第32話 効果検証

 まずは図の数が少なく、魔力を込めたものを使用する。理由としては怪我の具合が酷いため、最も治る可能性が高く最も治療効果が高いと思われるものだからだ。数が少ない葉が素材となったものから使用していく。

 被検者である男性は意識がはっきりとしていないのか反応がない。横にいた救護兵長をみると頷かれたため、ロルカはスクロールになっていない陣が書かれただけの紙を取り出す。


「発動、実験15」


 図が光ると欠損した部分から盛り上がり、包帯がちぎれていく。


「次からは創部は露出させた方がいいかも」

「こう簡単に治るとは」


 欠損していた腕と足はきれいな状態でも生えていた。ほかの包帯を巻いていた部分も救護兵が確認し傷が治っていること確認する。


「すごいですそれ」

「これがあれば僕らの仕事は減るかもしれないけど、けが人が治せるなんてすばらしい」

「負担なく治療ができるなんて」


 それぞれ見ていた救護兵から感想が出るがおおむね良好的な意見がほとんどだった。


「何とか治せてよかったです」


 調べた内容や事故にて実験したことから治療の効果があることは疑っていなかった。ただ、それがどれくらいの魔力で発動するかわからないため、一番発動する可能性が高いもので試した。発動することはわかったからあとは魔力が余剰なのか適量なのかを精査していく必要がある。上級魔石が必要となるとその時点で高級なものとなる。


「なかなかだなぁ」

「まあまあだったな」


 双子を無視し、被検者だった相手を見る。包帯が解かれた今、比較的整った容姿をしていた。だが、傷は治ったが目を覚ます様子は見られない。


「傷は治ったけど目を覚ます様子がないことも記してもらっていていいですか?」


 救護兵が何やら脈などを測っているが、専門ではないロルカにはわからない。


「この患者さんは今どうなんですか?」

「傷が治りしましたし、呼吸状態やそのほかの数値も安定しています。目を覚ますのも時間の問題かと」


 救護兵長に曖昧に尋ねるとしっかりとした答えが返ってきた。ひとまず安定してそうなのでほかの方へ治療を開始する旨を伝え場所を移動する。引き続き救護兵長が案内してくれるらしく、どこか機嫌がよさそうだった。


「ここです」


 先ほどのような個室ではなく、ベッドが横並びとなている部屋だった。先ほどの人のように重症ではないが、回復薬を使うと体調に影響を及ぼすくらいの怪我で経過を見ている人たちだった。


 意識がはっきりとしている人も多く、ロルカはあらかじめ説明しておく。治療実験であり、必ずしも治るとは限らない。実際一人目のように治った人もいるが、あくまでも運がよかったにすぎないということ。



「発動、実験1」

「発動、実験2」

「……」

「発動、実験11」

「発動、実験12



 治療ができないことが多く、一人目で動くことはなかったが、一人の人ばかりずるいとのことで一人一回ずつ使用して回るようになったが、思った以上に芳しくない。

 結局若い数字の方から順番に陣をためしていくも、一人目の時に発動したのが嘘みたいにその後一つも発動することなく実験を終えてしまったのだった。



「一人治っただけでも良かったんじゃないか」

「あんまり落ち込みすぎるなよ」


 と気まずさそうに慰めの言葉を置き、実験の最後まで付き合ってくれた双子はどこかへと行ってしまった。ずっと付き添ってくれた救護兵長は反対に機嫌がよさそうなままだった。ロルカは期待した表情が落胆した表情を何人も目にしてしまったことで申し訳なさとふがいなさを感じていた。


「思ったより全然で申し訳ないです」

「いえいえ、そんなことありませんよ。たった一人と思われているかもしれませんが、一人治せただけでも非常に素晴らしい結果だったと私は思っています。なので、ありがとうございました。本当に感謝に堪えません」


 今まで数多の実験を行い、失敗もそれなりに経験してきた。そんな中で結果的に人の命を救うスクロールも作製してきたが、自分の目で直に見るのは堪えるものがあった。だが、その結果から見えた課題も見つけることができたため悪くはない。


「まだ突き詰められることがある」


 落ち込む前に出来ることをすべく王城を辞した。



 朝早い時間から出たために城を出たころはまだお昼くらいの時間帯だった。メイン通りは活気にあふれており、人が多く行きかう姿が見える。


「人多すぎ」


 引きこもり性質なロルカはいろいろな店をみるという好奇心より、人が多くてめんどくさいという気持ちが勝り、早々に路地へと進む。引きこもり性質とはいっても以前に比べ早朝には走っている時間も作るようにしているため、依然と比べても健康的な生活をしているともいえる。

 まだまだ運動の効果は感じないが、人通りの少ない路地を進みお店へと向かう。


「葉からとれたやつで魔力を入れたやつだけが発動した」


 考えられるのは単純に魔力不足。必要最低限の図で上級魔石で何とか発動できるくらいの魔力が必要。これに方向の指定や対象の複数化を図るとなると圧倒的に魔力が足りない。魔力の余剰であればよかったが足りないとなると問題が多くなる。


「回復薬と異なり、治療には大量の魔力が必要」


 予測が立ってしまえばなるほどと思える結論だ。何事も代償なしに望むような結果を得られるはずがない、かつて師もよく言っていた言葉だ。回復薬は代償として体力を消耗し、聖魔法による治療は代償に大量の魔力を必要とする。


「スクロールだと上級……のまだ上の分類になるかな」


 ただ、次の素材入手の目途もたっていないためそちらを解決するのが先決だろう。実験の続きをしたくても素材がなければ話にならない。

 道すがら考えをまとめるように歩みを進め、ようやく店へとたどり着く。導き出した推論と今回の結果の経過記録を研究ノートへと書き写していく。


「あの双子。今度会ったらただじゃ置かない」


 記録を請け負ってくれた双子の記録は最初の一人以外は全然書かれておらず、落書きだらけとなっていた。とはいっても最初の一人以外は特筆すべき点はないような状態であり困るものではない。それでも研究員だというからお願いしたらとんでもない記録になってしまった。


「やっぱり本は読まず返す」



 一通り清書し、枝をどうするか考える。一応大宰相から許可を得ているので植えてもいいが。


「よし、植えるか」


 裏庭へと向かい、最初に植えようとした場所よりもう少し離れた場所へと植える。水をかけるとわずかに動きを見せるが、昨日のように成長はしなかった。


「しっかりと根は生えているけど葉は生えない」


 驚異的な根の成長は異常なほどであるが、枝自体はあまり変化が見られない。


「正体不明の聖なる枝、結局これの事はわからないままだったなぁ。葉っぱ一枚くらい生えてくれればそのままもう一度実験するんだけど」


 ままならないもんだなとロルカは感じた。

 一応成長記録も取るべく枝を持ち上げてみたり横へと力を加えてみる。植えたばかりとは思えないほどの力で根を張っておりロルカ一人での力では到底抜けそうにない。山崩しのような見た目からは想像つかないほど頑丈であり、枝を傾けようともビクともしない状態だ。



「うん、何かあってももう抜けない。無理」


 下手なりに絵も描き、詳細に記録していく。ついでに今朝できなかった庭の手入れも行っていく。日ごとに寒くなってきているようで、早朝に行っていた水やりも昼間にするように時間をずらさないとそのうち根が凍るようになるだろう。空が高く澄んでいる。


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