第21話 できることをする
「コレどこまで掘ればいいんでしょうか?」
レナの真っ当な疑問に双子は答えない、いや答えられないといった方が正しいだろうか。すでに魔力が切れており二人共倒れてピクリともしない。レナの後には王宮魔導師のサージェスという男がレナへ手のひらを向けていた。
魔力がなくなると急激な倦怠感に襲われる。レナやサージェスと比べても双子の魔力は少なく早々に切れていた。
すでに準備を終えたロルカは進捗状況を見に来ていた。スクロール作製より大変な作業で魔力を多量に使う。穴掘りよりは先に終わる予定だった。
山頂へ行くと設置型魔力あつめる君ともう一つ見覚えのない物が置いてあった。設置型魔力あつめる君はロルカ特製で人形のような愛らしい見た目をしているが、もう一つの魔道具は可愛さは全く無く、小さい置き物のようだった。
「毒素を分解する魔道具です」
頼んでいた帰還スクロールの対となる石を設置を頼んでいたドリエルが不思議そうに見ていたロルカにいう。
火山活動を休止している状態であれば毒は出ないだろうが、穴を掘るとなると危険性は高まる。見えない毒素だから用心するに越したことはない。
「なるほど」
失念していたことをおくびにも出さず、双子を一瞥し鼻で笑いながらレナへ近寄る。気にはしないが見下してきた事は忘れはしない。誰もいなかったらわざわざ踏んづけに行ったかもしれないのに。
「どれくらい掘ることが出来ました?」
「結構深いですよよ? あと幅はこれくらいでも大丈夫ですか?」
大丈夫じゃないと困りますけどね、とレナはつぶやいていたが、レナが地面に突いている両手の間には人の拳くらいの穴があった。
「これくらいであれば大丈夫です」
「双子ちゃん達が言っていたのですが、麓近くの森は生きていたことから恐らく山の中腹くらいまで魔法の行使が行われたと思うだそうです、だから深さは中腹くらいで大丈夫と。穴の深さはもう中腹には到達してると思います」
イグルが言う通りレナは凄腕の魔法使いみたいだ。離れた場所での魔法行使は緻密な魔力操作が必須となる。そして王宮魔導士も流石といった魔力量。
「ではここまでにしましょう。ドリエル隊長、お願いします」
「承知した」
ドリエルはダウンしている双子をぞんざいに扱い両肩へと担ぐ。ぐぇっと何かが潰れたような声が二回聞こえたが気の所為だろう。
サージェスはドリエルのあとを追うように立ち去った。途中ロルカを一瞥するも何も言わずに離れた。
「また会えるのを楽しみにしています」
とレナは言い残し魔道具片付けますね、と回収していった。
「さて、始めますか」
帰還スクロールを渡していたため既に先程いたメンバーは誰もいない。あとはロルカがスクロールを使用してこの場を離れるだけである。
薄紙で乾いていないインクを吸収させ乾燥させたスクロールはもう他の部分に付くことはないだろう。作製した陣を台紙に貼り付け芯に巻き付けスクロールにしていく。通常はスクロール一つにつき陣が一つであるが、今回は台紙に二つ陣を貼り付けている熱を発生させる効果とスクロール自体を守る効果だ。
きっとグレスダが見たら外道と言うくらい普通のスクロール作製者なら絶対にしないだろう。
忘れずに片側に重しとなる石を括り付ける。これによって引っ掛かり難くなるだろう。
「投下」
底につくのにどれくらい時間がかかるか分からないが暫く待つ。
「そういえば使用感を聞いておけばよかった」
貴重なランク8の魔法使いがいたのだ。ついでに王宮魔導士も。あったら助かるくらいの効果があれば実用化も待ったなしだ。
それにしてもようやく帰ることが出来る。
?
「あ、しまった」
確かに帰ると言っていたのでロルカは店にしか戻ることができない。皆もそのつもりでロルカの分は頭にはなかった。
「皆さんが帰ってくるまで結果はお預けかぁ」
やはり何事も落ち着きが大事。師はいつ如何なる時も冷静だった。慌てていた姿など見たことがない。まだまだ師のような人になるには先が長いらしい。
「そろそろいいかな」
念のためドリエルには簡易の防壁のスクロールをわたしている。爆発の規模が大きいと村は噴石等によって被害が出るかもしれないからだ。
念のため穴から距離をとる。
「火山よ起きろ」
指定していたキーワードを唱える。瞬間穴から勢いよく熱風が吹きでる。地響きが聞こえはじめ立っていられない程の揺れを感じる。問題なくスクロールが発動したことには安どしたいが、そうすると我が身が危ない。
「おわっと! 魔法諸店、帰還5」
よろけながらも急いで帰還スクロールの発動キーワードを唱えると一瞬にしてロルカの姿は消えてしまった。
ようやく一息つけるといった状況ではなく、ロルカは急いで店を出ると城壁の方へ向かう。人の出入りする付近の城壁には近づくことはできないが、有事以外であれば登ることができる場所もある。
「はぁはぁ」
息をきらし、なるべく高い場所へと向かう。
「どう、なった?」
目的とした場所へたどり着いた頃息も切れ切れといった状態であったが、北北西の方角の空をみる。
遠くからなので状況は分からないが、天を突く黒煙は王都からも見ることができた。
暫く眺めていても状況は変わらない。かと言って既に伝令も走っているだろうしただの国民の一人にしか過ぎないロルカにこれ以上出来ることはない。
黒煙から察するに恐らく火山は噴火して息を吹き替えした。あとは周囲の被害がどれくらい軽微だったかただただ願うばかりである。
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