オナニーサポート
俺との契約に成功したリリは、上機嫌で寝室に戻っていった。
少しだけでも、戦闘訓練を積んで欲しいが、あの様子ではもう一眠りする気なのだろう。
「はぁ……無理やり連れて行ってもなぁ……」
気持ちが入っていないリリに無理やり戦闘のイロハを叩き込んでも、上達するとは思えない。
上達しないだけならまだマシだが、訓練にはどうしても危険が伴うので、モチベーションの低さは怪我の可能性を高めてしまう。
「はぁぁぁ……」
「おはよう。何かあったの?」
「いや、別に……」
部屋から出てきたアリアに声を掛けられ、俺は慌てて視線を逸らす。
無理やりとはいえ、リリとキスしたことがバレれば、アリアのナイフが飛んでくるかもしれない。
「ねぇ、ケイト……」
「なんだよ」
「あなたって、隠し事が全て顔に出るのよ」
「……な、何のこと――」
アリアははぐらかそうとした俺の言葉を遮り、首にナイフを突き立てる。
「目を合わそうとしないのに、ちらちらと私を覗き込んでいる時は、ムラムラしているか、隠し事をしているかのどちらかなの」
「おい、ちょっと待て! 酷い言い掛かりだぞ! ムラムラしてる時に、お前の顔を見てるって、そんなわけ――」
「あるわ。野獣のような目をしている時があるもの」
「あ、はい」
心当たりがある俺は、それ以上言い訳を並べるのは控えることにした。
「おかず用ちらちらの時は、少しサービスしてあげたら鼻の下を伸ばすのに、ケイトは今、私がわざと胸を揺らしているのに、その揺れを目で追いかけない……」
俺は顔を真っ赤にして俯いた。
アリアがたまに見せる無防備な姿は、俺のオナニーサポートだったのかよ……。
「つまり……あなたは私に隠し事をしている! さぁ、言いなさい!」
有無を言わせない態度で詰め寄ってくるアリアに動揺し、俺は尻もちをついてしまう。
「そ、その……」
ここで、リリとの事を洗いざらい話せば、間違いなく滅多刺しにされてしまう。
俺はフル回転で脳みそを稼働させた。
そして。
「アリアにキスしたことを思い浮かべながら、昨日は抜いたんだ。その……凄くよかった」
恐怖と焦りで、脳みそが出鱈目になっていた俺は、気づけば変態になっていた。
「……恥ずかしくて、目を合わせられなかったということかしら? その……凄く良くて」
「そ、そうだ。その……凄くよかった」
「ふぅん……」
アリアの表情が、慈愛に満ちた笑顔に変わる。
「最初からそう素直に言いなさい。誤解してしまったじゃない」
「……え?」
「朝食、私が作ってあげるわね」
「あ、え? ありがとう……?」
鼻歌まじりでキッチンに向かうアリアの後ろ姿を見ながら首を傾げる。
「どうして、俺は生き残ったんだ?」
解せぬ。
☆
アリアが用意してくれた朝の食卓には、俺の好物ばかりが並んでいた。
栄養バランスに煩いアリアが、明らかに偏った料理を、俺の為に用意してくれたのだ。どう考えても、上機嫌だ。……怖いぐらいに。
「い、いただきます……」
「ふふふふふ……」
アリアの微笑みがなんか怖い。
だが、せっかく好物ばかり用意してくれのだ。素直に喜んで食べるとしよう。
「美味いな」
「ふふふふふ……」
「いつもより、にんにくが効いてる気がするけど、味付け変えたのか?」
「ええ、特別メニューよ」
「そ、そうか。あ、これなに? 見た事ない料理だけど」
「すっぽんね。貴重だからここぞという時の為に取っておいたの」
「……ここぞ?」
なんだ、俺達は今日、魔王討伐でもしにいくのか?
「ふふふふふふふ……」
「アリア、涎垂れてるぞ」
「あら、いけない」
アリアが少し照れた様子で口元を拭っていた時、リビングのドアが勢いよく開いた。
「美味しそうな匂い!」
わくわくした様子で現れたリリを、アリアは道端のゴミでも見るような目で見ている。
「死になさい」
「な、なんで!?」
アリアの突然の罵倒に驚いていたリリだが、テーブルに並ぶご馳走を見て、嬉しそうに席に着いた。
「美味しいぃ。幸せぇ」
口いっぱいに頬張るリリの姿は、誰もが笑顔になるような、微笑ましい姿だ。
「死ねばいいのに」
撤回。誰もの中にアリアは含まれていない。
「ねぇ、お兄ちゃん! お兄ちゃんの体、精気に満ちているね。どうしたの?」
「え? そう言えば体が熱いな」
俺が何気なくアリアを見ると、目が合ったにも関わらず、それとなく逸らされた。
「溜めすぎはダメだよぉ。ちょっと貰うねぇ!」
リリはそう言って、俺のお腹を手でさする。
「んっ、美味しい。お兄ちゃんは中々どろっとした濃い味だね」
「おお、なんかスッキリしたぞ!」
「精気を食べたからだよぉ。体に害が無い程度しか食べないから安心してね」
「そうか。淫魔の食事ってのは意外とあっさり……」
しているんだな。と、アリアに話しかけようと目を向けると、そこには机をバンバンと叩くアリアがいた。
「解せぬ」
今日のアリアは何かがおかしい。
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