第三章 平穏な日常 3.インフラ整備 --9ヶ月経過--

 春が近づいている。あっちこっちでもう梅が咲いている。梅の実も食料になるからな。採取して加工しようか…… でもわざわざ梅干し作っても酸っぱいの苦手だし、100年前の梅干し食べてるところをテレビで見たことあるぞ。食べたくなったらいつでも手に入るな。梅酒も飲みたいと思わないし…… 放置決定。


 この2ヶ月は馬車馬のように働いた。日の出とともに働いて、日の入りとともに夕食食べて翌日の作業計画立てたり、技術面の勉強をしたりして寝落ちする。そんな日々が続いた。


 ホームセンター店内と駐車場にいた被災者さんは手厚く葬った。個人の感想ですが、何か?

 隣の公園にユンボで大きな穴を掘った。軽トラを店内に乗り入れて、ご遺体を数体ずつまとめて運んだ。

 ご遺体を墓穴に納めるところは慎重に、丁寧に…… 投げ入れた。ごめんなさい。大変なんですよ。体力使って。たくさんいらっしゃるし。作業自体は雑だったかもしれないが、気持ちだけは込めたんだ。


 皆さんそれぞれに人生があって、いつもの通りに生活していただろうに。何が起こったのか解らないが突然意識を失って、そのまま衰弱して亡くなったんだ。自分の死を認識することもできなかったんじゃないかな?

 自然災害なら哀れだし、人災ならばこんな無情はない。

 1人1人のご冥福を祈ってから運んだよ。特に家族と思われる人達は並べて埋葬した。もし他人だったら、多生の縁ってことでご容赦ください。


 運ぶときに手足が取れたりしたけど、そこは不可抗力だ。お許し願いたい。頭が取れたときは流石に悲鳴を上げてしまったが。

 ユンボで丁寧に土をかけて(個人比)、元々あった芝生を上にのせて埋葬完了。墓標はない。手を合わせてご冥福をお祈りした。


 多分、戦国時代の合戦の後に作られた塚もこんな感じなんだろうな。あの時代は身ぐるみ剥いで素っ裸で埋葬したそうだから、それに比べたらマシかなぁ?


 腐った食品やペット売り場の動物の遺骸、枯れた植物なんかは丘の下にまとめて埋めた。汚れた什器とかは隣の空き地に不法投棄だ。

 ご遺体や食品から汁が出た場所にはペットボトルのお茶と洗剤を撒いてデッキブラシでゴシゴシ。ホームセンターから一生着ないだろうな、って思う衣類を持ってきて拭き取って廃棄。

 さらに石灰を撒いて一晩おいてから掃き出して消毒した。スーパーのバックヤード機材は大きすぎて運べないから、中身を捨てた後に消毒してエリアまるごと封印した。ゴキブリとかの巣窟になりそうな気がするんで、防虫剤も大量に入れておいた。ホームセンター助かるよ。


 ちなみに、ご遺体や生ゴミを運搬した軽トラは少し離れた場所に廃棄した。このホームセンターにあったお客様貸し出し用の奴だ。運転席にも匂いがついちゃったからな。掃除するのも大変だからね。

 それにいろんな人が乗るからかな。公園の軽トラに比べて新しいのに痛んでたんだ。


 駐車場の車の移動は大変だった。キーがない、バッテリーが上がってるなどなど。エンジンかけて走るわけには行かない。

 そこで移動用ホイールジャッキを使った。たまたま通りかかったディーラーの新車展示場を覗いてみたら見つかった。

 以前から、屋内で車を移動するときにいちいちエンジンかけないんじゃないか? って思ってたんだけど、よーく見回したら見つけたよ。


 このジャッキを使って邪魔な車の車輪を持ち上げて浮かせる。4輪持ち上げると手で押せる。重たいけどね。

 建屋から離してなるべく邪魔にならないところに並べるだけだ。そもそも平日だったから台数が少ないし、ここの駐車場は広い。移動先にも困らなかった。

 時間は掛かったけどなんとかできたよ。筋トレの成果が出たっていうか、この作業自体すごいトレーニングになった。腰にパワーベルト巻いて頑張った。

 店内も片付けた。使えそうなものとその予備を確保して、あとは不法投棄だ。どこからもクレームは来ない。


 結局、EVの利用は限定的になった。自動車ディーラーに行って調べたところ、充電した電気を居住空間で使うためにはV2H機器ってやつが必要らしい。V2E は Vehicle to Home の略だそうだ。

 で、そのV2E機器がない。近所のディーラーにはちょっとしか在庫がない。購入者が少ないからかな?

