第6話 こういう流れになっちゃう

 父さんたちが街へ向かった……その余韻をしばし味わってから遊びに行く。

 また、いつものようにジギムとルゥも集合場所に来るはず。

 ちなみに、この村で同じ年齢の子供は僕ら3人だけ。

 そして、僕らより上となると成人に向けて独り立ちの準備を始めるため、家の仕事の手伝いを本格的に始めたり、剣術とかなんらかの技術修行に打ち込み始めたりして、徐々に遊びから遠ざかっていく。

 まあ、街に出てみたいっていう都会志向の兄ちゃん姉ちゃんも結構いるからね。

 街で仕事をもらえるよう、今のうちに腕を磨いとくって感じかな?

 ……ただ、僕が今まで見てきた感じ、街に出てった多くの兄ちゃん姉ちゃんは涙目敗走で村に帰ってくるって感じだったけどさ。

 でも、街に出た全員が村に帰ってきたわけじゃない。

 中には街で上手くやれてる凄い人も少ないけど存在はしている。

 ま、僕にはよく分からないけど、そういう人には都会の風が似合ってたってことなんだろうね。

 そしてやっぱり、少ないながらもそういう存在がいるからこそ、村の子供たちも都会の生活に夢を見ちゃうんだろうねぇ。

 それに、さっきみたいに村の大人たちの大ボヤキ祭りなんかを見て育つと、「こんなところで、ただ朽ち果てるのを待つだけの人生は嫌だ! 何かビッグなことをしたい!!」ってなっちゃうのかもしれない。

 その点、僕はこの村でのんびりと老いてゆく、そうしてゆったりとした時間の流れを味わい尽くす所存である。

 何も急ぐことはないのさ、生きることを焦る必要なんかないんだ。

 そんなことを思いながら、ジギムとルゥはまだ来ていなかったので、空を見上げながら雲の流れをしみじみと眺めていた。


「おいノクト! 空なんかぼーっと見て面白いんか?」

「やあ、ジギム、それはもちろん。雲はいいよ、特に今日みたいなゆっくりと流れていくのは実に僕好みだ。はぁ……できることなら僕も雲になりたい、そんなふうに思ってしまうぐらいさ」

「分っかんねぇ! そんなんつまんねーだろ! 俺はもっとガンガンいきてぇ!!」

「フッ……ジギムはジギムの生き方をしたらいいさ、趣味趣向は人それぞれだからね」

「……スカしやがって、こんにゃろ!」


 そういいながら、ジギムが僕の頭をワシャワシャやってくる。


「ちょっ! やめてよ、この髪型……セットするのに1時間かかるんだよ!?」

「ウソつけ! その髪型で、そんなにかかるわけねぇだろ!!」


 まあね、寝ぐせは直すけど、さすがにそれだけで1時間もかからないので、ジギムのいうとおりである。


「お待たせぇ~2人とも何やってるの~?」

「おう、ルゥ! それがな、ノクトがおかしなことばっかいうから懲らしめてたんだ!!」

「へぇ、そうなんだぁ……でも、ノクトちゃんが変なことをいうのはいつものことだよね?」

「なッ!? 変なこ……と……だと?」

「なんだその顔、ウゼェからやめろってぇの!」

「うん、なんていうか……ノクトちゃんの顔芸には自然さがないっていうか、どうも過剰なところがあるんだよねぇ?」

「そん……な、バカな!?」


 だって、父さんが「男ってのはな、過剰なぐらいがちょうどいいんだ!」って僕に教えてくれたんだよ!?

 ねぇ、父さん! あれはウソだったの!? いたいけな僕の心を騙したっていうの!?


「なあ、ノクト……そろそろその濃ゆい顔をやめて、普通に遊ぼうぜ?」

「うん、私も……そろそろいいかなって……」

「そっか! じゃあ、今日は何をして遊ぼっか?」

「変わり身、早っ!」

「……これもノクトちゃんらしいよねぇ」

「まあまあ、そんなことより、どうする? 希望がないなら、このまま雲……」

「それならっ! 今日こそ、お茶……」

「待った! 今日は『隠形ごっこ』やろうぜ!!」

「隠形ごっこか……ジギムも好きだねぇ?」

「ほ~んとだよねぇ……まあ、ジギムちゃんにしては落ち着いてる遊びでいいとは思うけどさ」


 隠形ごっことは……古くは騎士団の諜報部隊の訓練方法だったといわれる由緒ある遊びである。

 そしてそれはほぼ言葉どおりであるが、隠れる者と探す者に別れ、一定の範囲内に姿を隠している隠れる者を、探す者が探す遊びとなる。

 ……というのが、大まかな隠形ごっこの内容かな?

 そんで勝利条件としては、探す者が隠れる者を見つけられるかどうかっていう、なんともシンプルなものといえるね。


「あったり前だろ! こういう遊びの中で、将来冒険者として成功するための技術を磨くんだからな!!」


 ……とのことらしい。

 まあね、そんなふうにして街に出て行った兄ちゃんたちも若い頃は隠形ごっこに取り組んだりもしていたみたいだからね、そのマネだろう。


「でも、森に出るのはやめておいたほうがいいんじゃない? ジギムもおじさんに行くのを控えろっていわれたでしょ?」

「うん、ついさっきノクトちゃんのお父さんとか、大人の人たちが何人も村を出発したばかりだもんね?」

「そんなん知ってるけどよ……でも、行くなっていわれてんのは奥のほうだろ? 浅いところだけなら大丈夫だって!」

「でもなぁ……」

「うん……」

「おうおう、お子ちゃまたち、もしかしてビビってんのかぁ?」

「まあ、どちらかというと……何かやらかしてしまって、あとで父さんたちに怒られることにビビっているかな?」

「お父さんもだけど、特にお母さんは怒るとコワいんだよね……」


 ジギムが煽ってくるが、それを僕とルゥは難なく受け流す。


「いーや! 今日は隠形ごっこをする! 俺はもう、そう決めてんだ!! それに、ノクトも雲を見てぇなら、隠れながら空を眺めてりゃいいだろ? ま! 隠れるのがヘタクソ過ぎて、空を眺める間もなく見つかっちまうかもしんねぇけどな!!」

「ほぉぅ? ジギムボーイもいうじゃないか……」

「ダメ、ノクトちゃん! これはジギムちゃんの罠よ!!」

「なあ、ノクト……どっちが本物の『隠形野郎』か、勝負といこうぜ?」

「そうだねぇ……『隠形マン』という名を賭けての勝負なら、受けて立ってもいいかもね?」

「……それって、あんまり変わんないよぉ!」

「へへっ、なら決まりだ!」

「ただし……絶対に森の奥へは行かない、これだけは約束だ」

「ああ、それでいいぜ!」

「はぁ……やっぱりこういう流れになっちゃうのね……」


 こうして、僕たちは隠形ごっこをすることになったのである。

 そしてゴメンよ父さん、流れには勝てなかったんだ……

 でも、森の浅い部分だけという約束は勝ち取ったから、それで納得してくれると嬉しい。

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