第3話 思想
『…………』
オオツキはシジマをブレードで真っ二つにしようと腕を動かしたが、シジマは通常のコードでは考えられない機動力を駆使してオオツキの攻撃を避け、距離を開け始めた。
数分後、シジマが予期せず悪地にオオツキをおびき寄せ、見事なまでにオオツキは悪地に足を取られた。今がチャンスだと思ったシジマは操縦席近くに蹴りを入れた。
しかし攻撃は通じず、ドゴォ、と鈍い音がしてシジマの足に信号が通じなくなった。そう、金属が急に何度も高温と低温を往復したことにより脆くなったのだ。
オオツキはこの隙を逃さずブレードをシジマに振りかざした。
シジマは近くにあったコードの亡骸を盾に攻撃を防ぎ、切り口から銃撃をした。すると、パイロットに弾が当ったのか血と冷却液が熱で溶解し溢れ出し、跳弾した跡に染み付いた。
「クソッ!何としてもあの化け物に一矢報いないと、わざわざ報復に来た意味が無いじゃねぇか!」
シジマは持っているコードをオオツキに打ちこみ、倒れこんだオオツキの頭を狙って拳を入れ込もうとしたが、まだオオツキがブレードを振りかざした状態でいた事と上から体重をかけられた事が重なり、シジマ機は首筋をパックリ切り裂かれた。
「良いぜ、生身でも俺は戦えるんだ。ただ殺戮を繰り返すお前と違って、俺は白兵戦の家系なんだよ!」
シジマはそう自分に言い聞かせて、電動ノコギリとかなり大きい拳銃を持って暗い操縦席を飛び出した。
「よし、ここまで来たぞ……やってやる…」
シジマは操縦席に手をつき、電動ノコギリの電源を入れようとしたが、1つ大きな過ちを犯していた。
「何だよクソッ!手が離れない!」
瞬間的に体温で表面の水蒸気で作られた氷が溶けた後、再度凍る事によって氷に引きずり込まれたのである。
「ウッ……ヴェッ」
更に緊張からは絶対に来ないような吐き気が生じた。
(畜生…この機体は生身でも攻略出来ないのか…)
せめてその場から離れようと肘に力を入れたその時、風を切って進む何かの音が聞こえた。
(なんだ!?再和軍の援軍か!?)
シジマが白いコードに飛び込む少し前、ミヤモトは先の1 件を軍に無線で報告した後、シジマの援軍を要請するべく本部に向かった。
「ミヤモト21時兵殿ですね?コウキ23時兵殿が応接室にてお待ちです。」
総務部なのであろう武装した兵士がミヤモトに近づいた。
「コウキ殿から金城様は呼ばないでくれと言われております。正門の外でお待ち下さい。」
金城は何も言わずに正門から立ち去った。
「おい、別に彼女が居ても支障は無いだろう?」
「………」
兵士は不機嫌そうな顔をしてミヤモトを応接室に案内した後、せっせと逃げ去った。
(何なんだ…アイツは…)
少し冷めた雰囲気を1人で温めた後、扉を叩き中に入った。
「やあ、待っていたよ……」
高級品の醸し出す雰囲気に似合わない中年の小太りな男が作り笑顔の様な顔で1人座って待っていた。
「事情は理解したよ。それで、何故ここへ来たんだい?」
コウキが手を組む。
「何故って…貴方、シジマ21時兵を見殺しにしようって言うんですか?!」
心無いコウキの発言にミヤモトは激怒した。
「見殺しだなんて…僕はただ再和帝国陸軍に必要無い小判鮫を処理したかっただけだよ。」
「彼が一体何をしたって言うんですか!」
「彼?彼らだよ。彼ら。再和帝国陸軍第9小隊。君も不自然に思っただろ?平均年齢の低さ、庇い合うような基本陣形。奴等は昔、同じ反政府勢力だったんだよ。」
コウキが机の回りを歩き始めた。
「その当時の主謀者がシジマだ。勿論、コードも持っていないアリの様な連中、我等が再和陸軍が簡単に制圧出来た。しかし、シジマは前23時兵シジマ・ケイスケの息子だった。ケイスケ前23時兵はシジマ達革命家を軽い刑罰で済まさせ、三年の間独房で過ごさせた後は再和帝国陸軍へ入隊するように仕向けた。」
「………待って下さい、ケイスケ23時兵殿は戦死したのでは?」
「ああ、戦死したとも。誤った情報で蜂の巣にされたけどね…」
「他殺だなんて、国民が知れば黙ってませんよ!?」
