第18話 店以外での会話
翌日も早朝に出発。火山に近づくにつれ茶色だった大地は灰色へと変えていった。馬車の揺れも大きく噴石だろうか小さな石が目立つようになってくる。その度にロルカの尻が悲鳴を上げる。
「お尻が……われそう」
森に入る時に馬車を置いていく予定だったが、予想以上に進むのが困難であったため、ここを合流地点として徒歩で進むことになった。
「どこまで体力が持つかな」
座りっぱなしではなくなったことに歓喜したのもつかの間、自分の体力がない事を知っているロルカは眼を細める。遠方に見える大きな山、その頂上まで歩いていかないといけない。果たしてたどり着けるだろうか?
そう思っていたら騎獣に乗せてもらえる運びとりとりあえず安堵する。麓までとはいえ、道の悪い状態で歩くとなると行軍速度を乱す自信があった。再びお尻が悲鳴を上げるも泣く泣く我慢するしかない。
当然ながら乗馬経験すらないロルカが一人で操縦できるはずなく、二人乗りでの移動となる。
「ベテランの冒険者と現地で合流予定となっています。今回の事前調査も依頼した優秀な冒険者です」
その事前説明を聞いた瞬間にもしかしてと思ったが、夕方予定していた地点へ到達すると案の定といったところだった。
「漆黒の牙だ。ランクは8だぜ!」
首にかかっている証明となる金属板を、見せながらイグルが宣言する。魔法諸店に来るのは決まってイグルだけだったので、てっきり使いっ走りかと思っていたのだが違ったようだ。
「俺はイグル、このチームのリーダーをしてる。何かあったら俺に言ってくれ」
「ガレットだ」
「レナです」
「イリアよ」
「ヤッコラといいます」
同じチームのメンバーが紹介していく。イグルは槍、ガレットは大きな盾と剣、レナは魔法使いなのか杖を持っていてイリアは弓、ヤッコラの武器は見当たらなかった。
「次はこちらですね。まず調査団の責任者ドリエルという。研究者のナナとクク、この二人は双子なので見間違えないようにお願いしたい」
紹介された双子は二人ともメガネをかけたおとなしそうな雰囲気の女性だった。どちらも頭を下げるだけにとどまる。
「協力者であるロルカ殿だ」
「よろしくお願いします」
とりあえずぺこりと頭を下げておく。
「おう、いつも世話になってるぜ」
イグルが驚いた表情を一瞬見せるも人のよさそうな表情で手を上げてくる。
「二人はお知り合いでしたか?」
「えーっと、うちの常連さんです」
「いつもこの嬢ちゃんの店でスクロール買ってんだ、上等だし間違いがないから助かってるぜ」
「ありがとうございます」
なるほど、あの子の店で買っていたのねなどチームメンバーが驚いた表情を見せる。
「あとはこのほかに十人の兵がついていくメンバーとなる。よろしく頼む」
明日の出発時間までは自由にしてもらって構わないとの言葉を受け解散となるも、すぐにロルカはイグルに捕まってしまう。
「まぁまぁ嬢ちゃん。こうやって外で会ったのも何かの縁だし一緒にご飯でも食べようや」
そういって強引にロルカを連れ去り兵士たちがテントなどを張っている陣の外れに連れていかれる。
「やっほー」
「いろいろ話聞かせてよね」
「いつも助かっている」
漆黒の牙のメンバーのいるテントだった。
「なんでまた今回の調査に同行を?」
そう切り出してきたのはヤッコラという男だ。細い目つきに頭部にはバンダナをしている。よく見ると腰に短剣を差しているのが目に入った。
「色々ありまして……店があるので離れたくはなかったんですが王命ということで仕方なく」
「なんでわざわざロルカに?」
「私の師匠がすごい人だったのでその弟子である私に白羽の矢が立ったんだと思います」
「その師匠は?」
「数年前に残念ながら」
「そっか~、ごめんね変な事聞いちゃって」
随分距離が近いな、豊満な胸を持つお姉さんであるイリアはぐいぐいと来る。ヤッコラとイリアは話し好きそうでガレットとは寡黙、レナは控えめといった印象を受ける。意外なのはあんまり話さないイグルだ。我の強いタイプかと思ったがチームメンバーの話をよく聞くし、ロルカの話にも関心をむけている。
