第19話 いざ目的地へ

「漆黒の牙は先遣隊として露払いを頼む。われわれはその後をたどって山頂まで行く」


 冒険者のランク上限は存在しないとされている。一般的に10とされているが、過去にはそれ以上のランクに到達した人物もいるという。そんな一般的から見てランク8の冒険者とは十把一絡げ《じゅっぱひとからげ》の冒険者ではない。上澄みである。冒険者としては手練れであり、こういった国からの依頼を受ける程度の実力と実績があるという事になる。


「あっという間に姿がみえなくなった」


 こういった足場の悪い山道もなんのその、ロルカの遅々とした歩みとは比べ物にならなかった。加えて学者二人も女性ということもあり比較的ゆっくりとした歩みなのは正直助かったといえる。これで男性ばかりだったとしたらきっと足を引っ張っていたあろう。


 ドリエル隊長が連れてきた十人の兵の中には護衛をしてくれた女兵士の姿もあった。


 例のごとく明け方に出発している。明け方のうちはまだ暗くてはっきりしなかったが、明るくなっていくにつれ次第に様子が違う事がうかがえる。


「灰の上に少し植物が生え始めています」

「通常の活火山ですと降灰の多い地域は植物が生える前に灰が積もります」


 と双子の学者が息の合った説明を挟む。

 説明を挟みメモをとる、その度にロルカをチラ見してくる。


「はぁ……はぁ……、みくだ、はぁ、されてる?」


 正直なところ目線をいくら向けられてもロルカはそれどころではなかった。お尻は完全に痛みが引いたわけではないし双子学者も自分と同じ《引きこもり》と思っていたが全然違う。多少の運動はしているようでロルカより全然体力があった。


「ロルカ殿、大丈夫でしょうか?」

「はぁ、はぁ。大丈夫です……おえ」

「休憩を取りましょう」


 もともと気候の影響か妙に空気が乾燥しており口が乾く。

 まだまだ中腹にかかろうといったところだろうか、先は長い。


 ロルカの着ているローブは外気温からは快適な温度に保ってくれるが内部からの熱はどうしようもできないので、少しローブをはだけけさせ熱を逃がす。こもってしまうとさすがに暑くて敵わない。


 そんな姿をみて嘲笑をこぼす双子研究者。


「なにも役に立たないのですね」

「私たちだけでも十分ですのに、それにしてもはしたない。淑女としてどうなのです?」


 初めてみた時はかわいらしい双子と思っていたけど陰湿女の間違いだったかとロルカの中で下方修正をする。


「あちー」


 まぁお城の研究者にどう思われようと知ったこっちゃないロルカにとっては小鳥のさえずりのようなもの。淑女でもないロルカはかばんの中からうちわのような平べったいものを取りだし、それでローブの中を扇いでいた。


「いやーあっついね」

「感じ悪いねあの双子」


 同じ王城勤めなのにこちら側にいるのは護衛役として一緒だった二人、デニスとサティスだ。どちらも砕けた感じで話してくれるので話しやすくて助かっている。


「いるよあーいうの。研究者だからって自分たちは偉いと勘違いしているやつ」

「そもそも国民の税金でなり立ってんだから国民であるロルカちゃんに敵対心丸出しなのがおかしい」

「なぜ私なんかに対して敵対心があること自体謎なんですが」

「そりゃああれでしょ、エリートであるわれわれがいるのに一般市民がなぜ居やがる、だと思うよ」

「ぜーったいそう。一発ガツンとかましてやればおとなしくなるって」

「いえ今回の件私は力になれないと思うので、あながち間違いじゃないです」

「その時はその時よ、だって上からの依頼で来てるだけなんだし」


 確かにそれもそうか。砕けた感じで考えてなさそうだけど筋の通った言い分に納得してしまう。今回移動中についてくれた六人ともすごくいい人たちだったことには感謝しかない。


「山頂に着いたら家に帰るんだったよね?」

「そうですね。解決できるかできないかは置いといて、終わったら即帰ります」

「やっぱりスクロールで?」

「そうですね、自営業ですし私しかいないのでお店を開けられないと生活が困ります」

「まぁそうだよね、うちらは出っ張ってなんぼだからさ。お店を持ってる人がこういうのあると大変だよね」


 しばらく休息を行い、再び歩き始める。思った以上の体力のなさにロルカは帰ったら軽い走り込みでも始めようかなと計画を立てる。こういった事に備えてではなく、昔孤児のときは体力がなければ生きていけないような環境だった。最低限の食料確保のために走る必要があった。走って逃げ回れば息を切らして追いつけなかった大人を内心馬鹿にしていたのに。


「まさか自分が息を切らした大人側になるなんて」


 ちょっとした嫌悪感から絶対に体力をつけようと決意する。


 その後も度々休憩を挟み想定以上の時間は掛かったが、無事に山頂へとたどり着くことができた。途中露払いが済んだ漆黒の牙が折り返してきて足の早い組双子の学者足の遅い組ロルカに分かれて進んだ。


 そのかいがあってかロルカが到着した頃には大体の調査が済まされた状況だった。


 ロルカがまだ息を整えている最中であったが、双子の研究者から状況の説明と対応策が話される。



「火山活動を停止してしまう事自体はおかしなことではないです」

「火山活動は活動と休止を繰り返すもの。ただ休止期に入ったかと思われました」

「だけどそれにしてはエレメントの減少が顕著にでてる」

「それと普通だったら冬でもない限り火山にないはずな氷のエレメントが散見された」

「意図的に大規模な氷魔法の可能性が高いと私たちは結論付けた」


 誰がなんのために?

 この場に居合わせた多くが同じ感想を抱く。


「原因はわかったが、解決方法はあるのか?」


 調査団のリーダーであるドリエルが双子に聞く。


「大量の熱で内部から温められればといったところです」

「ほっておけばそのうち元には戻りますが、魔法によって休眠しているだけなのでそのうち爆発の可能性もある」

「熱いものに無理やり蓋をしている状態と言えばわかりやすいかと」

「ほって置いて万が一火山が爆発となると山が吹き飛ぶだけでは済まないかもです」


 これ程の山が爆発となると近隣の村や町にも被害が行くだろう。大きな岩も衝撃で飛ぶだろうし、その後は溶岩による被害も甚大になる。


「火山の内部から温める案を教えてくれ」


 ドリエルは頭を抑えながら話を促した。

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