ミヤモトが机に近づく。
「誰に楯を突くと?僕はあの情で国を汚したケイスケを粛清し、今では23時兵だ。それにケイスケが生きていたとしても、この事が判明すれば高官から一転、反逆者を助けた大罪人として扱われていたはずだ。」
「……確かにそうですが、貴方のやり方は間違っている!」
「間違っている?間違っているだと?僕はこの方法で実績を出している。それに、今も新たに実績を作ろうとしている。」
コウキが壁の近くの紐を引っ張ると、コウキの立っている後ろの窓が電動で開き始めた。
「見てみたまえ。奥の演習場にあるのは、ここに新たに追加されたプロトタイプコードだ。」
キャタピラの轟音と共に今までとは方向性の180度違うコードが演習場を踏み荒らす。
「何を…」
「僕はこれから二つの実績を作る。一つ目は、この送られてきたプロトタイプコードの使用実験。二つ目は、白いコードの撃破だ。」
ミヤモトの声を遮り、コウキは無線回線を使い砲撃を命令する。
「あの五機には榴弾を一弾ずつ積んである。」
「あなたは…!」
コウキにミヤモトが近づく。
「もう遅い。榴弾砲はもうすぐ発射する。」
数秒の間を開けて、衝撃波が窓を叩き、白煙がコードの周りを包み、爆発の大きな振動と金属のぶつかり合う音が壁越しに伝わった。
「あちゃ〜、流石にあの威力だと横転するか…やっぱり、複座機とか固定とか必要だね……」
コウキが汚く笑う。
『重症者が出ました。全身火傷です。』
『良いよ、放って置け。どうせ貧民街出身の軍人なんて腐る程ある。資金の方が大切だ。』
「一体、どこに向かって撃ったんです………?」
兵士を雑に扱うコウキにミヤモトは再び殺意を覚えた。
「今まで話していた事を忘れたのか?」
「非人道的すぎます!」
ミヤモトは既にどこに発射されたかなど分かりきっていた。だが、これ程の悪行をして、何故ここまで人望が厚いか理解出来なかった。
「……………気分が悪くなりました…失礼します……」
とにかくこの場から離れたかったミヤモトは体調不良を理由に逃げようとしたが、コウキに腕を掴まれてしまった。
「そうだった、言い忘れてた。君が援軍を指揮の誤りで殺した事も知っているよ、精々組織の寄生虫にならないように気をつけてくれたまえ、まぁ、なにも殺しはしないが………」
「ッ………!」
…日差しが脂汗を照らした。
オオツキは好奇心と不安の中にいた。信頼も地位も才能も持っているあのパイロットはいったいどんな顔をしているのかという興味のそそられる問題。ここで殺されたら仲間はどうなるのだろうという不安である。しかし、オオツキには1つ直感で理解している事がある。シジマが操縦席をこじ開ける様な事はせずに道具を使い切り開く事。
「ふーーっ」
口を尖らせ大きく息を鋭く吐き出し、操縦席を開け、シジマを奇襲しようとしたその時であった。現存する兵器ではコードでしか発射出来ない様な黒い弾丸が直径1km付近に1発、そして、白いコードの上に重なったシジマ機に4発被弾した。
〔ガンッ!〕
大量の物資と生命を引き換えにショウビ達の初戦闘の終了のゴングが鳴った。
キャタピラを搭載したプロトタイプコードは多数の犠牲を出し、いや、今後も多数の犠牲を出しながら完成へ向かうだろう。
「……何が起きたかは想像に容易いです…貴方のせいではありませんよ、ミヤモト…」
まだ白煙が薄く残る中、正門から出てきたミヤモトを金城が慰めた。
「………いや、私にも責任はあります…」
ミヤモトは下を向いたままで金城を直視出来ない。
「…逃げません?こんな所……」
金城はミヤモトを覗き込む。
「…あいつに一矢報いるまでは帰れません…」
「…あなたの考えなど彼らはお見通しですよ?貴方は4、5年ほどしか基本を学べていないのに対し、私と同じく彼らは大金を払って30歳まで戦略や兵器についての知識を極限まで学び尽くしたり、多数の実戦や模擬戦に参加しているのですから…」
「…ですが、ここ以外に居場所は無いじゃないですか…」
