第39話 決戦、決着へ

(……どうやら、あいつもこれ以上戦闘を引っ張る気はないみたいだな。間違いなく次が最後の攻防になるだろうな)


 再び先程の構えを見せるモルストを無言で見つめる。モルストの周囲の空気が再びひりつくのを肌で感じる。


(……さて、どうなるかな)


 先程のモルストの一撃を見て、自分が抱いた感情は二つに分かれていた。一つは紛れもなく脅威である。いかに自分の魔法があれに匹敵すると技を放ったモルスト自身に言われようと、実際にくらってしまえばどうなるかの保証はない。あくまでその後は『依代札』頼みなのである。


(属性魔法の炎や氷みたいに互いに干渉し合って相殺、みたいな感じになってくれりゃあ良いんだけどな。……最も、モルストがそれで納得してくれればの話だが)


 聖剣の一撃と、自分の魔法。どのような結果になるのかは全く分からないのだ。だが、分からないゆえにもう一つの感情が芽生えた。


(……だからこそ、試してみてぇよな。『本当にそうなのか』ってのを)


 自分が魔法を使えると裏のルートで噂に聞き、半信半疑ながらも自分の前で魔法を放ってみろと初対面で開口一番に言い放った女勇者。その言葉と態度にご要望とあらば、と遠慮なく魔法をぶっ放した自分。柄にもなく当時の出会いを思い出しながらモルストを見る。


 もう一つの感情は、純粋な好奇心。誰もがその才を認め称える勇者の一撃を真っ向から受け止め、果てにはそれを凌駕する事が出来るのだろうか。その気持ちは脅威をはるかに上回るだけでなく、面倒ごとを極力避け続けてきた自分にとって初めて生まれた感情であった。


「……感謝するよ、モルスト。お前のおかげで色々と俺のこれからの未来が変わりそうだ。もっとも、この後の結果次第じゃ未来どころじゃないかもしれないけどな」


 苦笑しつつもモルストにそう言うと、モルストも構えたまま笑いながら言う。


「それはお互い様だろうリッカ。私とてお前を殺すような事はしたくないし、逆にお前に殺されお前を勇者殺しの大罪人などしたくない。……だが、今この機を逃せば下手をすれば二度とこの様な事は出来ぬかもしれない。そう思うからこそ、ここで退くという答えはない」


 そう言って言葉を打ち切り、こちらを待つかのように足を一歩踏み出すモルスト。


「……同感だ。こちらもそのつもりだよ。それじゃあ行くぜ。あと、最後に一言だけ言っておくよ」


 魔法の構築に入る前に、モルストを真っ直ぐ見つめて言う。


「……あれから修業を続けてきたのが、お前だけだと思うなよ」


 それだけ言って魔法の構築に入る。……かつて魔王に向かって放った時よりもっと正確に。続けて脳内で自分が編み出した術式で魔法陣をイメージする。そして全てを貫くような光を思い描き、それを言霊に表すための準備をする。


 ……貫け。何をもってしても、何を前にしてもそれら全てを打ち抜く程の……『光』で。


 あとは最後の詠唱を唱えて魔法を発動するだけと言うところで、モルストの声が響く。


「……『我が呼び声に吼えよ聖剣』っ!」


 こちらのタイミングを計っていたかの様にモルストが技を放った。同時に自分も今まで、いや人生で一番と言って良い程の大声で手をかざして叫んだ。


「……『貫け光よ!螺旋の光槍』!」


 モルストの放った閃光の槍に、唸りをあげながら自分の魔法の槍が一直線に向かう。奇しくも互いに放った技が槍の形状に見えた時、モルストの技がこの形になったのはこれをあの時に魔王へ放ったのを見たからなのだろうかと魔法を放ちながら思った。そう思った次の瞬間、二本の光の槍は空中で激突し、周りに衝撃が走る。


「ぐっ……!」


「くうっ……!」


 互いに技を放ったままの構えのまま、吹き飛ばされないように懸命に足に力を入れて堪える。未だ互いの放った光の槍は空中でせめぎ合っているが、徐々に自分の槍がじわじわとモルストの槍に押されているように見えた。自分と同じくそれを感じたのか、互いの光の槍の後ろからモルストが叫ぶ。


「は……ははっ!どうだ!私の勝ちだ、リッカ!今ならまだ回避なり結界を発動出来るだろう!さぁ!今すぐそこから逃げろっ!」


 確かに、技の勢いはモルストの方に軍牌が上がるかもしれない。このままでは確かにモルストの言う通りの結果になるだろう。……そう、このままなら。


「……これで終わりかと思ったか?……舐めんなっ!」


 そう言いながら魔法を放った際に大きく開いていた手をぐっ、と握りしめてもう一度大きく叫んだ。


「……『光よ!螺旋を描け』っ!」


 自分がそう叫ぶと同時に、自分の放った光の槍がモルストの槍にしゅるしゅると絡み付く蛇の様に形を変えてまとわり付く。そしてそのまま螺旋を描き、モルストの方へと向かっていく。一度放った魔法がこちらの意思で形を変える。いくらモルストでもこれは初めて目にするはずだと確信する。


 放った光魔法の『再操作』。これが最後の奥の手であった。


「なっ……!!」


 想像通り、驚愕の表情を浮かべるモルスト。そのモルストに自分の光の槍が真っ直ぐに向かっていく。次の瞬間、閃光が広がりモルストの姿が視界から消える。


 だが、それと同時に勢いが多少削がれたものの、その勢いを完全に殺すまでには至らなかったモルストの光の槍も自分の眼前へと迫ってきていた。


(……そうだよな。こいつの威力までは流石に消せないよな。まだまだ研究の余地有り、か)



 そして、次の瞬間轟音と共に間髪入れずに二つの大爆発が起こった。

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