「ロルカのスクロールは非常に助かっている。違う街に依頼で行くことがあって違う店のスクロールを買うことがあるが、たまに発動しないこともある。ロルカの店はそれがないから安心して使うことができる」
ガレットはその一言だけ発しあとは話に耳を傾けているようだった。
「すまねぇな、無理やり連れてきたみたいで。普段俺らが使っているスクロールはこんな人が作ってんだぜっての知ってほしくてね。あんたの丁寧な仕事にはみんな感心してんだ」
「それは……どうも」
「それがこんな若い子が作っているなんてお姉さんびっくり。うちのリーダーは買い出しは自分で行くって聞かなくてねー」
「顔つなぎはリーダーの仕事だろ?」
「まぁ旦那のそういうところ嫌いじゃないよ」
「流石に食材とかはヤッコラに任せっきりだけどな」
「それは仕方ないよ、買い出しを一人で全部なんてきつすぎるでしょ」
どうやら冒険の際に必要ない道具類はリーダーのイグルが直々に行っているらしく、意外に真面目なんだと感じた。確かに顔つなぎは大事だと思うし、言っていることにも共感できる。高位のチームほどそういった繋がりがを大事にするのか、大事にするから高位冒険者へとなれるのか。魔法諸店たまに変な冒険者も来ることがあるが、彼らにも見習ってほしいものである。
「ロルカちゃん、街で噂を聞いたんだけど、最近お城が壊されたって聞いたけど本当なの?」
レナは噂好きのようで最近耳にしたという内容をロルカに聞いてくる。
当事者だったロルカはあまり触れたくない話に戸惑う。
「あ、ああーとそうですね。確かに壊されたみたいですけど事故ーじゃないですか? 事故だと聞いてますよ」
「事故だったのね。詳しく知ってますか?」
「……、いや、私も知らないです」
ロルカはしらばっくれることにした。
「そう言えば、皆さんは事前調査したと聞いているんですが、今アークウェイル火山はどういった状況なんですか?」
話題を変えるべく、今回の目的である火山の話を振ると漆黒の牙のメンバー全員の表情が変わる。
「あーっと、協力者だから話してもいいか。どうせ明日には現地に行くんだし。単刀直入にいうと火山が死んでる」
「えっ?」
「活火山だった山が火山活動をやめてしまってんだ。周囲のエレメントも調べたけど他の活火山と比べて異常なほど少ない。そのせいで気候にまで影響し始めた。それが俺らの調査結果だ」
「なるほど。火山活動の休止ではなくですか?」
「ああ、間違いない。常にのぼっていた蒸気がなくなり少し火口を掘り起こしてみたけど完全に冷え固まってしまっている」
「っとまぁ旦那が話した通りなんだけど、協力者であるロルカ嬢はその解決のために呼ばれたんだよね?」
「まぁそうですが」
話を聞いた限りロルカの出番はまずないだろう。火山活動を止めた火山をどうするかもわからないし解決の糸口すら不明。解決するには火山を復活さるしかない。そのような内容の本は眼にしたこはとないし、できるかもわからない。
「わたしでは無理ですね。火山を活動化させるなんて」
「まぁそうだよな。あんな自然エネルギーの塊をどうこうできるなんて不可能だと思うぜ」
「あとは双子の学者に任せるしかないですね。一応エレメントを集めることはできますが、火山活動があってのエレメントだと思うので意味がないと思います」
「エレメント集めるのも十分すごいと思いますが、火山となると規模が違いますからね……」
「希望的観測ってあんまり好きじゃねぇが、実際に見ることで浮かぶ案もあるかもしれねーし。明日はしっかり露払いするからよ」
「そうですね、よろしくお願いします」
師だったら何かできたのだろうか? そんな事を考えながらロルカは自分用に割り振られたテントへと向かった。
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