう寝れない。コイツら寝言うるさいんだよ。今の寝言だぞ。怖いわ。


「春樹ぃ、大きいよー。ブブッッ……海斗のちっちゃ」


 どんな夢かは分からないけどウザいな。どんな夢か想像つくけど。案外結菜も欲求不満なのかもしれない。


「ほんと、海斗の器ちっちゃ」


 器の話かよ。てか俺の器はでかいだろ。叩き起こすぞ。叩き起こすとか言ってる時点で小さいか。


「無理だって……舐められたら立つのは男子だと当たり前なんだよっ!」


 春樹に関してはどう考えてもやばい夢見てるだろ。


「海斗をバカにすんなよ!マジ腹立つ!」


 俺のために怒ってくれてたのかよ。あと舐めたら立つって腹の話な。聖剣エックスカリバーのことだと思った。


 そんなこんなで一度目が覚めると両サイドから無限にボケが飛んでくる。ダメだ……今日は寝れないな。


「海斗のアレはデカいぞ!バカにすんな!な、結菜も言ってやれ!」


「ブブッッ……海斗のちっちゃすぎ」


 違う話で会話できてるの奇跡だろ。出来てないか。あと結菜はいつまで言ってんだ。


「本当なんだって神崎さん!海斗のあそこはデカいんだ!そう言って俺は海斗のズボンを下げた」


 寝言でナレーション始めやがったぞ。てか俺のズボン下げるなよ。話的に神崎さんも結菜も目の前にいるだろ。


「俺はそのまま両手で海斗の腕を押さえながら両手でパンツを下ろした」


 下すな!!んで、何本腕あんだよ、バケモンか。夢だからってやりすぎ。


「ブブッッ……海斗のちっちゃ!!あーっはっはっはっ!まって、ちっちゃすぎ!!」


 こうして俺は、無駄に傷つきながら夜を超えるのであった––




「ブブッッ……海斗のちっちゃ!!」


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