第二章 『精霊樹の復活』

ワールドクエスト

第9話 ワールドクエスト

「あ~ず~、昨日のワールドアナウンス聞いたか!」

 教室に入るなり京のやつが大きな声をあげて寄ってきた。おかけで他の皆からの視線が痛い。


「ワールドアナウンスってアンメモのか? まあ聞いたっちゃあ聞いたけど、それがどうしたんだ?」

「いやいや、どうしたじゃないよ。ワールドクエストだよワールドクエスト。正式サービスが始まって一週間、ベータ勢が必死になってワールドクエストの開始条件を探してたけど見つかってなかったんだ。それが始まったとなれば興奮もするだろ」

 更に声高になる京に教室中の注目が集まっている。


「ちょっと、うるさいよ京にアズ。もうちょっと声を落としなさい」

「げっ、委員長」

「京、『げっ』ってなによ、『げっ』って。ところで、アズもアンメモ始めたの?」

 委員長が隣に座った。


「あれ、もしかして委員長もアンメモやってるの?」


「そうそう、こいつもベータ勢なんだよ。ちなみに、二つ名もあって……ぐへっ」

 委員長のチョップが京の脳天を直撃する。

「シャーラップ、個人情報をバラすな。……お前をバラすぞ」

「ひっ……」

 なにやら囁かれた京の動きが止まった。


「委員長って剣道ばっかりでゲームとか興味ないかと思ってたよ」

 たしか委員長の家は何とか流という古くからの流派で道場も開いている。家が厳しいから、てっきりゲームとかはしないものと思っていた。


「そうそう、ウチの親父とか煩いんだけど、アンメモに関してはモーションキャプチャー?とかで協力もしててね、その伝手でベータから参加してるんだ。それに、フルダイブの中で練習したほうが効率も良かったりするんだよねー」

 現実に刀とか振り回すのは色々問題があるが、アンメモの中であれば自由に真剣を振り回すことができる。

 とはいえ、今のところ刀を手に入れることができていないため本格的な訓練には至っていないそうだ。


「で、アズもアンメモ始めたってことで良いのよね?」

「そうそう、俺の招待用ライセンスを渡した。それで、アズの方の調べ物は進んだのか?」

 復活した京に進捗を聞かれる。


「おう、図書館で調べ物をしてたら、魔法の手がかりはあったぞ。ついでに、ワールドミッションも受注した」


「えっ、ワールドミッション?!」

「てか、クエスト開始のトリガーお前かよ!!」

 教室に二人の叫び声が響いた。



 ◆ ◇ ◆



「さて、何があったのかキリキリ吐いてもらおうか」

「そうね、一切合切白状したほうが楽になれると思うわ」


 俺は昼休みの食堂で何故か二人から問い詰められていた。


「いや待てお前ら、まずは昼ごはんを食べてから話そう……」


 とはいえ、情報は大事だ。食後のコーヒー牛乳を奢らせるのに成功した俺は昨日の図書館でのルーダン魔王国へとつながる一連の流れを話した。


「ルーダン魔王国!」「ルーダン魔王国?」


「知っているのか京?」

 委員長は知らなさげだが、京は明らかに知っている風だ。


「ああ、ベータの時の夏イベントは専用の会場、というか、島で行われたんだが、その島が『ルーダン魔王国名を失った島』だったっぽいんだよ」

「ええっ、あの島って名前が付いてたんだ」


 公式には島の名前は出なかったが、とあるプレイヤーの配信の中で『ルーダン魔王国名を失った島』と判明していたらしい。


「つまり、夏イベの舞台となった島が実在している可能性が高いわけか。あてもなく探すより実際にある確率が上がったとなれば探しがいがあるな」

 滅んでるかもしれない古代の王国より復興した島を探す方が探しやすいのは間違いない。


「運営は夏イベントと見せかけてプレイヤー総出で島を復興させたと」

「西の方に魔王国があるとして、東の方はどんな国があるのかな?」

 委員長は東の方が気になるようだ。


「図書館の司書さん、エルフのお姉さんだったかの話だと東西にそれぞれ国があるんだろ。となると東側にも別なワールドクエストがありそうだよな」

「でしょ! 京とアズが西に行くんなら、やっぱ私は東ね。東のワールドクエストを探すことにするわ」


「そうは言ってもワールドクエストって簡単に発生するもんじゃないだろ?」

 気合を入れている委員長には悪いがそうポンポンとワールドクエストが発生しても困るだろう。


「「いや、お前が言うな!」」

 息の合った二人からツッコミが入った。


「まあ、アズの引きの強さは置いといて、まだレベル上げとかしてないんだよな?」

「図書館行っただけだからな。魔法覚えてからレベ上げしようと思ってたんだが当てが外れて困ってもいる。ほら、魔法が無いせいで魔法用の杖とかも売ってないんだよ」


「杖なら自分で作れそうじゃない? ほら、今ならトレント系がいっぱい出てくるし」

「そのモンスターを倒すための武器の話をしてるんだが?」


「ほら、街近くのモンスターなら殴れば倒せるし、アズでもやればできるよ」

 くっ、脳筋武士め。こちとら、ひ弱な魔術師マジシャン(自称)だってことを考えてないな。


「けど、流石にアズもレベル上げをしといては貰わないとな。まあ、アンメモの場合はMPを稼いでレベルをあげるって方法もあるが……」

MPでレベルを上げるって?」


「あれ? 基本的なところの話なんだけど調べてない……ってかアズは調べないやつだったな」

 初見プレイを楽しむと言って欲しい。


 京に説明してもらったところ、アンメモにおいては一般のRPG等で言うところの経験値やお金が同じ扱いで、Memoryメモリー Pointポイントと呼ばれるポイントになっている。

 つまり、モンスターを倒して手に入るのはMPであり、このMPを消費してレベルを上げることができる。

 また、MPは通貨の単位にもなっており、MPを使用してアイテム売買もできるということだ。


「今のレベルキャップは30にだけど、コトの街に移動するだけなら10あれば充分かな」

 京と合流するのはコトの街ということにして、レベル10にするのに必要なMPを調べる。


「レベル10にするだけなら手持ちのMPで足りそうだな」


「はあっ?! 初期で貰えるMPだとレベル2にも上げられなかったと思うんだけど、正式サービスだとそんなに貰えるの?」

「いや、色々情報料として情報クランの人にアイテムやらMPやらを貰った」


「アズ……あんた何をしでかしたらそんなことになってるのよ」

 結局、ゲーム開始からの一連の出来事を洗いざらい委員長に話している間に昼休みが終わってしまうのだった。


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