第7話 今日は珍しいね

「97……98……99……100! さぁ~て、コソコソ隠れてるネズミちゃんたちの捜索開始といきましょうかねぇ?」


 隠形ごっこを続けているわけだが、今は僕が「探す者」を担当している。

 そして「隠れる者」担当のジギムとルゥは、僕が100を数えているあいだに森の中で姿を隠すというわけだね。


「ふ~む……どこに隠れているのかなぁ?」


 あえて声に出すことで、ちょっとした反応が返ってこないか様子を探る。


「……ここッ! ……にはいないみたいだねぇ? フフッ、上手に隠れているネズミちゃんたちだよ」


 こうまで反応がないところを見ると、もしかするとこちら側はハズレかな?


「……と思わせて!」


 すかさず「バッ!」と振り返って木の上に視線を向けてみるが、いないようだ。


「ほぉ~う、この僕をここまで手こずらせるとは……なかなかやるじゃないかぁ。いいよ、実にいい! とても面白くなってきた!!」


 どうやら本当にいないようなので、探すポイントを変えることにしようかな?

 そう思い、今までと反対側へ向かう。


「さぁ、大いなる自然よ! 僕にネズミちゃんたちの居場所を教えておくれ!!」

「……!」


 ……お!? 今、微かに何者かが息をのむ気配を感じたぞ?

 これはもしや……アタリかな?

 ちなみに、この隠形ごっこであるが、一カ所に留まっていなきゃならないという決まりはない。

 探す者に見つからない限り、場所を移動するのは自由である。

 ただし、移動に伴い、枝を踏んだり木の葉っぱを揺らしたりして音を立ててしまうリスクがあるので、よほど自信がない限り、多くの者は一カ所にジッとしていることを選択するだろうとは思う。

 というわけで、気配を感じた方向に意識を集中させながら、近づいていく。

 おそらくそこには、移動する自信のない者が留まっているだろうからね。


「フフッ、もうすぐ見つけてあげるからねぇ? ハハッ、今頃震えちゃってるのかなぁ? でもダイジョ~ブ、恐くないからねぇ? アハハハハ!!」

「……ッ!」


 おぉっ、気配が濃くなった!

 やはり、こちらで正解のようだね!!

 そうして確信を深めながら、気配のする方向へ突き進んでいく。


「ほらほら、ネズミちゃ~ん、もうすぐだからねぇ? でも、僕は優しいから、逃げるチャンスをあげちゃおうかなぁ~? ほら、いいんだよぉ~?」

「……」

「……そっかぁ、フフッ、隠れ暮らす生活に疲れて観念しちゃったんだねぇ? じゃあ、もうかわいそうだから、これで終わりにしてあげようかぁ………………ルゥ、見っけ!!」

「……はぁ」

「ん? ルゥ、どうしたの?」

「……あのねぇ、探しながらブツブツいうの、あれってどうにかならない?」

「え? なんでさ?」

「なんか、気持ち悪いっていうか……不気味なのよね」

「……なッ!? そんな、バカな……!!」

「いやいや、無駄に驚いた顔してるけど、自分でも自覚あるんでしょ?」

「え、いや、まあ……」


 確かにね、僕としても何かしらの反応を誘発しようという意図があってのことだというのは認めるところだ。

 でも、これは僕なりの「隠形ごっこ必勝法」だからね、簡単にやめるわけにはいかないのさ。


「チッチッチッ、ルゥ君……『隠形ごっこ中に私語をしてはいけない』とルールブックに書いてあったかね?」

「せめてルゥ『さん』にして欲しいところだけど、まあいいわ……それでね、ノクトちゃんのいうとおり、ルールブックに私語をしてはいけないとは書いてない……というか、ルールブックなんてそもそもないんだけど……そういうことじゃなくてね、これは気分の問題なの」

「ほう、気分と申されるか? ならば、私語を慎む必要はなさそうだ」

「……ゴメンだけど、一回引っ叩いていい?」

「おやおや、暴力ですか……仮にもレディを志す少女が、いけませんねぇ?」

「……むぅ。とりあえず、まだジギムちゃんが見つかってないみたいだし、先にそっちを探しちゃおうよ」


 たぶん「レディ」という単語に勢いを削がれたのであろう、ルゥが話題を変えてきた。


「まあ、それもそうですねぇ?」

「……でもやっぱり、そのしゃべり方……気持ち悪い」

「え、なんて?」

「……なんでもない」


 ここからどんな逆襲を食らうか分からないので、あえて聞こえないフリで受け流すことにした。

 フフッ、僕ったら、なかなかの策士だね!


「それじゃあ、気を取り直して……ジギムボーイの捜索再開といきましょうかぁ? フフッ、僕にかかれば、あ~っという間に見つかっちゃうからねぇ?」

「……はぁ」


 とはいうものの、ジギムは「隠形ごっこ大好きマン」だけあって、隠れるのが上手い。

 それに比べて、いっちゃ悪いかもしれないが、ルゥを探すのはウォーミングアップにすらなりゃしない。

 ゆえに、ここからが本当の勝負といえる。


「さぁ、風よ! ジギムボーイの息遣い、そして心臓の鼓動の音を僕に届けておくれ!!」

「……やっぱり、不気味」

「ちょっと、ルゥ! 君に声を出されたら、風の声が聞こえないじゃないかぁ!!」

「あら、ごめんあそばせ」

「まったく、しょうがない娘さんだよ! 親の顔を見てみたいぐらいさ!!」

「……はぁ、何度も見たことあるでしょ?」

「……うん、そうだったね」

「それはそれとして、ジギムちゃんを早く見つけましょう?」

「オーケー! 任しといてよ!!」


 そうして足跡を探してみたり、隠れられそうな場所などを丁寧に調べていくが、なかなかジギムの姿を捉えられない。


「さすがジギムボーイ! 僕と『隠形マン』の名を賭けて争う好敵手だけあって、なかなか隠れるのが上手いじゃないか!!」

「……その名に争うだけの価値があるのかなぁ?」

「ルゥよ……男同士の問題に口を挟むもんじゃないぜ?」

「はぁ、そうね……私が悪かったわ、好きにしてちょうだい」


 ルゥが明らかに呆れた顔をしているが、まあ、仕方あるまい。

 するとそのとき、ガサガサと草や葉が擦れる音が聞こえる。

 ただし、さほど激しい音ではない。

 これが獣とかモンスターなら、もっと擦れる音が荒っぽいだろうし、鳴き声や荒い息遣いなどもあってうるさいはずだから、おそらくそれらではない。

 ……となると、ジギムかな?

 しかしながら、今までの傾向からすると、この程度で隠れるのに飽きて出てくるなんて、まず考えられないはずだし……

 でも、今頃森にいるのは僕らぐらいだよな?

 まあいい、試しに声をかけてみるか。


「おいおい、ジギムボーイ、こんなに早く降参とは、今日は珍しいね……え?」

「こんにちは、ホツエン村の子たちかな?」

「そうですけど……どちら様?」


 姿を現したのはジギムではなく、見知らぬ兄ちゃんだった。

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