第二章 異変の冷夏、遠征の知らせ

第11話 友人の悩み事

「夏なのに朝晩冷えすぎ、そう思わない?」


 開店直後に突撃してきたヘレナは困った様子でそう切り出してきた。以前にも言っており、そのせいで子供が体調を崩すとかで大変だとかなんとか言っていた気がする。ロルカはまだ夏場だからいいかなと先延ばしにしていた温度調節の魔道具作製に取り組もうかなと考える。


「確かに、少し前にも言ってたね。子供体調どうなの?」

「うーん、良くはなるんだけど、しばらくするとまた崩しちゃって。寝てるときに毛布とか被せるんだけど日中暑い時はとっちゃったりしてなかなか難しい感じ。かといってストーブつけるほどじゃないけど、子供は体力ないから心配で」


 冬での暖の取り方はストーブが多い。熱を放出するということは魔石が必要であり魔石は消耗品なのでお金がかかる。一般家庭であるヘレナにとって切り詰められるものは切り詰めたいのが現状だ。かといって子供の体調は最優先ではある。

 なお、ストーブは専門店がいくつかあり冬場はストーブ、夏場は送風器(風が出る魔道具)を専門に取り扱っている。


「うーん、ちょっと優先的に考えてみるね。素材次第ではごめんなさいってなるかもだけど」


 アイデア提供をしてもらっているけど、素材的に高価な物じゃないと対応できない場合は残念ながらヘレナの手に渡ることはない。一般的な国民には魔道具は高価な物として認知されている。


「大丈夫よ、ありがとう。でも多分困ってるのは私だけじゃないと思うの。子供やお年寄りがいるところは大変かも、それにちょっと高くても旦那に頑張ってもらうから」




 そんなヘレナの予測は的中し、何日か過ぎても気候が改善する気配はなかった。そのため国王自ら原因究明のために調査団を設立したとの情報が数日後告知された。体調不良者が多く出て街の診療所をひっ迫しているという。富裕層は暖房器具を使い過ごしているが、それ以外の民への負担が増えていた。


 そういえば庭の畑も少し育ちが悪いのがちらほらあったなと思い当たる。ロルカ自体は師がくれたローブがあるのでいつでも快適なせいか気温差に無頓着であったが、それでも友人の訴えや庭の植物の育ちが悪いとなると本格的に動かなければならない。


 スクロールだけでは高価になるけど持続的には難しいし、魔石だけでは現存のストーブと変わらない。ストーブ作製は本職には敵わないし、ロルカにはそれなりの魔道具作製の知識しかない。魔石とスクロールの組み合わせでしか作れない。安価で温めるではなく恒温にすることを目標に進める。


 スクロールと同じように図を刻印し、魔石を使用ができるだけ長く使用できるようにする。図も色々考えて新しく創ったりしているがなかなか上手くいかない。


 エレメントを無視できるのであれは似たような物自体創ることは可能だが、生活どころではなくなってしまう。永久機関なんてうまい話は現実には存在しない。だからいかに低コストの消耗品で作るかが鍵となるのだが。


「難しい」


 いっその事、昔のように木を伐採して使った方がいいのではとの結論にあたる。現在でも薪や炭を使用しているところは多くある。特にスラムなんかでは生木を使っているところをよく目にしたし、所得の低いところも薪を使用している。落ちている枝を集めればお金は浮くが、使ってしまうと煙は出るし、煙は近所に嫌がられる。そのため魔石のストーブが普及していった経緯がある。


「魔石を消費してストーブを使う以上魔石より効率がいいか、もしくはお金のかからないものだなんてなかなかない」


 一般家庭でも購入できるくらいのストーブはなかなかの優れ物だ。価格より庶民の生活を優先して購入してもらい、あとは修理などで長く付き合う。ストーブ専門外のロルカがみても改善点の余地はないに等しい。それ程までに残存のストーブは完成している。


 安全な王都周辺の木を切るか。いや近辺の資源が枯渇したあと遠方に取りに行くのはリスクが高い。短期的にはこれでいいかもだけど、天候相手だと楽観視できない。


「あー難しい。ちょっと木材と木炭は欲しいな、実験に使いたい」


 魔石を入れると暖かい風がでる魔道具は出来たが燃費がわるい。とてもじゃないが既製品であるストーブの劣化版と言わざるをえない品物にしかならなかった。


「これはこれで改良したらいけそうだけど」


 素早く暖めることが出来る魔道具はこれで需要があるかもしれない。だけど夜は寝ずに番をしないといけないから費用対効果を考えると貴族でもなかなか厳しいかもしれない。途中切れたとして冬はストーブがないと凍えてしまうかもしれない。ロルカの作成した魔道具は性能は良いものもあるがコストパフォーマンスが良くない。


 作業机に突っ伏し考える。

 ふにゃふにゃと独り言ちながら考えていると来店を知らせる鐘がなる。条件反射のように体を起こし覗く。


「すいませーん」

「いらっしゃいませ」


 やってきたのは最近見たことあるような城の配達員。以前も来たような気がする。というかごく最近。

 郵便を専属とした仕事はなく、誰かに頼むか冒険者組合を通すしかない。それとは別に王城には専属の配達員が存在する。


「こちらお願いします」

「あ、はい」


 受け取りのサインを行い、小さな封筒を受け取る。


「はぁ? 召喚状? しかもまたお城」


 そこには丁寧な言葉で城に来てほしいと綴られてあった。

 つい先日の出来事がよみがえるようだった。すでに忌諱感が強い城という言葉。短時間とはいえ命の危険を感じたのだ、一般的に敬われているものに対して抱いてしまっても仕方ない理由だろう。


 ただ、中に書かれていた文章に目を止め、なるほどなと考える。

 調査団を設立したとの話は聞いていたが、あらゆる専門分野の人を呼び話を聞きたいとのことだった。ならグレスダではなくなぜ魔法諸店に来たのか謎だが。


「召喚状とはあるが協力要請とかいてあり必要とあらば断わることもできるけど、断って変な軋轢を生みたくもない」


 テーブルに項垂れるように突っ伏す。客は来るかわからないが、店を空ける時間も長ければ長いほど損失が出る。空いているかわからない店にわざわざ来る客は減ってしまうしいいことは何もない。


「行きたくないけど行くしかないか」


 喫緊なのか時間帯は本日十五時からとなっていた。お上は下々の都合なんて考えていないんだろう。頼むから短時間で終わってほしいと願うロルカだった。

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