第20話 原因追及

 双子から話を聞いたドリエルは頭を抱えた。火山が意図的に休止状態にさせられ、放置していると爆発の可能性もあるとのこと。火山が噴火ではなく爆発とは想像つかないが、甚大な被害がでる事だけ予測がつく。


 ある程度の裁量と決定権をもってこの場にいるドリエルは早急に解決策があるのであればその策を使う事を提案する。だがその解決策を聴き再び頭を抱える事となる。


「火口から穴を掘り、その内部で火属性の魔法でも使って貰えれば可能性はあります」


 どうやって掘り進めるかという問題もあるが、掘り進めていった先にいつ溶岩が出てくるかも分からないうえ、火口の奥深くで温める魔法を使うとなると間違いなく術者は助からないだろう。


 いや、一人の犠牲で済むのであれば致し方なしか? 否、国民を犠牲にするなんてもってのほか! だがどうしたらいいのか。

 隊長になれるほどの判断力があったとしても早々に手の打てる問題ではなかった。




「よっ、大変な事になっちまったみてぇだな」


 考え込んで動かなくなったドリエルを横目に依頼内容はほとんど達成し終えたイグルがロルカへと話しかける。


「どうするんでしょうね」

「逃げ出せれば楽なのに国の兵じゃ逃げらんねぇよなぁ」


 随分と気楽そうなイグルの言い分に違和感を覚える。


「ああ、こうゆう時は冒険者の身分というのはうらやましいですね」

「いや、俺等は元々この国出身じゃねぇだけだ」

「それは申し訳ありません、随分と薄情だなと思ってしまいましたよ」


 冒険者だから国を見捨てて何処かにいくと早とちりしてしまったロルカは素直に頭を下げる。生みの親を知らぬロルカにとって師だけが家族だった。その師がいなくなった今、遺された店を守る事が師への恩返しだと思っている。


 火山の爆発により国は無くならないかもしれないが大打撃を被ることはわかるし、これが人為的であれば王都はさらなる窮地に陥る可能性がある。時間が経てば立つほど農作物への被害から食料不足へと繫がるだろう。


「イグルさんたち漆黒の牙は今後どうするんですか?」

「とりあえずこの国をでて火山が落ち着くまでは近づかねぇ、それしかできねぇよ。うちのレナでも地面掘って温めるってのは不可能らしい。うぬぼれじゃねぇがうちのレナはそこら辺の魔法使いとは強さが違う。そんなレナができないってんならどうかできる現象じゃないってこった」


 これが自分の国で起こるかもしれない当事者と、他国で起こる大惨事といった認識の違いなのだろう。冷たいわけではなく、ただ事実を述べているだけなのに酷く憤りを感じる。


 価値観とは所詮主観でしかない。

 自分にとっては命にかえても守りたいものでも、他人にとっては小鳥の囀りの様にどうでもいいもの。


「そうですか」


 この見切りの速さは高位冒険者ならではなのだろう。現実的に出来ることと出来なさそうなことの取捨選択。悪い人ではないのに嫌いになりそうだ。



「避難指示をだそう」


 あまりにも当たり前で至極正論のような言葉であるが、その言葉に従わない人も出るとロルカは確信してる。魔法書店が麓近くの村にあったとしたら絶対に動かないだろう。


「私は反対です。前例がない事態、どこまで避難したらいいかわかりませんので」


 自分に力がなくとも人間らしく生きるすべを教えてくれた師、その思い出と共に死ねるのであれば悪くはない。



「ではどうしようというのかね?」


 折角の決断に水をさされ普段の丁寧さに陰りがみえるドリエル。それもそうだろう。王国の兵士とは人を守るためになったようなもの。避難は間違いなく人を守るために優先すべき事だ。


