第10話 事の顛末とあの日の出来事

 城の一角を破壊した数日後、宰相の使いと名乗る兵が事の顛末を説明に来た。


「まずは先日の検定試験は全て無効となりました」


 様々な素材を提供してくれたのはグレスダであったが、そもそも検定試験を開催を仄めかしたのもグレスダであり、自らの利権のためだった。


 検定試験の開催目的は魔法諸店を潰すため。


その目的の為に会場にてロルカの技術や素材を探る、もしくは盗んで自分の物にする。


「そうでしたか。概ね予想通りです」

「考えてるとおかしな話ですからね。それで罰則なんですが……」


 それなりの立場にあった主催の男は城を解雇となったようだ。思惑を見抜けず一方の利益になる事に加担し、一方の不利益になる事を手助けしてしまった。城に務める者であれば国民に対して平等でなければならない。


「宰相様は即断でしたねー。次にグレスダ魔法スクロール店なのですが修繕費用の負担で手を打ちました。被害者であるロルカさんには不服かもしれませんが実害が出る前に事が明るみになったので、その点では処罰対象になりません」

「んー」

「一応未遂という事と城が破損した原因でもあるので修繕費用の一部負担という結論でした」

「私には何かあるんですか?」

「今回は被害者という事でお咎めなしで良いとの事です。全面的にグレスダさんに非がありますし、グレスダさんに釘もさしていましたよ」

「……そうでしたか、ありがとうございます」


 ロルカは片肘を組み頭をかしげた。城の破損は被害者が幸いにもいなかったとの事でロルカにはお咎めなしだがあまりにも軽すぎる気がした。


「ときに伺いますが、宰相様とお知り合いなのですか?」

「と、言いますと?」

「えらくロルカさんを庇うなぁと思いまして」

「いいえ、知り合いではないです」

「そうなんですね、知っているかのように話されていたので」

「知り合いだったとしてもそれで贔屓するような立場ではないでしょう」


 それもそうですね、と兵は店をあとにした。


「嫌な人に貸しをつくってしまったぽい」


 宰相とは知り合いレベルではなく犬猿の仲の関係だ。ロルカがまだ小さい時に城に数度来たことがあった。その時にロルカが一方的に嫌いになった出来事があった。


宰相は気にしていない様子だが小さいながらに植え付けられた嫌悪感は大きくなった今も変わらずだった。


「まぁたかが一人の街娘に何かしろとは言ってこないでしょ。切替えて仕事しなきゃ」










「城が攻撃されました!」

「なにぃぃ! 状況をすぐさま把握しろ! 詰所にいる奴も総動員で寝ている奴らもたたき起こしてこい! 」


 長く王城に勤め、攻撃されたことなど一度もなかったととある関係者は漏らした。


 近隣国と関係性は良好とはいえないまでも、共通の敵であるモンスターが存在しているからか、そこまで険悪にはなっていない。過去には度々戦争が起こったというがそういった話は聞かない。


 では一体だれが攻撃してきたのか?


 一番の有力は空を飛べるモンスターによる攻撃。だが、これはないと思う。なぜなら王都は強固な結界に守られているからだ。とある偉大な魔女に王自身が頼み込み作ってもらったという。なので魔物は入ることすら敵わない。


 ではやはり人か?


 物見によるとそういった怪しい集団は見られないとのこと。こういった手の込んだ攻撃は混乱を契機に忍び込むか攻め込むかが常套だと思う。人の出入りは普段と変わりないし、城への出入りも特段怪しい人物はいない。


 ではなにか?


「調べましたところ歩兵訓練場にてスクロールの作製試験があった様子。そのスクロールを発動した際にこうなったそうです」

「では敵襲ではないと?」

「はい、シリウス様も現場に居ました。それに第三王子までご覧になられていたようで」

「なるほど、では王宮魔導士と第三王子の二人有力な目撃者がいるということだな」

「そうですね、立場のあるお方ですと責任者をしていた者もいるのですが、その」

「どうした」

「調べによると無理やり今回の検定試験を強行したといいますか」

「なるほどな」


 偉そうにしているほうが今回調査を任された男であり、もう片方の報告している男は調査をしている兵士である。


「ではまずは第三王子から話を伺いにいこう」

「はい」


 偉そうにしている男はこの国の宰相であり実際に偉い。もう一人は王国第二隊隊長であるニルである。


 宰相はまず第三王子が控える部屋へと向かう。すでに自室へと戻っていると連絡を受けていおり、部屋にいるのは間違いないだろう。本来であればややこしい手順があるのだが緊急ゆえ兵に先触れだけしてもらっている。


