第22話 なにゆえ

『協力に感謝する。つきましては感謝の意を表明したく……』


「よっしゃゃややああああああ〜!!」


 ロルカが帰宅してから二日後には王城に報告が届いたらしく、火山の件は爆発することはなく活動を再開したとのことだった。ロルカか協力してくれたおかげで被害の拡大を防ぐことができ感謝すると届けられた手紙には書かれていた。

 手紙が届き内容を読んだ時には思わずガッツポーズと大きな声を出してしまったがそれも仕方ない事だろう。


 火山の件がうまく行ったことは非常に喜ばしい事だし、スクロールの可能性を見せつけることもできた。なにより店は変わらず営業できる。

 ただ想像しなかった別な嬉しい内容も記されていた。


『王城にある秘蔵の素材を数点寄贈する』


 どれだけ珍しい素材があるのか非常に楽しみだし、その素材を使ってどんなものが作製できるのか調べることも楽しみだ。なんといっても王宮である、どんな希少素材があるのか今から楽しみで仕方がない。


「かといってパレードはお断りだけどね」


 国の広域に被害が出ていた今回の事件を解決したとあって凱旋がいせんパレードを計画しているとのことだった。確かに被害を鑑みると早目に対処できたことは大きいし、国民へも説明しやすい、何より凱旋という名目であれば解決したと大々的に宣伝できる。


「英雄なんてまっぴらだし、営業できなかった分を取り返さないと」


 店が空いていない間に常連の足が遠のいてしまうかもしれないことが一番の被害なのだ。これ以上営業時間を奪われたくない。


『事の真相、誰かが意図的にしたということは口外を禁ずる。聞かれた場合、自然によるものと説明すること』



「まぁそれはそうでしょうね」


 今回の最初に行った王宮での聞き取りに関しても、国はこれだけ話を聞いてますよ! と言ったアピールに過ぎない。話を聞けばある程度の不満は収まるだろうし、実際行動して解決出来たことで権威はますます輝く。

 そんな中、犯人はわかりません! とわざわざ不安をあおるような事は絶対にしないだろう。


「そのためのパレードでもあるかぁ」


 ロルカからしたら体裁ばかり気にして大変そうと思うけど、国の運営を行うのであれば綺麗事きれいごとばかりでは済まされないとゆうことなのだろう。今思えば出立も宣伝していた可能性もあるのではないか? 見送り多かったことだし。

 あーこれ以上関わりたくない関わりたくないと口から零れる。


「あ、あのぉ?」


 手紙を読みふけっているとどこからか声が聞こえてくる。



「あのー!」

「あっ、ああ!?」



 ロルカはすっかり忘れていた。王宮からの手紙ですぐに返事を頂きたいと配達員が持ってきた事を。



「すみません、すぐに書きます」


 突然眼の前で大声を出したロルカに対し、配達員は冷めた目で見ていた。


 配達された手紙はその場で燃やさなければならないらしく、返事を書いて返事内容に漏れがないことを確認してから燃やす。配達員も手紙の内容は知らされておらず内容は口に出さないでほしいと念を押される。

 王宮配達員は信頼が大切なので、配達員は知ろうとしない心掛けをしているそうだ。配達員の眼の前で間違いなく燃やした事を確認してもらう。緘口令かんこうれいの内容が記載されていたので情報制限は徹底しておこなうみたいだ。



「ではお願いします」

「かしこまりました! もう一度手紙の配達に伺うことになると思いますので」

「あーそうですね」


 緘口令に関わらない情報だったり、再度配達の可能性がある場合は事前に知らせているらしく、また来るとの言葉を残して去っていった。壁を登っていってあっとゆう間に姿が見えなくなる。


「配達員すごいな」


 内心ではなるべく来ないで頂きたいのだが、素材のためやむなしと切り替える。


 パレードはドリエル隊長達が帰還する予定の三日後になるらしい。規模が規模なだけに長時間移動の制限がかかるわけではないだろう。


「見に行かないけどね、それよりも!」



 今回の使用した消耗品などを全部知らせてくれ、払うからとも要約して書いてあったので消耗品とその使用目的の一覧を作成していく。


 さらに、今回の働きに合わせて店を開けられなかった分日割りで金額三十枚払うとあったのだ。太っ腹と思えなくもないが、常連客からの信用は三十枚でも買えない。ただもらえるものはもらっておく。


「こんなにお金をばら撒いて国庫は大丈夫なのか?」


 まぁ心配しても仕方がないかとまだ見ぬ素材達へ思いをはせる。今から非常に楽しみだ、浮足立つなという方が無理な話だ。



 からん、と来店を知らせる鐘がなる。

 腰掛けている場所からのぞくように来た人物をみる。

 普段は無愛想であるロルカであるが、この日ばかりは笑顔で接客できそうだ。


「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」


 やってきたのは見慣れない冒険者らしき少年たちであったが、眩しいばかりのロルカの笑顔に赤面してしい、店から走って出ていってしまった。


「え、なに? ……何だったんだろ」


 普段はしない百点満点の接客だったのに、と頬をもにもにとみながら独り言つ。




 その後時間を置いて再び王宮からの配達員がやってきた。持ってきた手紙に今回の目録が記載されており、その一覧を見て再び奇声をあげたロルカを配達員は変人を見る目で見つめていた。


 夏の終わりの出来事だった。

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