第31話 おかしな二人組

 翌日、朝の準備をしていると店の方からドアノッカーの音がした。慌てて今着ている服装を見直し、ロルカはとりあえず外に出てもおかしくない格好かを確認する。髪を手櫛でときながら、店の扉の方へ向かう。聞き耳を立てるも扉の向こう側からは声は聞こえない。


「どちら様でしょうか?」

「王城の使いできた」

「以前会ったことがあるククとナナだ。今日は伝言と物を預かってるぞ」


 聞こえてきた名前に随分と時期が悪いなと本の方へを視線を向ける。昨日借りた本を見て名前を再確認する。出来れば借りているところを見られたくはなかったが仕方ない。


「おはようございます」


 相手がわかったことで扉を開けると不機嫌そうな同じ顔が二つ並ぶ。


「わざわざ私らが伝言を預かったのだ」

「光栄に思うといい」

「……要件は?」

「話は長くなる」

「お茶くらい出してくれるよね?」


 そう言われ渋々店の中へ通す。どうやらこの双子はどこかで常識とやらを落として育ったらしい。常識人かと問われれば違うと答えるロルカであってもここまで不遜な態度は普通とらない。苗字を聞かなかったが恐らく貴族……? そう思い出し本へと視線を向けると家名が書いてあった。貴族だとしたら貴族に一般市民の常識を解いても仕方がないかとため息をこぼす。


「ほうほう、勉強熱心だね」

「ん? んん? ふむふむ」


 ロルカの視線が気になった二人はその視線の先に自分たちの著書があることに気が付く。ただ背表紙に管理番号が書かれている事が目に入り、図書の貸出本だという事にも気が付いたようだった。


「私らの本を借りて読んでいるなんてなかなかじゃないか」

「見直したぞ。どうだったか?」


 純粋に嬉しそうに聞いてくる双子に対してロルカは罪悪感を抱く。借りてはいるけど読んではない。読んでも良かったのだけど昨日はそれよりも優先すべきことがあったし、今日もそうだ。それになんか読みたくない気が湧き出てくるが。いや、それにしてもこの喜びようは歳下に見えるな。


「昨日夕方借りたばかりで、今日読もうかと……」

「そうかそうか、なかなかいい出来だからきっと参考になるだろう」

「まとめるのなかなか大変だったから」


 次回会う時があったら根掘り葉掘りと聞かれそうだなとロルカは思った。仕方なしに読むことを決意する。


 双子を席へ案内し、お茶の準備をする。


「して、今日はどういった要件で?」

「ああ、これだ」


 そう言って渡されたのは昨日の枝。ただ昨日とは様相が異なり、根の部分は丸々切除されている。


「研究は終わった。面白いものだった」

「なかなか興味深いものだったけど個人の持ち物とあっては仕方ない。返却しに来たのだ」

「では結果を聞いても?」


 まさかこの二人に調べてもらうなんて予想もつかなかった。ましてや直接来るなんて本の事といい間の悪い双子だ。


「端的にいうと本物かどうかはわからない」

「伝説上の見たことない物を確証をもって本物とは言えないということ」

「それでこれがどういった物か調べたんだが」

「聖なる属性を持っている事から変なものではないということは自信を持って言える」

「ましてや傷を治すことができたからな」

「宰相様からは」

「植て良しとの言伝ことづてだ」


 双子が矢継ぎ早に話していく。双子だけに言いたいことは被っていないし、どうやって考えているのだろうか。それにしても城の研究員と同じような結論に至るとは思わなかった。


「一応何か変化があったら城へ報告してほしい」

「何か質問はあるかな?」


「……回復のスクロールを試作したので実験がしたい」




 なんだそれ、面白そうとの双子の反応でロルカの準備が出来次第王城へ向かうこととなった。上機嫌の双子に負けないほどロルカも上機嫌であり、まさかすんなり要望が通るとは思わなかった。

 それにしても研究員であり貴族でもあるのだからある程度あの双子は権限を持っているのかもしれない。


 双子の家名はアストラル。優秀な頭脳を持つ文官を輩出する家系で、古くから王家に仕えている由緒ある家柄。それが二人の家名だ。詳しい貴族情報を知らないロルカでも知っているほどの有名な家と言える。


「早速訓練場に向かおう」

「もう訓練は始まっているだろうし」

「もしくは救護室でもいいのかもしれない。魔物との戦闘で怪我をしている場合もある」

「どうする?」

「えーっと、おすすめは?」


 聞かれてもわからないロルカはご飯屋の注文のような返答をし、救護室へ向かうこととなった。

 訓練場に併設されているわけではなく、王城の比較的入口付近に位置する。訓練で怪我しても大体あるいてこれる怪我しかしないし、訓練場ごとに併設となると救護兵も分散してしまう。なので一か所に固めたほうが都合がいいし、何より一番怪我が多いのは魔物との戦いだ。必然的に出入口近い方が実用的となる。


 さほど歩かずに目的地へとつくが、救護室の中は異様な雰囲気となっていた。


「ここが救護室だよ」

「さあさあ、患者はどこかな?」


 場違いな双子のテンションにこういった場所では静かにしてほしいなとロルカは思った。


「失礼します」


 一目見て感じたのは重傷者ばかり。少し見ただけでも顔や頭部に包帯を巻いている人がちらほらいる。寝具がかけられて見えない部分も多いが、きっとその下は包帯が巻かれている事だろう。


「まずは比較的軽い方で検証したいです。うまく発動するかわかりませんので実験希望者を募る形で」


 雰囲気を悟ったのか双子はしぼむように大人しくなり責任者に話に向かう。

 ロルカは別な救護兵に使っていい台を聞き、記録用にと台の上にインク瓶などを置いていく。


「ロルカ、比較的軽い人から使いたいって提案だったけど、救護兵長が重傷者からお願いしたいってさ」

「治る可能性があるのであればそれに懸けたいって」

「わかりました、話を聞きに行きます」


 どうやらここに寝させられている兵は欠損部位のある怪我をしている人ばかりで、回復薬では治療ができない人だという。かといって兵士復帰も困難な状態であり、国が世話をしている人ということだった。片腕だったり、片足だったりでも元気に生活をしている人もいるが少数派だそうだ。


「あくまでも試作品なので成功する可能性は低いです。そこはご理解ください」


 ロルカは念押ししておく。期待を持つなとは言わないが希望を持たないでほしい。変に希望を持つと希望通りにならなかったときに落胆が大きくなる。


「あとは個人的に怪我の具合と回復具合も記録を取るつもりです」

「それなら記録は我々がやろう」

「書いてほしい言葉を言ってくれたら私らがか記録しようではないか」

「ククさん、ナナさん、ありがとうございます」


 連れていかれたのは最初に入った部屋ではなく、奥の個室のような場所だった。ほとんど全身包帯が巻かれており、右腕は肩から先がなく、右脚は膝下からない状態だった。



「では、実験を始めていきます」


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