第三章 平穏な日常 2.新拠点 --7ヶ月経過--
新しい拠点を探している。大型のホームセンターだ。
やっぱりホームセンターは使える機器や資材が揃っているから便利だ。ここよりもう少し北西の方に行けば多摩地区最大の超大型店がある。そこなら十分な広さがあるから、店内を整理すれば大きな屋内農園が作れる。乾田だけでなく、麦も蕎麦も野菜も育てられると思う。
ネットが生きていれば衛星写真で周辺の様子を確認できるのだが、紙資料しかない。図書館でちょっと古い航空写真を見つけた。目標のホームセンターが建つ前のものだが、多分周辺はあまり変わっていないと思う。
そのホームセンターがあるはずの場所近くには畑がたくさんある。これは良い。ほったらかしでも野菜が自生するんじゃないだろうか。自分で作ったものだけだと飽きて、たまには違うものが食べたくなると思うから、時々採取して食生活を豊かにしたい。
畑は結構広いぞ。たとえ虫に食われているとしても、十分に広ければ俺1人分ぐらい採集できるんじゃないかと思う。根拠はないが。
それに、すこし離れたところに工場だか倉庫だかの巨大な建物がある。その屋根にある大量の太陽光パネルが欲しいんだ。民家の屋根にもたくさんの太陽光パネルがあるが、素人の俺がハシゴをかけて取り外すなんて危険だ。フラットな屋上のパネルを頂戴する方がずっと安全だ。これで電力は確保できるんじゃないかな。
バイクにDVDナビを取り付けた。最初ハンドルに付けようと思ったんだが、結構重い。タンクに巻き付けるように積んだ。
125ccのバイクでは、DVDナビを駆動するにはバッテリー容量が不足する。バイク用品店から調達したサイドバックを後部座席に取り付けた。これで後輪の両側に収納バッグができた。そこに大型バイク用のバッテリーを入れる。車用は大きすぎてさすがに積めない。バッテリーが重くてバイクが傾いてまっすぐ走れない。左右のバランスを取るために、反対側に予備バッテリーを入れた。これで長時間使えるぞ。
ちなみに125ccのバイクの発電機では増設したバッテリーの充電は難しいので、バッテリーチャージャーを使って管理棟でフル充電してから出発する。
魔改造していない普通のドローンを積んで目標のホームセンターに向かう。ただ行くだけではなく、要所要所でドローンを飛ばして周辺の道路状況を確認して、軽トラが通れる場所をナビにマークしていく。帰りはマークしたルートの検証だ。
目標のホームセンターに到着。通常なら30分程度の道のりだが、丸々半日かかった。
実はこのホームセンターには初めて来た。多摩地区最大という触れ込みで話題に上っていたから気にはなっていたが、ニュータウンの団地から結構遠いし、貧乏人はホームセンターよりも100円ショップに行ってしまうからだ。
建屋は思ったより広かった。南北に長いのだが、なんだか不思議な構造だなと思って周囲を回ってみると、傾斜地を利用していて、東側から見ると2階建てだが、坂を上りつつ北側から西側に回り込むと、地上1階、地下1階に見えるんだ。つまり、2階の店内から高低差なく地上駐車場に出られるのだ。そして屋上にも駐車場がある。エレベーターが止まっているから大きな荷物を上げ下げすることは難しい。一般的な構造だと地上から屋上駐車場には行けるが、車で2階に乗り入れることができない。だが、この構造ならば軽トラで1階、2階、屋上の間を自由に運べる。想定外の喜びだ。
2階駐車場にバイクを停めて、念のため完全防護服に着替えて懐中電灯を持って2階の店内に入る。
北側の一角がスーパーマーケットになっていた。窓が少ないので懐中電灯を照らして慎重に調べる。
被災者は主婦と子供、高齢者が結構いる。それに従業員だ。少なくはないな。大分乾燥が進んでいるから運びやすいとは思うが、どこまで丁寧に埋葬できるかな。ちょっと検討が必要だ。