「アストア第三王子、私でございます、少々話を伺いしても?」

「どうぞ」


 宰相はノックをし、許可をもらって入室する。


「今日の事件についてだね。僕でわかる範囲なら何でもこたえるよ」

「ありがとうございます。では単刀直入にお聞きします。今回の事件は故意でしょうか、それとも偶発的でしょうか?」

「偶発的だと思う」

「なぜそう思いに?」


 アストアは腕を組みしばらく考えるそぶりを見せる。


「今回原因になったのはある魔道具屋の少女が作ったスクロールなんだけど、それがこれだけの被害をもたらした」

「はい、話にはうかがっています」

「その少女はスクロールを使うまえにちゃんと止めたんだ。危ないってね。周囲にも防御魔法をを施した方がいいともね。それでも押し通したのはシリウスだ」

「ああぁ、シリウス様ですか」

「スクロールの効果を見下し自分の防御魔法だけで事足りる。それでつかった結果があれさ。少女の方は正確にどれくらいの威力を知っていた、だから注意した。シリウスはスクロールを紛い品だと見下していた、だから見誤ってしまった」


 なるほど。多少性格に難ありのシリウスであればあ確かにそうかもと宰相は納得する。なんというか自己顕示欲が高いというか何でもできると思っている節がある。まぁ実際王宮魔導士なんで肩書は素晴らしいものに違いないが。


「身分的には僕が最初で次はシリウスに聞きに行くのかな? だとしたら大分へこんでいたからシリウスもちゃんと答えてくれると思う」

「そうでしたか。ご協力ありがとうございます」


「それより、僕が疑問視している部分があるんだ」

「と、いいますと?」

「今回なぜこのような検定試験が行われるようになった経緯」

「それも多少伺っております。粗悪なスクロールが出回っていて由々しき事態だからと一部の者が強行したとか」

「そうそれ。おかしいと思わないか? 僕は魔法が好きだから今回会場に行きたいとお願いしたけど、検定試験の前に原因の粗悪なスクロールを探ったけどの確認は取れなかった。これは個人的に調べたものだけど、それでもよければこの資料をどうぞ」