「他にも妙案でも?」


 幸いにして私には力や知恵はないが、師からもらった技術はある、それも今回の事を解決出来そうな。


「私こと、魔法書店のロルカが解決してみせましょう」


 危険な場所に人を配置せずとも魔法を使えるというのはスクロールの強味だということを。




「レナさん、地面に穴を開けられる魔法ある?」

「ドリエルさん、麓で休んでる王宮魔導師引っ張って来てもらえません?」

「双子の性格悪い研究者、魔法使えないの?」


 今すぐにでも使える手札をまずは確認する。穴さえ開けられればスクロールを使って魔法をつかえる。それさえできればあとは深さだけ。最悪穴をあけるスクロールを作製したっていい。


 なのだが。


「使えるわよ」

「使えるがどれだけ掘ると思っている!」

「魔力が持つはずないだろう!」

「とりあえず伝令を出した」


 魔力とあとは時間さえあれば行けると。


「ドリエルさん、とりあえずこれとこれ。石の方は帰還地点でスクロールは帰還スクロールね。伝令出してもらったところ悪いんですが、もっかい伝令で王宮魔導師にこれ使えって伝えてもらえます? 少しの時間も惜しいので」


 とりあえず一つ一つ時間がかかる事から始めていく。まずは役に立つか分からないが随伴していた王宮魔導師を呼び寄せる。属性によってはすぐさまお役御免になる可能性もあるが、魔力譲渡出来るのであれば使い道がある。

 穴をあけるのは土属性を扱えれば出来る。水でも岩盤を削ることは可能だが、今回は相性が悪い。


「魔力の回復には宛があります」


 次に解決すべきは魔力量。出番がなかった設置型魔力集める君を持ってくることで多少のカバーができるはずだ、多分。


「ちょっと帰ります、すぐ戻りますから」


 そう言って足元に帰還地点の石を置き、別なセットの帰還スクロールを発動させ店に戻る。

 数日ぶりに帰ってきた店は、普段と変わらず店は存在するのに不思議な感じがした。


 設置型魔力集める君とすりこぎとすり鉢をもって火山へ戻る。


「この魔道具を地面に設置すると魔力が回復しやすくなります。レナさんは双子のあれらと身の安全が保証される範囲で双子と一緒に火口に穴をあけてください」


「わかりました」


 レナさんは了承してくれたが、双子は渋々といったところ。自分達より下と思っている人間に指示を出されて面白くないだろう。


 だけどそんな事に構う暇はない。指示を出すやすぐさまスクロール作製へ移る。


「人を設置せずに穴さえ開けられるのであればスクロールでとうとでもなると思います。熱を出すスクロールにはあてがあります」

「わかったロルカ殿、出来る算段があるのであれば頼もう」

「あ、でも漆黒の牙の方々は料金外になるので国の方でお願いしますね」


 なんとも緊張感のないやり取りではあるがロルカは至って真剣だ。


 ドラゴンの素材を使用し、ロルカが作製出来る最上の火属性スクロールを作製する。拡散の図で一点に火力が集まらないようにする。耐火耐熱も忘れない。大事な持続の図も記しておく。火力を抑え広範囲に持続的に熱を放出する。そのためには素材や魔石にいいものを使わないとすぐに壊れてしまう。


 次に火属性のスクロールを間違いなく地中に送るべくもう一つのスクロールを作製する。耐火耐熱の図を記し耐衝撃の図も書いておく。


「王宮魔導師来られました」

「ドリエルさん、なんの魔法が使えるか聞いてもらっても? 土属性なら助かります、それ以外であれば魔力譲渡してくださいと」


 王宮魔導師とは関わりたくないためドリエルに言伝を頼む。一人の印象が悪かっただけに他の王宮魔導師も我が強いのではと偏見をもつ。


 案の定なんか揉めているようだったが大人しく穴掘りへと向かったようだった。

 魔法は体に近い場所で発動させると魔力消費が少なく、遠ければ遠いほど消費量が多くなる。穴の深さが深くなるにつれ掘り下げるのは大変な魔力を消費することになる。


 レナさんと双子の片割れが土属性の魔法が使え、もう一人の双子は魔力を渡していた。レナさんへも王宮魔導師が魔力を譲渡していた。

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