「いえ、そうとも限りませんよ?」
「……はい?」
『こちらは再和放送です。昨日未明に起きた再和陸軍と過激派組織東開の武力衝突ですが、シジマ21時兵率いる第九小隊の決死の特攻により我らが再和帝国が勝利を収めました。』
映像は放送室から再和陸軍本部へ移し変わり、本部から出てきたコウキ23時兵にマスコミが群がる。
『シジマ21時兵の死を、どう受け止めますでしょうか。』
コウキは雀の涙程の涙を頬に流す。
『………素晴らしい人材を失ってしまった…ケイスケ23時兵が戦死をされ、私が23時兵となった時から部下を失態により戦死させないと誓ってここまでやって来ましたが、まさかこんな日が来るとは考えも出来ませんでした……』
『第九小隊の遺族の皆様にお悔やみ申し上げます。』
中継先から放送室に映像が戻り、先ほどのニュースキャスターが深々と頭を下げる。
『燃える〜闘志に〜ナッパームぶつけろ!粛清のレッド!命の源ブルー!近代科学のイエロー!我等が再和防衛隊今日も行け〜』
「ハッ!」
特撮作品、再和防衛隊のオープニングと共にケンジは床で目覚めた。
「確か、無線教育装置を見つけて…」
研究所が半壊状態になっているにも気づかずにカツカツと音を立てながら自分の部屋へ戻った。
「よし、速くあの自律思考コンピュータを完成させなきゃ…」
モニターを点滅をしているかのように動かしながら参考文献を漁り始めた。
「………次こそ、終わり…?」
壁にもたれかかり、手袋を外して胸元から外に出る。
「オオツキ〜!!やったな〜!」
オオツキに近寄ろうとするショウビをキキョウとキサミが止める。
「やめといた方が良いよ、多分掌が酷いことになるから…」
「だってぇ〜」
もじもじしながらショウビが反射的に応える
「こんな奴だっけ?コイツ…ちょっと幻滅した…」
「いや、だってさ、おどかしてくるじゃん?だから、つい。」
手を撫でながら話す。
「ガキか!」
キキョウの代わりにキノが頭をハリセンではたく。
「あの〜オオツキさ〜ん、私のトラック動かしてくれませんか〜?」
「…了解………」
オオツキがモンスタートラックを持つと、ブレードが展開し、トラックを串刺しにしてしまった。
「…?あっ」
「あって…あって…」
キサミが膝から崩れ落ちると、ケンジが研究所から出てきた。
「そりゃ何年も動かしてない機体動かしたらそーなるわな…待ってて、梯子持って来るから…」
「無事に降りれたのは良いが、これをどーやって研究所に入れるんだ…?」
「?ここで作業しちゃうよ。簡易テントだけ張ってくれ」
(しかし、こんな赤のペイント弾なんて軍の奴等持ってたっけ?)
「流石は技術派芸人ケンジだなぁ!」
ショウビがケンジの肩を叩く。
「体は張ってるけど芸人じゃねぇよ!」
「………!」
無事廃工場跡に到着した金城とミヤモトだが、見るも無惨な風景が広がっていた。
「全く、焦げ臭くてたまらない…」
ケンジが軍服を着た少女2人組を発見する。
「俺も何が起きたかよくわからんが、見れば分かるだろ?生身じゃ俺達には勝てないぞ…」
出来るだけその場から離れようとするが、1人の少女が引き止めるかの様に近づく。
「貴方、
「………」
(どうしたもんか…南東は
「違う………が…」
「元再和軍です。入隊させて下さい。」
「はぁ…?」
地下研究所にて金城、ミヤモトを含めて会議が行われた。
「金城様、奴等は第9小隊を壊滅させた敵ですよ!?」
横の金城に正気か問いただすその光景は修羅場そのものだった。
「お止めなさい、ミヤモト。あそこに居ても、いずれ捨て駒になる事など分かりきっているでしょう?」
金城がミヤモトを席に着かせる。
「…ええ。しかし、プライドが許しません…」
「…そうですか。ならば、帰還して伝えて下さい。転職すると。」
「………承知しました。」
ミヤモトは地下研究所から立ち去った。
「おい…」
ショウビが金城に問いかける。
「良いんです…所詮そこまでの人間だという事です。」
「ん…じゃあ、金城さんの加入に賛成の人ー」
キキョウが手を上げながら話す。
