第3話 見えない

 いた!

 205号室、長谷川!


 ボクは、白衣を羽織はおると直ぐに205号室へ向かった。


「長谷川さん、調子はどうです?」


「え?……えっと、まぁまぁです。あのぉ、担当の軽部かるべ先生は?」


 患者は、担当医では無いボクの訪問に少し不安そうな表情を浮かべた。


「あ、ボクは田嶋と申します。今、巡回していたもので」


「あ、そうだったんですね……」


 ボクが、笑顔を見せるとホッとしたようだった。


「あれ?ちょっと点滴が漏れている様なので直しますね」


 64.83kg……



 ヘルスメーターを確認したボクは、遂にやってしまった……


 点滴のチューブにから注射筒シリンジを注入した……致死量の空気を注入したのだ。


(どうせ先の短い命だった。ちょっと早まっただけさ)


 64.809kg……誤差21g


 ボクは、直ぐに死亡した患者のベッドの周り、天井、窓、扉……辺りをグルグルと見回した。


(クソッ、無い……が見えないっ!何か特別な力が必要なのか?霊能力とかいうやつか?あぁっ、イラつく!)


 そんな時、廊下から少女の声が聞こえてきた。


「ねぇ、ママ。今ね、そこのお部屋からが飛んできたよ」


(な、なんだとっ!)


「またそんな事言って〜。気のせいよ」


「えぇ!本当だもん!」


 っぺを膨らます少女にボクはしゃがみ込んで話しかけた。


「ねぇ、お嬢ちゃん。キミは魂が見えるのかい?魂ってどんな感じなのかな?」


「んとね、ちょっと光っててふわふわってしてるんだよぉ。お空に飛んで行っちゃうんだ」


「コラッ!先生ごめんなさい、病院内でこんな話を……」


「いや、いいんですよ……お母さん」


 ボクは母子おやこにニッコリと微笑むとその場を去った。


(やはり魂は実在するんだ!患者が死んだタイミングで、あの少女が部屋から出てくる魂を見たなんて……間違いない、魂は実在する!さて、どうする?残念ながらボクには見えないようだ……そうだ!よし、物は試しだ!やってみるか……)


 ボクは、同じ手で死期の近い患者を○害した。


 63.21kg→63.189kg……

 やはり誤差21g!


 ボクは、かさずポケットからスマートフォンを取り出すと、患者から室内の隅々まで動画を撮影した。


 そして、直ぐに再生した。


(……ク、クッソォ!ダメだ、何も映ってない!一体どうしたら見る事が出来る?絶対に見てやる!ボクは医師ながら医学をくつがえす!必ず見つけるんだっ!)


 ボクは、デスクに戻り椅子に座ると爪を噛み、足を小刻みに動かす。


(どうする?どうすれば見れる?……考えろ、何か方法があるはずだ!見たい……見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい)


 っ!!!


「これだっ!」


 ボクは、激しく立ち上がり椅子を突き飛ばした。








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