第17話 なんとも気まずいものだ
王都より出発して二日目も初日と同じように明け方に出発した。
御者に昨日と違う人が座り、
必要最低限の会話で必要最低限度の情報、最短の補給ルートでの日程。馬や騎獣の疲れを考慮しなければもっと早く移動することは可能だけど、長距離を移動するのであれば乗り潰しは良くないだろう。
今回調査団の人数は移動するには多い百人という人数だが、交代交代進むのであればこれくらいが最低人数なのかもしれない。
そんな移動を七日程続けた頃、次の日は野宿になると言われた。
「ある程度の食料は確保していますので、足りなくなるということはありません」
早々に
治安といっても盗賊ではなく魔物の間引きが行われていないという意味合いだ。
「明日火山の麓につきます。ですが馬車で行けるのは限りがあります。徒歩ないし騎獣か馬での移動になると思われますので麓で一泊する予定です」
「わかりました」
山の麓は森で覆われており馬車ではいけないだろうと予想していた。火山に登る物好きは冒険者くらいで、活火山を交易のルートにするような商人もいるはずはなく道はない。
森の入り口で行軍を半分にし、さらに麓で分かれるという。当然登山もしないといけなく、徒歩だ。随伴するのは兵士・学者、それにロルカということになる。
座りっぱなしだった七日でロルカのお尻はとっくに悲鳴を上げており、厚手のクッションも途中購入している。街から離れる事に揺れも強くなる。こういった事は本を読んでいるだけではわからないことだった。
それでもようやく終わりが見えてきた。
物珍しかった景色もそればかり続けば飽きるし、王都以外の町や村も行くことができたので十分。
つまりこの行軍にロルカは飽きていた。解決できるかわからない原因不明な状況ではあるが移動が終わることには安堵していた。調査が終わり原因を解決可能か否かどちらでも店に帰ると決めていた。もちろん解決可能であれば協力を惜しまないつもりだ。
最後に泊まる場所はまさに村といった集落で、百人ほどが暮らしている場所だった。こういった場所では補給もままならないため、大きめの町で補給を済ませてあるようだ。
小規模の村でも宿泊施設はあり、ロルカはそこで泊まることになっている。大衆浴場も存在せずお風呂はなし。湯を準備してくれるのでそれで体を拭いてくれといった感じだ。
「それにしてもこのような場所でも宿があるのは驚いた」
「辺境な場所でもほとんど宿はありますよー」
「高位の冒険者はこういったところにも多くきますので」
すでにローテーションで三回目の護衛となるアーキナとマーシャが答える。その答えに納得がいき、それもそうかと思う。高位になるほど活動圏は広くなる、実力に見合った場所や魔物のために街から離れる機会は自然と多くなる。
宿は一階が食事処、二階が宿泊施設になっており人口が多いほど食事と宿泊施設が分かれている傾向にあった。人口が少ない地域ほど統一化されている傾向があることをロルカは学んだ。夜には一階が酒場のようになり、賑わいを見せる。
「では高位の冒険者が泊まっている可能性があるってこと?」
「ですですー」
実際外に出ないとわからない違いや常識を知ることができ、移動はきつかったけどこういった旅も悪くないとロルカは感じていた。
「ゆく先々で美味しい食べ物とも出会えますし、その季節でしか味わえない料理というのもまた風情があっていいものですよ」
「まぁ残念ながら異常な気候のせいであんまり食べられなかったですけどねー」
物流の多い王都ではまだそこまで気になる範囲ではなかったが、必要最低限の物しか作っていない村だと大打撃だ。特に農作物には顕著に被害が出ている。育ちにくかったり虫が湧いたりといった被害が見られた。
今頃は王都にも影響が出ているかもしれないし、ロルカが思っていた以上に放置すれば深刻な影響を及ぼしていたかもしれない。
「原因が私で解決できればいいけど」
「なんかすごい方っていうは聞いてましたけど、何がすごいんですかー?」
「確かに、気になりますね」
一階の食事処で一緒にご飯を囲みながら話しているとプレッシャーを感じてきたロルカに何気なく二人が聞いてきた。
「私の師匠がすごい人であっただけで私自体はすごい人ではないですよ」
「またまたー」
「お師匠様はすごい人で王様でも気をつかうような人物だったと聞いていますが?」
「そこら辺は弟子であった私も良くわかっていなくて……そもそも私は魔物すら倒したことありませんし、同行している学者さんより賢いとも思えません」
「まぁ切れ者の宰相様が選ばれたので適材適所なのだと思いますが……」
「師がいくらすごくても実績のない小娘を
「確かにー」
ひょっとしたらすごくない人の護衛してるの? とマーシャが口から溢していたが、ロルカからしたらその通りと言いたい。そういえば「強いからって一人で出歩かないでくださいねー」と以前から言われている気がする。あの
「私は冒険者登録もしていませんし、戦ったこともありません」
「やっぱりそうだよねー、歩き方が素人っぽいとは思っていたしー」
「まぁそれは自分もうすうす感じていました」
「知識の方も教えてもらったことはあんまりないですよ」
基礎以外は見て盗めといったスタンスだった師から知識を盗めたとは到底思えない。師の手書きの本も何冊かありそれも読んではいるが、その程度で師の知識に追い付いているとは到底思えない。他にも置いてある本は全部読んだしそれなりに吸収できてはいると思うが、本になっているということは世間にも出回っている知識だと思われるし、そこら辺の人とあまり変わらないのではないかと思っている。
「ちなみにどんな事ができるの?」
興味本位からマーシャが聞いてきたことに対して思案する。魔法は当然使えるないし、知識では学者に勝っているとは思わない。
「私が出来ることと言えば……スクロール作製以外、はあまりないのかも?」
「ありゃりゃ、でもでも威力の高いスクロールは作れるー?」
「んー、お城を更地にするくらいのスクロールなら作れます」
あーやっぱりすごい人だったんじゃんとマーシャは残念そうに呟き。
「あまり不謹慎な事は言わないようにしてくださいね」
アーキナからは注意されてしまった。
「おやじー、一杯くれ!」
店に入るなり大きな声で注文を叫ぶ声が聞こえる。なんとなく聞き覚えのある声で、そちらの方をみると見覚えのある男の姿が見えた。
「あの男強いですね」
「恐らく高位の冒険者ですねー、自然体だけど隙がないし、歩き方が戦闘に慣れている人の歩き方」
「あーあたりです。常連さんで知ってる人」
黒髪短髪で金色の瞳の男、漆黒の牙のイグルだった。見ただけで高位冒険者と見抜くこの二人も大概なんじゃないかとロルカは思った。
えーかっこいいじゃん、紹介してーといってくるマーシャを無視し、あとから連れらしきメンバーがぞろぞろと入ってきた。チームメンバーらしい人たちと仲良さそうに話す姿を見て、意外と常連客と外で会うのは気まずいものなんだなと感じたロルカは、そそくさと退散した。
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