食品は半分以上ダメだろう。バックヤードにもたくさんあるだろうな。春になる前にかたづけて消毒しよう。夏になったらまだまだ匂いそうだから腐った食品はどこかに埋めてしまいたい。
2階の残り部分の大半は郊外型大型電気店だ。東西がガラス張りなので懐中電灯は要らない。新型電気製品が大量に並んでいる。ラッキー。生活家電は全部新品に替えよう。引っ越しも楽だ。大型のテレビもある。DVDは卒業してブルーレイにしよう。音響も整えてシアタールーム兼ゲームコーナーを作ろう。
電気店には被災者さんが少ない。主に従業員だ。床にシミができているが、乾燥が進んでいるから掃除すれば大丈夫だろう。手袋とゴーグルを外し、カッパの上着のファスナーを下げて少し楽にした。
さらに南側に行くとリフォームと家具、それにアウトドア用品のテナントが入っていた。それぞれ小さめだが、手広くやってんなぁ。
以前、大型家具屋で寝たときは広すぎて落ち着かなかった。古民家もちょっと俺には広かったんだよな。でも、このアウトドア用品売り場はパーティションで程良く区切られているし、テントを張れば落ち着いて寝られる気がする。なによりこの一角は被災者さんがいないのが良い。うん、そうしよう。
止まっているエスカレーターを歩いて1階に降りる。降りたところは出入り口のすぐ近くだ。一旦外に回ってみよう。
外側は園芸とか農業とか外回り関係のものが多い。屋根があるから水不足で植物は全部枯れているが、種は使えそうだ。種芋は使えるかな? ダメ元で植えてみよう。あと、肥料と土がたくさんある。この辺りは屋内農園に使えそうなものがたくさんあるぞ。
店内に戻ってみると、こっちは全面ホームセンターだ。ものすごい広さだ。
東と南側はガラス張りだからある程度明るいが、西と北側は地下になっているので店の奥は懐中電灯が必要だな。
明るい南側から見てみよう。木材とか塩ビのパイプ、発泡スチロールの板とか、建築やDIYの資材がたくさんある。南側の外には電動フォークリフトがあるから充電できれば楽に運べそうだ。
北側に移動していくと、工具や作業服などがあった。さらに行くと文房具とか洗剤とかの日用品が並び、その先には酒や飲料などの食品が並ぶ。大半の食品はもう賞味期限が切れているが、まだ腹は壊さないだろう。美味そうな奴は飲み食いしよう。長期保存できるものはそのまま活用だ。
さらに奥に行くとペットコーナーだった。さすがにみんなお亡くなりになっている。水槽は半分ぐらい水が減っている。ここも早めに掃除しないと夏になったら匂いが大変だ。水槽の処分は体力が要りそうだな。ちょっと憂鬱。
ホームセンターの被災者は従業員が多いが、一般客もまあままいらっしゃる。スーパーほどではないが、埋葬は簡単じゃないな。うーん。
今夜はここに泊まることにした。まずはトイレの確保だ。トイレは大事だよ。子供の頃にトイレで失敗した記憶って消えないんだよな。トラウマと言ったら大げさだけどさ。やっぱり快適なトイレを確保しなきゃ。
店内にトイレは複数あるが、アウトドアコーナーに近いところをメインに使うことにした。幸い、被災者さんはいないし、掃除も行き届いていた。
幸いタンク式だ。3つ並んだ個室の真ん中を選択して水を流してみた。使えそうだ。ここを掃除しよう。
なぜ真ん中か? 利用頻度が一番低いからだ。心理的に、入り口から一番遠いところがよく使われる。奥の個室が使われているときに入ってきた人は、一つおいて入口側を選ぶ。使っている個室の隣には入らないんだよね。だから真ん中は利用頻度が低いのだ。
利用頻度が低ければ痛みも汚れも少ないだろ? まだ新しい店舗だからね。
元々キレイに掃除されていたから、被った埃を取る程度で十分使える。小便器の方もあとで掃除しよう。
とりあえず、流すための水は賞味期限切れのペットボトルのお茶を使おう。使う度に水を補充すれば良い。後でポリタンクでも設置して、水を運ぶことも考えよう。
