盲信的な信者の作り方

「ねぇ、ケイト! いつになったら美味いご飯とやらが出てくるの!? さっさとしてよね!」

「ええぇぇ……」


 拠点に戻り、目を覚ましたリリ。

 初めての戦闘で疲れただろうと思い、美味い飯でも用意してやろうと、声を掛けたらこれだ。

 俺はリリの態度に困惑していた。


「リリ、もうちょっと待ってくれ。今、準備しているんだ」

「はぁぁ……早くしてよね!」


 先程までの、お兄ちゃんと呼んでくる、健気な少女キャラは何処かに捨ててきたらしい。


「凄まじい変わり身ね」


 呆れた様子でアリアが言った。


「なに? 文句あるわけ? リリは勇者なわけ。そこのとこわかってる?」

「……ええ、わかっているわ」


 どうもアリアの様子がおかしい。

 何故、態度のでかいリリに、文句の一つも言わないのだろうか。


「お、おい、なにを考えている」


 俺はアリアの耳元でそう言った。


 そもそもだが、いくらリリが強大な力を手に入れたと言っても、俺達は今まで勇者リットの戦いを支えてきた戦士なのだ。

 はっきり言ってめちゃくちゃ強い。

 力に溺れているど素人など、瞬殺できる程度には強いのだ。


 だというのに、アリアは言われっぱなしになっている。


「上下関係って最初が肝心だと思わない?」

「え……? な、何を言って……」


 慢心しないように、最初に実力差を見せつけておくということか?

 もしそうなら、今のアリアは真逆の行動をとっているように思うが……。


「上げて、突き落として……救うの。盲信的な信者の作り方よ。覚えておきなさい」


 教会出身のアリアは、最低な信者の作り方を教えてくれた。


「お、お前……」

「まぁ、見ていなさい。今日中にケリをつけるわ」

「ねぇ、アリア! あんた暇なら肩でも揉みなさいよ! それにケイト! 遊んでないで、さっさとご飯!!」

「ふふ、わかったわ」

「お、おう……」


 俺は怪しい笑みを浮かべるアリアを見なかった事にし、飯の準備に戻った。


 しばらくして準備が終わり、机に皿を並べると、リリは礼も無しにガツガツと食べだした。


「ふーん。まぁまぁね。褒めてあげる」

「あ、ああ……ありがとう」


 俺はリリの態度より、済ました顔で淡々と食事を取るアリアが気になった。

 こいつ……何を考えてやがる。


「片付けは私がやっておくわ。リリは勇者なんだから、雑用なんてせずに英気を養いなさいな」


 食べ終わると、アリアは笑みを浮かべてそう言った。


「当然よね! じゃあ、私は一眠りするわ。晩御飯の頃に起こして」

「お、おう」


 リリは欠伸をすると、寝室に入っていった。


「ケイト、縄を用意しておきなさい。しばらくしたら動くわ」


 そう言って、アリアは自分の部屋に戻っていった。


「結局片付けるのは俺かよ……」


 まぁ、別に良いのだが。

 俺は片付けを終わらせて、アリア御所望の縄を用意して、アリアを待っていた。

 しばらく待っていると、アリアは部屋から出てきたのだが……。


 全身黒ずくめだった。


「な、なんで?」

「私だとバレない為よ」


 丁寧に顔まで隠しているのだから、正体を隠す狙いだということはわかる。

 わからないのは、何故正体を隠すのかということだ。


「さぁ、行ってくるわ」


 そう言って、リリの元に向かうアリア。

 俺はバレないように後を追った。


「あ、あいつ、何をして……」


 アリアが縄でリリを縛っている。

 途中で気づいて抵抗しようとしたリリを、手加減無しにぶん殴った。


「い、痛いっ! な、何するの! 私は勇者なのよ!」

「知っている。だからこそ攫うのだ」


 無理やり捻り出した低い声で話すアリアの言葉に、リリは噛み付いた。


「私を勇者と知っての狼藉なんてね。あんた馬鹿なの?」

「ふんっ!」

「い、痛い!?」

「黙れ。今すぐ殺しても良いのだぞ?」


 懲りずに挑発するリリを暴力で黙らせたアリアは、リリを引きずって外に出て行く。


「い、痛いよぉ」


 縄で縛られ、地面を引きずられているのだ。そりゃあ、痛い。

 それでもアリアは歩き続けた。


「ここ何処? もうやだぁ……許して」

「ここがお前の墓場だ」


 辿り着いた薄暗い路地。

 アリアの言葉に聞き、リリはその顔を涙や鼻水でグシャグシャにして泣き叫んだ。


「嫌だよ!! 死にたくない! 誰か助けて!!」


 リリの叫びと同時に、辺り一面が光に包まれる。


「あ、あいつ……」


 原因はアリアの魔法だった。

 リリが光に目をやられている隙に、黒ずくめの衣装を脱ぎ捨てている。


 そして走ってもいないのに、荒い息遣いをし、光が収束すると同時にリリを抱きしめた。


「リリちゃん! 大丈夫!?」

「お姉ちゃぁぁぁん!!」


 リリは突然現れたアリアを見て、涙を流しながら抱きついた。


「怖かったよね。もう安心だからね」


 いや、恐怖を与えていたのはお前だろ。


「あ、あの、黒いやつは?」

「大丈夫。私が倒したわ」


 倒していない。目の前にいる。


 安心した様子で、アリアの胸に顔を埋めるリリ。そんなリリを、アリアは慈愛に満ちた笑顔で受け入れていた。


「なるほどな」


 見なかった事にしよう。

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