第8話 王立図書館3

「ウェルカムトゥアンメモリーワールドへっと」

 妹のセイも出かけていたため、簡単に昼食を済ませて速攻でアンメモに戻ってきた。


「……なんでコイツがここにあるんだ?」

 宿屋の部屋に備え付けられた小さなテーブル、その上には先程見た覚えがある黒い栞が鎮座していた。

 黒い皮の本体に金の縁取りがされた高級感のある栞は間違いなく司書さんに預けた筈のものだ。


「どこにでもあって良いような質の栞じゃないよなコレ。となると渡したのに着いてきた?」

 いやいや、栞が着いてくるって何だよ。とりあえず、図書館に行って渡した栞がどうなっているか聞くに限る。



 ◆ ◇ ◆



「アズさん、おかえりなさい。早かったのですね」

 図書館の受付は二人いたが午前中と同じ森精霊エルフの女性から先に声がかかった。


「あ、戻りました。えーと、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 栞のことを聞こうと思い名前を知らないことに気がついた。


「あら、名乗っていませんでしたかね。私、ラナ王立図書館の司書兼、館長を務めているネーメと申します。以後、よろしくお願いします」

「あ、えーと、こちらこそよろしくお願いします」

 若干偉そうとは思っていたが、まさか館長だとは思いもしなかった。


「ところで、これなんですけど……」

 マントの内側から黒の栞を取り出してネーメさんに見せる。

「えっ、二枚目ですか? って、違いますよね。ちょっと確認してきます」

 ネーメさんが慌てて奥に引っ込んだ。


 程なくして、若干難しい顔して戻ってきた。

「やはり、拾得物の保管場所からはなくなっていました。おそらく、その栞は所有者限定効果が付与された魔導具の類と考えられます」

「魔導具? というか、所有者限定ってなんですか?」

 こんな栞が魔導具と言われても意味が分からない。それに、所有者限定付与ってのが付いていたとして、何で俺が所有者になっているか意味不明だ。


「所有者限定は高価な魔導具や武器等に付いていることがある効果ですね。所有者以外が使用することができなかったり、高度なものになると、その栞みたいに持ち主から一定以上離れた場合に持ち主の元に戻ります」

「それはすごい便利な効果ですけど、栞に付いていて便利かは微妙なところですね」

 本に挟んだ栞がいつの間にか手元に戻って来てしまった場合、それは栞としての役目を果たしているのだろうか。


「まあ、古い魔導具ですと無駄に高機能なものも多いですから。ともかく、所有者限定でアズさんが所有者認定されているってことは元々の持ち主はもういないということですので、落とし物ではなくアズさんが使用されて問題ありません」

「はぁ、なんだか棚ぼた的に手に入れてしまいましたけど、ありがたく貰っておくことにします」

 貰えるものは貰っておくに越したことはない。


「ところで、アズさんは魔法について調べられているんですよね?」

「そうです! あ、すいません、午前中も調べたんですけど全くと言っていいほど手がかりがなくて困ってたとこです」

 結局のところラナ王国の歴史上には魔法の話は全くと言っていいほど出てこなかった。魔導具についてもダンジョンから時々発見されるものでしかなかった。


「それでは、『ルーダン魔王国』については何か読まれましたか?」

「『ルーダン魔王国』? いや、魔王国どころかラナ王国以外の国の名前は初めて聞いたかも」


 そもそも、『ラナ王国建国史』にかかれていたラナ王国はかなり小さな王国だ。周囲のモンスターも強いため、その領土も中々広がることはなかった。近年になり、来訪者プレイヤーが現れたことにより周囲への開拓を始めたばかりとも言える。

 そのため、外交的な意味での他国との交流はほぼなく、『ラナ王国建国史』にも他国の情報は載っていなかった。


「ラナ王国の外の世界についてですが、東西にそれぞれ国があると伝えられてはいます。最も実際に交流があるわけではなく、稀に迷い込んで来た旅人によってもたらされる情報によるものです」


 そう言ってネーメさんは受付の裏から一枚の地図を取り出してきた。

 しかし、そこに記されている範囲は広くはない。


「王都ラナの北にはコトの街があります。コトの街は近年開拓された街でもあり、以前ははじまりの街と呼ばれていました。コトの街の東には湖があるそうです」


 王都ラナの北東、コトの街の東には湖の一部が記載されている。ただし、湖の全体像は分からず、東側は未知の領域だ。というより、ラナ王都は北以外の三方は山に囲まれており、その先は未知の領域だ。


「西の方には海があり、古代には『ルーダン魔王国』が治める島があったと言われています。そこに住む魔族は精霊樹を信仰しており魔法を自在に操ったという伝説があります」


「『ルーダン魔王国』に魔族、そして精霊樹と魔法か!」

「そういえば、アズさんは魔族ですから魔法が使えるようになるかもしれませんね。魔法の手がかりを求めるのであれば、精霊樹とルーダン魔王国を探して西の方へ向かってはいかかがでしょうか?」


―― ピコン!


 軽快な音と共に目の前にクエストメニューが開いた。


―― ミッション:精霊樹を探そう

   ミッションを開始しますか?

   Yes ・ No


「そうですね! 俺、精霊樹とルーダン魔王国を探して魔法を使えるようになってみせます!」

 遂に魔法習得の手がかりが現れた。これはミッションをこなすしかないと勢いよくYesを選ぶ。


―― プレイヤーがワールドクエストのミッションを開始しました。

   これによりワールドクエスト『精霊樹の復活』が開始されます。


「んっっ! 今のはワールドアナウンス?!」

 突然聞こえたアナウンスに辺りを見回す。

 どうやら、ネーメさん達には聞こえていないようで慌てた俺を見て怪訝な顔をしている。


 始まってしまったワールドクエストとミッション。この情報をどう扱うかは後回しとすることにして、ネーメさん達にお礼を言って図書館を後にした。
















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