童貞ね

「…………」


 一足先に戻り、二人を出迎えた俺は、リリの様子に言葉を失った。

 まるで母鳥に甘える雛のように、アリアにべったりなのだ。


「ふふ」


 アリアは、どうだ。と言わんばかりの表情で親指を突き立てる。

 俺が盲信的な信者の作り方を、最初から最後まで見ていた事に気づいているのかもしれない。


「おいで」


 アリアはソファに腰掛け、膝をぽんぽんと叩いた。

 それに応えるように、リリはアリアの膝に頭を預ける。


「怖かったね、リリちゃん」

「うん……」

「でも、大丈夫。リリの事は、お姉ちゃんが絶対守ってあげるから」

「ありがとう……」


 優しく微笑んで頭を撫でるアリアの姿は、とても様になっていた。


「お姉ちゃん大好きぃ」

「ふふ、可愛い子」


 リリは幸せそうな笑みを浮かべて、アリアを見つめていた。


「リリちゃん、一つだけ約束して。今後はお姉ちゃんの言葉には絶対に従うと」

「え……?」

「これはリリちゃんを守る為なの。お姉ちゃんの言葉に従ってさえいれば、リリちゃんの安全は保証できる」

「う、うん。わかったぁ」

「お姉ちゃんの言葉は絶対。はい、復唱」

「お姉ちゃんの言葉は絶対」


 これが洗脳か……。側から見たら馬鹿馬鹿しいやりとりだが、リリのとろんとした表情を見るに、効果は抜群らしい。


「お姉ちゃぁん」


 リリは目を潤ませてアリアの顔を覗き込む。


「ふふ、どうしたの?」

「えっちしよぉ」

「…………へ?」


 ぽかんとした表情で固まったアリアの隙を突き、リリはアリアを押し倒す。


「ちょっと! ふざけないで!」


 我に帰り、リリの手から逃れようとするアリアだが、リリの力は思いの外強く、上手く抵抗出来ていない。


「気持ちよくしてあげるからね」

「こ、このっ!」


 リリが馬乗りになった事で、アリアは身動きが取れなくなった。


「ほーらぁ」

「ひゃんっ!? 何処触ってるのよ!」

「ん〜? どこだろうねぇ〜」


 リリはニヤリと笑いながら、アリアのお尻を撫で回している。


「いい加減にしなさい! ケイトもなんで止めないの!? 妻の貞操がピンチなのよ!?」

「……自業自得じゃない?」

「止めなさいよぉぉおお!!!!」


 しばらくはアリアにお灸を据えるために、淫魔の逆襲を眺めていたが、リリが服を脱ぎ始めたところで、アリアを救出。

 救出した後も、目に涙を浮かべていたアリアは、このままでは貞操の危機だと思ったのか、盲信的な信者育成計画を洗いざらい話した。


「お姉ちゃんの馬鹿ぁぁああ!!」


 最愛のお姉ちゃんに裏切られたリリは、怒鳴り声を上げ部屋を出て行った。


「酷い目にあったわ……」

「……まあ、お前が悪い。とりあえず、後で謝っておけよ」

「良い考えだと思ったのに」


 アリアは力なく項垂れた。

 珍しく弱った様子を見せるアリアを見て、日頃の仕返しを少ししてやろうと思い立つ。


「いつもは余裕たっぷりのアリアも、淫魔の前では乙女なんだな。必死に抵抗してたじゃないか」

「当然よ、私の初めては、全部あなたにあげるって決めているんだから」

「……え?」

「なに?」

「あ、ありがとう?」

「どういたしまして」


 俺は思わず目を逸らす。アリアの視線を感じるが、そちらに顔を向ける事が出来ない。


「童貞ね」

「あ、うん」


 返す言葉が見つからないな。

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