第38話 モルスト、勇者たる実力を示す

「……あらかじめ言っておくぞ、リッカ。私のこの一撃は私の中でも最大最強の一撃だ。あの時のお前の魔法と同等……いや、それをも上回る自信がある。もう一度言うぞ。今一度私の元で戦う気はないか?」


 剣を構えたままモルストが言う。その真剣な眼差しに下手な返しは許されないと思い、その瞳を真っ直ぐ見据えて言う。


「……悪いが、何度言われてもそれは出来ねぇ。自分の顔と名前が知れ渡るのは死んでもごめんだっていう気持ちは今も変わらない。それに……」


 会話の途中で遠くからこちらを心配そうに遠くから見つめている皆の方へ視線を向けて言う。


「あいつらを何処に出しても恥ずかしくない魔術師に育て上げる、って目的も見つかったからな」


 そう自分が言うと、モルストがほんの一瞬口元に笑みを浮かべる。


「……変わったな、リッカ。旅をしていた時のお前はどこか無気力で、自分の意思表示をする事などほとんど無かった。いつも私や誰かの意見に合わせているように見えた。そんなお前がそのような言葉を口にするとは夢にも思わなかったぞ」


 モルストの言葉に、過去の自分を少し振り返る。


 旅の中で自己主張をしなかったのは、揉め事を避けるためというのもあったが、モルストをはじめ他の仲間が皆本当に優秀だというのもあった。口を出すのはあくまで正解や最適解を導くための誘導やアドバイス程度に留めていた。


 それに加え、下手に自分の意見を出すよりも流されるままに動いていても上手く事が運び、何よりそれが楽だったというのも正直な理由だった。


(……旅の中なら思う存分堂々と魔法を使えると思って軽い気持ちで参加したのが申し訳ないと思ったのを思い出すな。……だが、今は違う。俺は自分の意思でここにいたいと思っているんだ)


 そう思って改めてモルストに向かって言う。


「お前にそこまで思って貰える事には素直に感謝するよ。だがな、俺にも引けないものがあるんだ。悪いが、全力で抗わさせて貰うぜ」


 自分の言葉にモルストがふっ、と笑いながら言う。


「……あぁ。ここに来てお前の想いを理解したよ。だからこそ、私はお前を力づくで……ねじ伏せるっ!」


 そう言って突如モルストが自分とルジア達とは逆の方向を向き、聖剣を振り下ろしながら叫ぶ。


「……『我が呼び声に吼えよ聖剣』っ!」


 モルストが叫ぶと同時、振り下ろした聖剣から雷のような轟音と共に槍の様な閃光が放たれた。その閃光は地面を抉り取るようにかなりの距離を走り、やがて閃光が地面に命中すると同時に先程以上の轟音を立てて爆発した。


「なっ……!」


 爆発音と共に辺りに衝撃が走り、周囲に土埃が瞬時に舞い上がる。視界が遮られてしまうため、皆の様子を知るために魔法を構築し詠唱を唱える。


「……『届けよ囁き、蝙蝠の音響』!」


『聴覚探知』の魔法を唱え、周りの様子を探る。即座に効果が発動され、遠くにいるルジアたちの声が聞こえてくる。


『――ちょっと!何なのよあれ!いくら勇者だっていってもやりすぎでしょ!――』


『――お、落ち着いてください!モルストさんは私たちや先輩の方へ今の一撃を放ったわけではありませんから!――』


 ……ルジアたちの会話が聞こえる。この様子だと他の皆も大丈夫だろう。この後の戦闘の妨げになると思い、皆の会話の様子を聴き安否が確認出来たところで魔法を解除する。


「……しかし、自分で言うだけあってかなりの技だな。普段の聖剣の一撃とは桁違いの威力って事は間違いないな」


 やがて土埃が収まり、モルストの放った先の地面があらわになる。その光景を見て思わず声が漏れた。


「……マジかよ。想像以上じゃねぇか。……ってか、これ後でちゃんと直せるのか?」


 地面を抉りながら放たれた閃光の直撃地点には、まるで隕石でも衝突したのかと思うほどの大きなクレーターが出来ていた。仮に自分が爆発系の魔法を全力で放ってもここまでの威力が出せるか疑問に思うほどのレベルであった。


「……どうだ?私の一撃は。私だけお前にいきなり初見の技を放つ訳にはいかないからな。まずはこいつの威力を見て貰おうと思ったのだが」


 呆然と地面を見つめていた自分にモルストがこちらに近付き平然と声をかけてくる。


「……正直、予想以上だよ。だがお前、これを本当にこの後俺に放つつもりか?魔王を倒した一撃をただの一般人によ」


 そう言葉を返すとモルストが鼻で笑いながら言う。


「ふん。お前の様なふてぶてしい一般人がいてたまるか。……だが、実際にお前に直接放つ前に確認して貰いたかったのは確かだ。公平となるべくお前に見せておきたかったし、これを見てお前がどう思ったか知りたかったからな」


 そう言ってモルストが言葉を続ける。


「……リッカ。最後にもう一度だけ聞くぞ。今の技を見た上で、本当にこのまま技のぶつけ合いに応じるか?『依代札』なる物があったとしても、それが本当に発動する保障は無い。何しろ互いに未知の技だからな。……それでも、このまま勝負を続けるか?」


 モルストの言葉に、言葉ではなく態度で示すべく魔法を放つ構えを取り、モルストを真っ直ぐ見つめる。そんな自分を見てモルストが一瞬だけ笑みを浮かべて言う。


「……そうだな。お前が今更こんな言葉を受け入れるはずがなかったな。……では、結果をもって知らしめる事としよう」


 そう言って、モルストが再び剣を構え直した。

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