手洗いの水道も使えないから、とりあえずウェットティッシュとゴミ箱を配置。それと、要所要所に電池式のランタンを設置した。
1階のトイレも使えるようにしておかないとな。小だけでも。
出す方の心配が無くなったら腹が減った。今度はメシだ。
スーパーは片付けないと入る気にならない。1階から美味そうなインスタント食品とお菓子と飲料、ウェットティッシュとかの衛生用品、あとタオル類と化学カイロを持って2階のアウトドア用品売り場に戻る。
長靴からアウトドアサンダルに履き替える。体を拭いてウェアも軽快なものに着替えた。新品だからちょっとゴワゴワする。
ディスプレイ用に設置してあった家族向けテントをそのまま使おう。マットは敷いてあったものをそのまま使う。ブランケットもあったが暖房のない冬には足りない。周囲を探して2枚追加。さらに冬用の寝袋も用意した。化学カイロをぽいぽい放り込む。これで寒さ対策は完了だ。
カセットガスを使ってお湯を沸かし、インスタント食品を食べる。体が温まる。そうだ! お湯を使って湯たんぽを作ろう! すぐそこにあったな。完璧じゃないか。
テントに転がり込む。ランタンの明かりで近くにあったアウトドア雑誌をながめる。アウトドアの経験は、子供の頃におじさんに連れていってもらったキャンプぐらいだ。それ以来あまり興味は抱かなかったけど、意外に自分はこういう生活が合っているのかもしれない。ITエンジニアで運用を担当していたときよりずっと気持ちが良い。
そんなことを考えていたら眠くなってきた。さっさと寝よう。明日は近くを散策して埋葬場所と方法、腐ったものの処分場所なんかを決めなきゃ。日が短いから集中して作業しなきゃ。
翌朝。よく眠った。被災者さん達が襲ってくるような夢も見なかった。爽快!
さっさと食事を済ませてバイクで周囲を回る。店舗の北西側斜め向かいに公園があった。元々あった雑木林を生かして遊歩道を造った感じだ。少し開けて芝生が植えられているところがある。ここに被災者さん達を集団で埋葬しよう。
東側の坂道を下っていくと以前からある工場や畑がある。山の麓が生ゴミ系の捨て場に良さそうだ。
工場に混じって建設機械のレンタル業者があった。ユンボがある。使えるかな? 一応、無職だったときに建設系の教習所で講習を受けている。実務経験はないがちょっと乗れば思い出すだろう。
エンジンをかけてみる。電源は入るがセルモーターが回らない。バッテリー上がりだな。確認すると、普通の自動車用バッテリーが2個搭載されていた。交換すれば良いか。一応互換性を考えた方が良いからな。スマホで型番の写真を撮っておこう。
気になっていた工場の屋上に上ってみる。太陽光パネルがずらりと並んでいる。盛観だ。こいつをばらしてホームセンターに持って行くか。
取り付け方法を確認しよう。支柱は屋上にアンカーを打って固定しているな。これは素人には外せないぞ。パネルだけ持って行って、ホームセンターの資材で新たに支柱を作るか。
太陽光パネルからの電線をまとめる接続箱を確認。そこから伸びる電線を追って電力変換するパワーコンディショナーを確認。でかいな。とても1人で運べる代物じゃない。クレーンが要るな。ユンボならなんとかなると思うが、さすがにクレーンは使えないぞ。
期待と裏腹に運搬も設置も大変そうだ。参ったな。
冬だから昼を過ぎるとすぐに夕方感が出てくる。DVDナビを頼りにカー用品店経由で公園に戻った。カー用品店では新品のバッテリーを2個とチャージャーを調達した。125ccのバイクに積むのは結構大変だったよ。ナビ用のバッテリーもあったからね。
昨日作ったルートはまずまずだ。途中ちょっと修正が必要だったが、1時間も掛からずに帰ることができた。帰ったらバッテリーをチャージして、身の回りのものの整理だ。
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