 V2E機器を3台入手したので、同メーカーの新しそうなEVを3台だけ建屋の近くに配置して接続した。3台あれば結構使えるかな。屋内農場には全然足りないかな。やってみないと解らない。




 太陽光パネルの設置も完了した。工場の屋上から1枚ずつ外階段で下ろしたパネルだ。ホームセンターのプラスチックパイプで設置用の足を作った。木材の加工コーナーで簡単に切れたよ。強風の時は屋内に移動できるようにキャスタを付けた。パイプが足りなくなったので途中から木製だ。


 工場にあったパワーコンディショナーは大きすぎて運べないので断念。個人宅から頂戴した。それでも大きくて重い上に、どこの家庭でも裏側の狭いところに設置されていたから作業は辛かった。安全第一で作業したよ。だから自分の体は守ったけど、パワーコンディショナーは何個か壊しちゃった。

 と言うわけで、電気系統は複数に分かれた。仕方がない。統合しようかとも考えたが、勉強したとはいえ電気工事は実務経験がない。火災の原因になるかもしれないからな。あまり無茶はしない方が良いと考えた。それに、系統を分けておくとメンテナンスがしやすいし、いきなり全滅というリスクを避けられると思ったから結果オーライだ。

 工学部で良かった。分野が違うとは言え、独学である程度身につけられる下地ができていたから。


 さらに気象衛星の画像信号受信用アンテナも設置した。衛星が移動するから、手で追いかけられるように可変式だ。

 後輩達よ、よくやってくれた。雲の写真だけでもあると大変に助かる。

 パソコンの中にあった資料を見たら詳しい作り方が載っていた。受信機は地デジ用を魔改造したらしい。元ネタは例のマニアック無線雑誌のようだ。そしてソフトは自分たちで作ったのではなく、外国製のフリーソフトだった。うーん、褒めすぎたかな。ま、いっか。


 NOAA は静止衛星ではないのでアンテナの向きを変えて追跡する必要がある。そこの自動化はできていないので、ノートパソコンで衛星の位置情報と信号強度を見ながら手で向きを変えなければならない。

 位置情報は日時と自分の居る緯度経度から算出しているらしい。誤差がありそうなのでそこんところも検証していかなきゃならないな。

 そんなこんなで、まだアンテナ制御のコツが掴めないんでたまにしか受信できないが、梅雨までにはマスターして大雨に備えたいと思っている。

 肝心の映像だが、テレビの天気予報で見た雲の写真と大体同じだ。台風なら大体の大きさと位置は確認できそうだ。半日とか1日前の画像と比較すればスピードとか進路も少しは解るだろう。慣れたら前線も読み取れるようになるかもしれない。よく研究しよう。




 農業用水は雨水を使う。屋上と雨樋を掃除した。雨樋を通して集めた雨水を2階の駐車場に置いたタンクに溜めることにした。ここからパイプとホースで1階に送る。1階には蛇口を付けて、バケツに汲んで屋内の畑に運び、ジョーロで撒くという算段だ。資材はホームセンターに売るほどある。


 そして今、俺は野望に燃えている。

 風呂に入るのだ。停電になる前にアパートでシャワーを浴びて以来、ずっと後回しになっていた。水を集めるのも大変だし、沸かすのも大変だからだ。臭くはないと思うぞ。清拭剤とかお湯とかでほぼ毎日、こまめに拭いてはいたからな。真夏は井戸水で行水してたし。


 屋上駐車場には店内入り口がある。そこだけ3階になっているのだ。

 この3階の屋根に降った雨水を雨樋で集めて、太陽熱温水器に流し込む。これもホームセンターの売り物だ。説明書によると、天気が良ければ冬でも40度ぐらい、夏は70度にもなるという。ここは日当たりが良いから快適な風呂に入れそうだ。


 雨水を直接風呂にするのは嫌なので、太陽熱温水器に入れる前に浄水器を通すことにした。発泡スチロールの箱にカートリッジ式浄水器を6個はめ込んで大型の浄水器を作った。太陽熱温水器よりも位置が高くなるように足場を組んで設置する。上から下へ自然に流すわけだ。そして、この発泡スチロールの箱に入るように雨樋をカットして取り付ける。道具も材料も使い放題だから助かるよ。


 浴槽はリフォームコーナーにあったユニットバスを解体した。屋上にコンクリートブロックを並べて土台にして、ユニットバスを置いて太陽熱温水器からホースで給湯すればフルオープン露天風呂のできあがりだ。景色が良いとはいえないが、まあまあだ。

 ちなみに風呂の排水はそのまま屋上に流すので農業用になる。だから洗剤は使わない。お湯でしっかり浸け置き洗いすればそれなりにキレイになる。体の垢は作物の養分になるかもしれん。9ヶ月も風呂に入らなかったのだから、洗剤を使わないくらい全然平気だ。




 肝心の畑だが、まだ作っていない。種まきまでまだ3ヶ月ぐらいある。畑にする巨大プランターの制作と土作りを並行して作業する予定だ。

 土はホームセンターにあった園芸用の土と有機肥料で作る。1階の外、屋根があるスペースにブルーシートを広げて作る予定だ。

 1階の売り場を片付けて畑用のスペースにする。大型のプラスチックコンテナの底に水抜き用の穴を開けて巨大プランターにしようと思っている。園芸コーナーのプランターも野菜用にそのまま使う予定だ。


 ホームセンターの天井は高いから、天井の照明を点けても作物にとっては暗くて成長しないと思うんだ。だから天井照明は使わない。木の角材で柱と梁を組んで照明を取り付けようと思う。電気屋とホームセンターの照明器具を総動員して配置を計画している。


 もうじき本格的な自給自足が始まるぞ!

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