第13話

 随分寒くなってきていた。ここのところ雪の降る日もあった。赤と緑が街を彩っている。キラキラした装飾が眩しかった。今年もクリスマスオフ会がある。今回はユニットではなく柚香の単独だ。今年も心が冷える思いをしなくてすむ。


クリスマスだし白いセットアップを着込んで、待ち合わせ場所に向かう。都内は人の群れでごった返していた。息苦しいなと思いながら、人混みを分けていった。まだ時間が早いし、イルミネーションでも見て時間を潰そう。綺麗だなと思いながら、持ってきていた一眼レフカメラで写真を撮った。今日は撮影OKだった。そろそろいいかなと、待ち合わせ場所に足を運ぶことにした。現地につくともう柚香も他のファンも集まっているようだった。柚香が気づき手を振るので、僕も振り返した。

「全員揃ったので、オフ会はじめます! 今日はみんなにくじを引いてもらって、ちょっとした私にしてもらえるいいことがあります。でも中には私がいい思いをするくじもあるので、お楽しみに!」

 と言ってくじの入った箱をファンに回す。僕の番になってくじを引いた。「じゃあ、みんな一斉に開いてみて」と柚香が言うので、恐る恐る開いてみる。すると『柚香にプレゼントを買う(今日限定)』と書いてあった。他のファンは『夕食中、柚香にあーんしてもらえる』とか『柚香の動画メッセージプレゼント』とかだった。「春人くんはなんだった?」と言うので、くじを見せて「おれ、もうプレゼント買ってあるのに!」と怒ったふりをしてみせた。プレゼントを買ってあることは、柚香にもう言ってあったので柚香も「え!? まさか春人くんに当たると思っていなかった!」とちょっと慌てていたので、「まあいいよ。買ってあげる」と僕は返した。


 まずは場所移動して、イルミネーションを見て周った。柚香は綺麗とはしゃいでいる。僕はその姿をカメラで切り取った。綺麗だからとイルミネーションの前で、チェキを撮ることになった。

「クリスマスだから白いコート着てきたの! 春人くんも白いセットアップでお揃いだね」

「そうだね。おれも同じこと思っていた」

「わーい! じゃあ撮ろう。はいチーズ!」

 チェキを撮った後は、夕飯を皆で食べることになった。レストランが入っている商業施設に移動してお店を探す。どの店も結構混んでいて、中々入る店が決まらない。皆でどこがいい、ここがいいと言い合って探していると、店の外までテーブルが出ている居酒屋の、外の席が空いていたので、その店に入ることになった。席はくじに書いってあった番号順ねと柚香が言うので、くじを見返して番号を確認する。番号は2番だった。1番の人は私の左隣と柚香が案内している。「2番は私の右隣」と言うので「はい」と僕は手を上げた。

「1番の人はあーんする為に隣で、2番の人はプレゼント買ってもらうから隣ね」

 そういうことかと納得して僕は柚香の隣に座った。料理は色々頼んで、皆でシェアすることになった。僕は本当はお酒を飲みたいが、真っ赤になってしまうので、我慢してジンジャエールを頼んだ。料理を柚香が皆に取り分けてくれる。「いっぱい食べなきゃ駄目だよ」と言いながら僕の前にも分けた料理を置いてくれた。それを見て僕はありがとうと返す。柚香が取り分けてくれたからか、どの料理も美味しかった。料理は好きな人と食べると美味しくなるって本当なのだなと、心の中で思った。


 居酒屋を後にして、最後は僕が柚香に買うプレゼントを選びに行くことになった。柚香はこの建物内にあるキャラクターグッズのお店に行きたかったみたいだが、時間も遅く、残念ながらもう閉まっていた。柚香はすごく残念がっていたが、諦めて街をぶらぶら歩いて探すことに落ち着いた。まだ営業しているお店も結構あったが、柚香が欲しそうな物が売っている店はどこも閉まっていた。半ばあきらめムードで駅に向かっていると、駅前にドン・キホーテを見つけて、ここで見る! と柚香が言うので、皆でぞろぞろと入った。柚香は迷わず、キャラクターグッズ売り場へと向かう。

「春人くんはプレゼント買う特権だから私と一緒に見て探そ」

 そう言ってもらえたので、僕は柚香と一緒に見て周れることになって、心の中で跳ね回った。柚香はあれもいいな、これもいいなと悩みながらグッズを見て回る。中々決まらなそうだったので、僕は「1つじゃなくてもいいから、好きなの買いな」と言ってあげた。「わーいいの? ありがとう!」と柚香は屈託ない笑顔をふりまいた。

「じゃあこのヘアバンドにするのと――」そう言いながら移動して「このキーホルダー2種類どっちも好きなんだけど、どっちがいい?」と磁石でキャラクター2人がくっついている2種類のキーホルダーを見せてくる。

「悩むならどっちも買っていいよ」

「ありがとう。優しい」

 じゃあこれでお願いしますと、やっと決まったようだ。ひとときの買い物デートのような時間が終わりを告げる。


 毎回、名残惜しいが、もうお別れの時間だ。帰り際、柚香はキャラクター2人がくっついているキーホルダーを取り出して、取り外し「こっちは春人くんにあげる」と僕に差し出す。僕はいいの? ありがとうと片割れのキーホルダーを受け取った。思わぬ出来事で柚香とおそろいのものができた。


 後日、ライブに行くと物販で柚香が持っている携帯にキーホルダーが付いているのに気づいた。それから僕もバッグにキーホルダーを付けている。


 自分が買ったものでもあるけど、柚香がくれたものでもある、そのキーホルダーが僕はどんなものより大切な宝物になった。

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