第30話 わかった事と実験の続き
本を読み終え図を考える。結局双子の著書には目を通さず、欲しい情報は手に入ってしまった。とにかく早く試したい属性がわかり、回復の事象も理解した。あとは図を新しくロルカが考えて創り、回数を重ねるだけだ。双子の著者はよほど時間がある時じゃないと読まないだろう。
ただ、回復薬とは異なる治療方法で肉体の復元を行う。事象はわかったが、そういった事象を起こす図を一から創らなければならない。師がそういったものを持っていた記憶もない為、完全にロルカオリジナルとなる。
「いや、そもそもこれだけでも回復効果があるのだから回復薬としても十分に効果がある」
しかし一番の使用層である冒険者からすると回復薬の欠点としては容器がガラス製であり荷物が嵩張るし保管に難ありといった点がある。そのため依頼の際には動きが少ない後衛が持つのがセオリーとなっており、前衛が持つことは皆無と言っていい。また一目見て回復薬と分かるように透明な容器に入っているため、衝撃に弱く耐久性が低い。液体であるがために重い為十分な量を持ち運びにくい。瓶自体は再利用することで安くで手に入るようだが使い勝手は悪いだろう。
そもそも割れ物が携帯することに向いていない。かといって
反対に利点としては回復薬として出回っているため比較的買いやすいという点のみだ。瓶の再利用は素晴らしい取り組みであるが毎回煮沸消毒が必要となる。そのためそういった専業のお店も存在しているくらいだ。
「だったら軽くて耐久性も瓶より高いスクロールにしたら需要が増えるんじゃないかな?」
しかも自然治癒力を高めるポーションと違い、魔力にて肉体の修復を行う聖属性は体力を消費しないという上位交互となる。さらに図を組み合わせることでスクロール自体の耐久性も上げられるし破損する可能性を減らすことは可能だ。
「ただ、大々的に売り出すと反発に合いそう」
先日のグレスダ屋の事といい、利権争いとなるとめんどくさいことになるのは間違いないだろう。ましてや素材の入手が限られている状況だと一人勝ちに違いない。そうなると確実に難癖付けられるし、商業組合を通して圧力がかかるかもしれない。そうすると難癖をつけられないようにするには値段を高めにする必要がある。もしくは販売を限局する。そうすることで市場の混乱は抑えられるかもしれない。
「このままじゃ皮算用。取りあえず書いていこう」
出来上がってもいないことに妄想をしていても意味がない。まずは動いて実験ができる段階へと移さなければならない。ロルカは気合を入れて作業台と向き合う。
まず基本となる円を書いていく。その中には属性の元となる図を書く必要があるのだが。
「聖属性って具体的にはなんなんだろう?」
基本となる四属性の図はそれぞれ元となる事象から形どったものだ。
「聖属性……神聖なもの。聖域。聖戦。どれも教会用語みたいだけど、神ってのは避けたい」
聖という意味が非常にイメージしにくい物であり、なかなか進まない。聖属性というものが聖なる属性という事はわかるが、それが何なの? と問われるとなんなのだろうという感じだ。
「じゃあ闇属性だったら?」
黒、暗いといった色のイメージがすぐに浮かんできた。そしてなんとなくではあるが悪い物というイメージが思い浮かぶ。
「闇属性は魔という感じかな。対して聖属性は魔を退ける効果もあるって御師様の本にも書いてあった。そうなると聖属性は……光を表すシンボルで試してみよう」
光、すなわち明るさを表す物。それは。
「太陽」
はるか昔から存在する天体。昼の明るさを象徴する物。ロルカはどうやって簡略化したものを書くか頭をひねる。傍にある雑記帳に色々な形の太陽を書いていく。丸にしか見えない太陽にどうしたら太陽らしく見えるかを考える。
「よし、これでいこう」
円の中に太陽を簡略化したものを書く。丸をかき日差しである線を斜めに数本記していく。次に起動の図を記していく。実験で使用する場合は実験と回数を組み合わせたキーワードでいつも作成している。なのでキーワードは実験1。
二つ目は事象を起こす図を書いていく。この場合人体の回復を起こしたいため、腕の一部が欠損した人体の簡略図に進行誘導の矢印を記し、その先には四肢のついている人体の簡略図を記す。
三つめは放出の図を書き、最後に定着の図を書く。
「実験するには傷をつけないといけないんだけど。普通に嫌だな」
ロルカに自傷の趣味はない。先ほどのように指先に少し血が出る程度であればできるが、今回は起動するかの確認と、どの程度回復することが可能かをみたい。そのため怪我の具合が酷くないとわからない。
自分で作製した陣ではあるが、発動するかもわからない物に対して傷をつける勇気がない。最悪、治らずそのままということもあり得る。初めて創る陣に対して絶対の自信なんてあるはずがない。スクロール作製に置いては失敗を重ねることが大事なのだから。
「よし、ある程度パターンを作っておこう」
まずは素材自体が持っている魔力でどこまで発動するかのラインを見極めるために図を一つづつ増やしたものを作製していく。次に上位魔石を混ぜたもので同じようにインクがあるだけ作製。今回は上位魔石だけを使用するが、未知の素材を使用する場合は下位・中位・高位と分けることで次回作成からの無駄を省ける。だが今回は素材に限りがある為、確実に発動できる条件を整えるために上位の魔石を使用する。
同じように葉で作ったインクも図を書きたかったがそれほど量がなかった為、魔石なしと魔石入りで必要最低限の陣二枚だけを作製した。
中心の図が起動するかわからなかったため、明かりのシンボルとなる火を人が持った物の図も数枚用意した。
「せっかく宰相が噛んでいるのだから訓練で怪我をした人に実験として使いたいな」
結構な枚数になった陣をみながらつぶやく。狂ったくらいスクロールに命を懸けている人だったら身を刻んでも実験をしただろうが、ロルカはそこまでではない。ただ自分を傷つけない範囲であれば喜んで実験をしただろう。
気が付くとすっかり夜も更けており、固まった背を伸ばすように両手を天井へ伸ばす。
「しまったな、集中し過ぎた。あっ!」
まだ店の扉に鍵をかけていないこに思い当たり、慌てて外の札をひっくり返し鍵をかける。
「新しい素材にここまで没頭しちゃうなんて……」
あくびを噛み殺しながら夜ご飯の準備すべく立ち上がる。ついでにお風呂に湯をためるべく先に風呂場へと向かう。湯舟の栓を閉め、蛇口をひねる。この蛇口はひねると湯が出る魔道具であり師の残したものである。他の市民が見たら
「あの枝の調べた結果が来てから伺いを立ててもいいけど、なるべく早く実験もしたいし。……明日朝一で伺い立てようかな」
調理の準備をしながら明日の予定を考える。作ったばかりの陣を早く試したい。そして効果の検証もしたいし、怪我人を治せるかもしれないし良いこと尽くめだよね、と変な思考に方向をけて行く。
簡素な晩御飯を食べ終えお風呂へと入る。お風呂の最中でも創った陣が失敗した時のために新たな図を考えておく。
お風呂から上がり一息ついたところ、改めて今日を振り返るとなかなかに濃い一日だったなと感じたロルカだった。
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