第2話 続く偶然



 延命措置をしている時だった。

 ボクは、無意識にベッドのヘルスメーターを横目に見た。


 56.73kg……


 ピ─────────────────


 そして、またボクの患者は亡くなった。


 今までも、これからも……一体いくつの死と向き合っていくのだろう……


 ボクは、俯き深くため息をついた。



 56.709kg……


 え?……21……g!!


 偶然……?

 偶然って、こんなに続くことだっけな?


 は、またボクの目の前で起こった。



「田嶋先生……303号室の木村さんが!」


 ボクは、急ぎ足で303号室へ向かった。

 そしてベッドを確認する……


「……南田みなみだ君、悪いけどヘルスメーター付きのベッドを運んで来てくれる?」


「え?いや、でも先生、今は急を要す……」


の南田!……聞こえなかったか?ヘルスメーター付きのベッドを急いで運んで来いっ!」


「は、はい……」


 ボクの指示で、患者はヘルスメーター付きのベッドに乗せ替えられた。


 南田君は不思議そうに、また何か恐ろしいモノを見るような表情でボクを横目に見ていた。


 そして、ボクは測定器のデジタル液晶画面を食い入るように見る。


 65.52kg


「南田君、この患者さんからはDNR(蘇生処置拒否)の指示を貰っている。このまま見送ろう」


「はい、分かりました……」


 そして10分程過ぎ、患者は息を引き取った。


 65.499kg……誤差21g……



 ボクは、仕事を終えいつもの喫茶店へ車を走らせた。


 注文もせず、真っ先にブックスタンドであの週刊誌を探す。


「マスター、1ヶ月くらい前に置いてあった週刊誌まだ取ってあるかな?」


「いや、だからね……さすがにひと月も前のは……」


「チッ……クソがッ!」


 ボクは、暴言を吐き捨て喫茶店を後にした。


(ここまで続くと、さすがに偶然では無い……本当なのか?なんて存在するのか?医者になる為、必死に勉強してきたが、人体に魂が有りますなんて教わったコトは無いぞ?しかも21gピッタリだ……正に寸分すんぶんの狂いも無い。仮に魂が存在するとしよう。一体どこから出て行く?よくある与太話よたばなしのように、浮き出て天へ昇るとでも?)


 気が付けば、ボクはがんセンターへ戻っていた。


「あれ?田嶋先生、午後から非番では?」


「あ、ちょっと資料を忘れちゃってね……」


「そうでしたか、お疲れ様です」


 ボクは、自分の席に着くとパソコンを開き、電子カルテを見漁った。


(次に……次に死にそうなヤツは……どいつだ?)


 マウスを動かすボクの右手は、まなかった。



 







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