第12話 悪人顔
召喚状を門番に見せ再び王城にきたロルカは人目を気にし、さながら不審者のような動きで指定の場所まで来ていた。前回見たような人物との接触を避けることに成功したロルカは、会議ではおとなしく目立たず帰りも同様に、と変なところに気合を入れていた。
というのも城に入ってすぐのエントランスが指定の場所だったのだ。人目のつかなさそうな死角へ逃げるように移動する。
なぜエントランス? と思ったが集まった人の数をみるととてもじゃないが会議室に入れるような人数ではないなと思った。これだけ人がいるのであれば目立つはずに違いない。ロルカは想像以上に集まっている人数を見て安堵する。それと同時に今日招集でこれだけ人が集まっている事は思った以上に大事なのかもしれないと気を引き締めた。
「静粛に」
目の前の階段の先に見覚えのある人物が見える。
現れたのは事情聴取をされたどこかの隊長と宰相の姿だった。
「本来暑い夏であるはずなのに異常な気候により体調を崩すものが続出している。偉大なる王からの指示で調査することが決まった。だが相手は気候だ、何から調べればいいかわからん。だからおぬし達のような様々な分野で働く人たちから話を聞きたい」
宰相のその言葉を皮切りに、静かだったホールがざわめきを起こす。
「些細なことでも構わないので情報提供者にはその情報量に比例して報酬を渡すことを約束する。それぞれ何人か情報を書き記す書記官がいるのでその者らに話をしてやってほしい。言い終えたものや情報がないものはそのまま帰ってもらっても構わない」
人間とは現金なものでお金が貰えるとなると目の色が変わる生き物だ。そういうロルカもお金が貰えるならと思い、これならば早く戻れそうだと内心喜んでいた。
来場した人数に比べ書記官の数は少なく遅々としていたが我先にと並んだロルカは早々に順番が回ってきた。
「情報の前にお名前など証明できるものが……あ」
「え?」
席に座って「庭の植物が最近元気がない」と言って帰ろうと思ったロルカであったが、書記官の目線が段々と上を向きある一点で止まってしまった。
「何か?」
ロルカは内心動揺しつつも平静を装った様子をふるまう。
「その銀環は魔法諸店のロルカさんで間違いないですね? 宰相様が呼ぶように言伝を預かっています」
「なんてことだ」
ロルカは天を仰いだ。
肩を落としながらホールを抜け渋々と階段を上がっていく。堀が深く吊り目で眉の濃い顔をにやにやと悪人がしそうな表情を見せる禿頭の男、宰相の悪人顔が視界に入る。
「何か用でございますか? クソじじい」
「おお、これはこれは先日は塀の片隅で落ち込んでいたロルカ嬢ではないか。息災だったかな?」
平民の街娘に一体どんな話を聞きたいのか、はたまた先日の貸しを返して貰いたいのか。
いや、これって協力要請だったな? と思いロルカは踵を返す。
「用事を思い出したので帰ります」
「おっと、待ちたまえ。これは王命だよ」
「……くー。権力者……嫌い」
「今の不敬な発言は聞かなかったことにしよう。なに、協力してくれたらしっかり報酬も弾む」
「……協力しなかったら?」
「先日の借りを返してもらいたい」
ロルカははぁとため息を次諦めが肝心だと気持ちを切り替える。
「それなら営業できなかった分の補填も」
「では交渉成立だ」
そう言って宰相は握手をしようと右手を差し出すもロルカは無視をした。
一方ロルカはあっさり要望が通ったことにより、もっと吹っ掛けておけばよかったと後悔していた。なんせこの狸じじい《宰相》はこの王国のトップ3に入る権力者だ。お金はたんまり持っている事だろう。
「それで、私は何をしたらいい」
「おおよその原因はすでに突き止めてある。その調査をするときに同行して知恵を貸してほしい」
「待ってください」
そこに待ったをしたのは横で控えていた先日の隊長であった。
「一般市民の方の同行は危険です。それに、まだ年若い子供なんて当てになるのですか?」
遠回しではなくストレートに役に立つのかと言われ、もっと言ってやれと言わんばかりの表情をロルカは見せる。
隊長にしてみれば先日落ち込んだ姿を見せた年端の行かない少女であり、それが同行することに不安を覚えた。しかも同行には国有数の学者も連れて行くというのに必要とは思えなかった。
「まぁ普通の少女であれば私もお願いはしないが、お前も知っているであろう大昔に王都にいた魔女を」
「はい、存じています。それは有名な昔話ですし、国の発展のために多くの協力をしてくれた偉人だと聞いていますが……?」
「彼女はその弟子だ」
「はぁ!?」
隊長の顔が驚愕に歪み年齢いくつなの? と顔に書いてあるようだった。
宰相の語った魔女は有名だ。数百年前、王国に未曽有の災害が起こった時に尽力した魔女がいたという。魔法だけけではなく魔道具や知恵など多くの提供により少ない被害で抑えることができたという美談。そう、事実だとしても数百年前の話なのだ。
宰相は隊長に近づき小声で話す。
「ニル第二隊長。これは国家機密であり他言無用である、たとえ家族でもばらしたら首と胴がお別れすると思ってくれ」
「国家、機密……」
隊長が溢した言葉がロルカに届くが、それの話かと思い当たる。かつて数度師と共に登城したことがある。これ愛弟子だから便宜を図れ、無理に接触するな、何かあったら城を吹き飛ばす等散々脅しつけ身分を保証させたこともあった。頭に付ける銀環はこういった経緯で国王から渡された物であり、見る人が見ればわかる意匠をしている唯一無二の物だ。といっても上層部のごく一部の人間しか知らない重大機密事項でもある。
「何かあってもこれがあれば国が身分を保証してくれる」
と師がつけてくれたものだから普段から身に着けるようにしている。まだロルカは幼かったため小難しい話はあまり覚えていない。
「数年前の小さい時でさえ国お抱えの学者がかなわなかったのだから今はもっと凄くなっているだろう。魔女殿がいなくなってしまったから頼るのはそのお弟子さんということだ。隊長、その子を守ってくれよ。じゃないと城が消し飛ぶ」
「え? なんで城が消し飛ぶんですか!?」
話の脈絡がなく隊長の頭には疑問しか浮かばなかった。
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