「ちょっと待てぃ!」
ケンジを除いて全てのメンバーが手を挙げているにもかかわらず、ストップサインを出した。
「こいつが間諜じゃないって分からないじゃないか!断固拒否だ!断固!」
「あんたみたいな人間が社会をだめにするのよ、議会追放!」
キキョウがエアー張り手で牽制する。
「酷い!独裁政治だ!出ていってやる!」
ケンジは地下研究所を飛び出した。
「あの…」
「良いのよ、あの馬鹿は放っておいて。」
「はぁ…」
「んん、暇だ…」
倉庫で仰向けになる。
「そーいや、天才パイロットミヤモトっていたよな…7歳位の頃…」
「よし、行ってみるか…」
「おーい」
「…?」
ブロッケンの後ろから聞こえる声に驚き振り向く。
「ふう、やっと追いついた…」
四角形のタイヤの自動車がガラガラと鳴らしながらブロッケンに近づく。
「あんた、操縦してたろ?7歳の頃」
「あぁ、そうだが…」
ブロッケンを正座させ、操縦席から飛び降りる。
「良く、正座させられるな!」
下から覗き込む。
「まぁ、それなりには高等技術だが…」
顔を赤らめる。
「少し、話していかないか?」
「まぁ、少しならな…」
車から折りたたみ式の椅子を下ろし、腰掛ける。
「あんた、コードは好きか…?」
「最初が嫌々だったからかな、あまり好きになれないんだ…」
夜が更け始め、影も小さくなっていく
「はぁ、上流階級の家系なのか…」
「ああ。祖父は
「ほぇー。不思議だよな、階級差別も独裁政権も復活した、時代を逆戻りしてるみたいだ。」
「あんたの事、金閣だかがそこまでの人間だとか言ってたが、頭に来ないのか?」
「はっ、今まで禁城だの銀城だの言ってきた奴等は、全員この軍刀で叩き切ってたが、金閣なんて面白い言い方をされたら、殺る気も起きないな…」
懐刀を光らせる。
「ひえっ…」
「んで、どうなの?やっぱり再和軍に戻るの?」
ミヤモトは溜め息を吐き、大きく間を開ける。
「やはり、どうもそちら側には就けないな…」
「そうか…また来てくれ。お前いい奴だからな…」
椅子を畳み、地に横たわる。
「今度遭った時は確実に敵だろうな…」
ミヤモトも椅子を畳み、立ち上がる。
「戦いが終わったらさ、どっかで話でもしようぜ、面白いよ。お前。」
「ああ。」
2人の若者はそれぞれ別方向に動き始めた。
「ミヤモト21時特別兵、只今戻りました。」
「遅かったね、ミヤモト21時兵。まぁ、無理も無いか。南東と接触して来たんだから。」
穏やかな表情が少しずつ変わる。
「は…?」
「一応付けておいたんだ、発信機」
過去ログをミヤモトに見せつける。
「君は今からもう兵士じゃない。虫だ。」
般若の表情となる。
「何を…」
「だが安心してくれ、殺しはしない」
暴れるミヤモトを数人で押さえつけ、首筋に薬を注射する。
「ぐッ…」
自分の考える地面が回り始め、視界が狭くなっていく。
「あ…」
関節が火照り始め、鼻を嗅いだ事の無い違和感が突き抜ける。赤と青が視界を制し、正気を保とうと自分の手を見たが、そこには青タイツの履かれた手の甲があった。
「よぉ!」
四角形の自動車に乗ってケンジが帰ってきた。
「勿論土産もあるよな!」
ケンジの話を遮り、ショウビがすり寄る
「無ぇよ!」
キキョウの近くに座る
「それより、役割とか決まったのか?」
「勿論アンタは開発、キノとショウビが手伝いだよ。」
「やったぁ!俺が一番偉い!」
ケンジは天井が低いにも関わらず飛び跳ねる
「待ちな、まだ続くよ」
「え?」
「オオツキは戦闘、ショウビが指示送り、私は補佐で、修繕はキサミ、雑用は金城、そして掃除はケンジ、アンタだよ」
「えぇ!?」
「嘘、嘘だ!なんで雑用と分別しない!」
ケンジは全力で抗議する
「キキョウが分けるべきだと…」
「は…は…は………」
(もう一回ミヤモトに会いたくなった…)
改変記 セーバー 怠惰水 @LazinessWater
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