「左様でございますか、感謝します。これは協賛の者たちへも話を聞かないといけませんね」

「お願いするよ、あと第三王子というのは伏せて参加していたからそのつもりで」

「わかりました。併せてご協力ありがとうございました」


 宰相は頭を下げ部屋を後にする。


「調書は?」

「は! ぬかりなく」


 それから二人はシリウスへと話を聞きに行った。


「シリウス様、私でございます。話をお伺いしても?」

「あ、ああ」

「失礼します」


 応答からいつもと反応が違うが気にせず二人とも部屋へ入る。


「二人とも、私を笑いにきたんだろう。模倣品すらも凌駕できない王宮魔導士だなん……」

「いえ、そのような暇はございません。今日の事件の話を聞きに来ただけです」


 宰相は気にした様子もなく一刀両断する。自信喪失とかどうでもいいけど、さっさと原因究明する方が先決である。うじうじしているシリウスをみて隊長は眉を顰めた。


「事の顛末をお伺いしても? 」

「ああ、スクロールの魔法なんて私の防御魔法で完全に防げると思っていたんだ。だけど結果はこのざまだ。笑うがいい」

「それで?」

「それが全てさ」


 城の一部が壊れているのにこの男はなぜうじうじとしているのだろうか、じわじわと宰相にストレスが溜まっていく。


「責任の所在はどうされます?」

「ああ、私が悪いさ。こんな体たらくじゃ……」

「ご協力ありがとうございました。失礼します」


 宰相は話を切り上げ退出する。出来る男は必要な情報だけ貰えればそれでいいのだ。


「なんかあんな感じになるんですねシリウス王宮魔導士様は」

「腕前は良いからな。次は、現場に向かおう」

「わかりました」


 長い廊下を進み階段を下りていく。第三王子から渡された資料を横目に途中城のがれきを撤去しているところが目に入り宰相は眼を覆った。


「どこから予算を組めばいいのか」


 第三王子の資料は事細かく描かれており、粗悪なスクロールは少しはあるがそれは印刷ミスの類であり、明確に悪質なものは存在しなかったと記してあった。


「第三王子、個人的にこれだけ調べ上げられるとは嬉しく思いますぞ」


 歩兵訓練場に隊長を連れて向かう。途中すれ違う兵たちは敬礼をしていく。

 訓練場に入ると宰相は胃痛を覚えお腹を押さえる。


「ああ、想像以上にひどい。」


 隊長は横眼で怪訝そうな表情を見せる。

 気付いた兵たちが集まってきて何事かと騒々しくなっていく。宰相は頭を振り、腹に力を込める。


「責任者を呼べ! 」


 横から見ていたニル第二隊長にとって、お腹をさすりながら叫んだ宰相に威厳は見当たらなかった。



「なぜこの検定試験をすることになったのか?」

「それは、ええーと、とあるお店より通報があったのです。粗悪品が流れているから規制できるルール作りをしてほしいと」

「ほうほう、それで、裏はとったのか?」

「あ、はい。いえとっていません」

「裏も取らずにうのみにしたと?」

「……はい」

「誰から通報があったのかね?」

「あちらのグレスダさんです」

「わかった」


 最初に話を聞いたのは責任者である司会をした男だった。国民の声を聴くことは確かに大事だがそれをうのみにするなんて愚か者がすることだ。この高官はダメだなと隊長をみると目があい、何やら書き込んでいた。


 グレスダに話を聞く前に様々な関わった官職へと話を聞く。浅く広く聞き、後日必要があればまた話を聞く。今のところはシリウスと責任者である男が有責で間違いない。


 次はグレスダという人物。何やら顔色が悪く滝のような汗を流している。いかにも何かやましいことをしていそうな雰囲気だ、今のような状況になってしまいさぞ居づらいだろう。


「初めまして、この国の宰相をしているガイストという」

「あ、どうも宰相様。私はグレスダと言いまして商いをしている者です」

「今回に事件について聞きたいがよろしいかな?」


 宰相はなるべく圧をかけるように尋ねる。この手のやり取りは貴族同士だとあまり使えないが、貴族位ではない一般市民だとなかなか効果的に使える。


「は、はい。」

「では私の質問に嘘偽りなく答えるように。もし嘘と発覚したらどうなってしまうかわからん」

「……はい」


 グレスダはひっきりなしにハンカチで汗をぬぐう。


「なぜ虚偽の申請をした?」

「は、はい!申し訳ありません。私共は魔道具屋をやっておるんですが、あの、あの小娘が邪魔をするからでして」

「邪魔というと?」

「あ、いえ言葉の綾でして商売敵といいますか」

「ほう、では同じ商売をしているから利益独占のためにこのようなことを仕組んだと?」

「あ、いえ。そういった訳では……」

「では、どういう訳かな?」


 宰相は手慣れたように追い詰めていく。面白いほどにぼろが出る。反対にグレスダの顔色はどんどん悪くなり眉間のしわは深くなるばかり。


「利益、欲しさに、しました」

「ふむ」

「あいつが悪いのだ。私の邪魔をしなければぁぁ」


 グレスダはそういって怒りの形相を見せある一人の少女を指さす。壁にもたれかかり両膝を抱え込んでいる様子で顔まではうかがえないが酷く落ち込んでいるのは一目でわかる。暗くなってきたきているが帽子の銀環がよく見える。


「まぁいい。それでいくら渡したのだ?」

「……渡してない」


 この会話が成立している時点でほとんど黒に近いのだが、宰相はおくびも出さずに続ける。


「では通報したら城の高官がするといったのかな?」

「そうです。心を打たれました私は素材の提供を申し出ました」

「なるほど、そうですかありがとうございます」


 ここまででいいかと切り上げる。ほかにも何人か現場にいた役員や兵士に話を聞くも似たような情報ばかりだった。主宰した高官は役職を取り下げ。グレスダ自体は罪には問えないだろうけど、今回ので釘を刺せただろうか。念のため今回のようなオイタをしないように手紙を書いておこうと決める。


 そして……。


「私だと怖がらせるだろうから隊長が話を聞きに行ってくれないか?」

「わかりました。怖がらせないように努力してきます」



 評判の悪い店。粗悪品を流す。そんなはずがない。あの銀環を身に着けている者がそのような事をするはずがない。


 先ほどまでの険しそうな表情はなく、宰相は優し気な表情で少女の方を見ていた。


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