第2話 戦闘
ミヤモトが謎の物体を見つける数分前、ショウビ達五人は廃工場の下に梯子を入っていた。
「まさか、廃工場の下に研究所があるとは知らなかった」
上の廃工場よりも廃れている研究所をショウビ達は恐る恐る探索していると、白いコードを見つけた。
「ケンジ、これは何てコードだ?」
四人がケンジを見つめる
「ちょい待て…いや、見た事が無い」
本やデジタルノートを見たが、コード博識という唯一の得意分野が通じ無くなったケンジは涙目になった。
「どこのコードかなら見分ける方法はある。軍の規制コードだったら起動時にスクリーンに軍旗がたなびく映像が流れるし、金城財団の場合は起動時にグローブが棚から出てくる。民営の場合は物搬のスコアかノルマがスクリーンに映し出される。」
言った後すぐにケンジは梯子の前に逃げ込んだ。
「オオツキ、乗ってみれば?」
「……分かった」
オオツキがコックピットの中に入るとカビと機械油の匂いで吐きそうになった。
「……………何これ」
コックピットから何やら複雑そうなカップを持って来た。
「これと手袋しか無かった」
「起動は出来なかったのか?」
「…なんかゴーゴー鳴ってた」
「キキョウ、ケンジを持って来てくれ。」
「あいよ」
「なんだよ…ん?」
ケンジがカップに釘付けになった
「ショウビ、これ借りるぞ」
返事を待たずに強引に、かつ丁寧に奪い取る。
「これは…やはりそうだ!」
「何だよそんなに興奮して」
「これは無線パイロット矯正装置だ、脳のほぼ全てを解明出来た再和が試験的に作った後にすぐ破壊したと聞いていたがこんな辺境の地にまだあったとは…」
ケンジは興奮し過ぎたが故に毛穴から目まで全ての穴という穴から体液を噴き出して倒れた。
「おい、どうやって使うんだよ、おい」
ショウビがケンジを揺さぶったが、ケンジは翌日のハイパーヒーロータイムまで起きる事は無かった。
「まぁ今日はもう遅いってか次の日だが、休息をとるとしよう。ケンジも倒れたし。」
バコン、と家の天井に車が突っ込んだ様な音がしてショウビ達は飛び起きた。
「襲撃か!?」
寝袋を引き千切り辺りを見渡そうとしたが砂塵で何も見えなかった。
そのうちケンジとキサミ、それにキキョウと合流は出来たものの、オオツキの姿は見えないままだった。
「オオツキはどこに行ってんだ!」
「操縦席で寝てたぞ!」
「クソッ!ここまでか!」
地盤が崩壊した時、既に何かを察知していたのかオオツキはグローブをはめて準備をしていた。
「…動かない」
操縦席のありとあらゆるボタンを押すと、カップが光り始めた。
「………」
オオツキはケンジが学習装置と言っていたのを思い出し頭にはめると、その瞬間に強い衝撃が加わったかの様に背もたれに激しく身体を打ち付けた。
頭に一度も言った事の無い専門用語や何に対してか分からない応急処置や基本設計、一度思い浮かぶと二度と忘れられない共通点を除いて意味のない情報が頭を駆け巡った。
「……………」
グローブに鼻血が染み込み始めた約五秒を境に情報の送信がピタリと止まりこのコードの動かし方を送り込まれている事を悟った。
「……パワーオン」
〚PoweredLockoff〛
モニターにいびつな文字が現れた後に音声認識によって全ての電気系統に電源が入ると、オオツキの目の上の方にブロッケンを察知した。
「…折角休めたのに…」
(何だこの白いコードは…)
ミヤモトは拳を地面から引き抜いてから常に悪寒を感じていた。本能がキキョウにこの場から離れろと指示しているのである。
(せめて隊員の遺品でもと思ったが、このままでは私も帰れそうにない…)
戸惑っている内に白いコードはズームイン編集でもしている様な速さでブロッケンに迫っていた。
(死ぬ!)
身体を限界まで反ったが、コックピット周辺の装甲が吹き飛んでしまった。
夏なのに口から白い息を吐くその化け物はブロッケンよりも背が高い筈がブロッケンの何倍の速く走り始めた。
『うぁぁぁぁぁ!』
ヤケになったミヤモトは第1関節を曲げてカタパルトの様に焦げ臭い土を投げ始めた。
「遅いですね…ミヤモト…」
金城の元に黒い群れが列をなしてやって来た。
ひと際武装の多いコード金城の前に来てスピーカーを入れると、冷房の音が聞こえた。
『私は、再和帝国内陸軍所属第9小隊隊長のシジマ21時兵だ。』
『コードが大量に破壊されたってのに、本調子になれないっていうミヤモト特別兵の援軍に来たんだが…』
シジマが辺りを見渡すが、ブロッケンらしき機影は存在しない。
「ミヤモトは一足先に廃工場へ向かいました。あなた方も急がれた方が良いかと」
『…了解した、廃工場へ向かう……それから、ミヤモトに節介かかせるなよ、お前…』
シジマはモニター越しに金城を睨んで廃工場へ向かった。
(この状況は不味い!出来るだけコイツと距離を取らなければ!)
四肢の操縦もままならないままミヤモトがブロッケンを移動させ始めた。
『……哀れ』
四つん這いのブロッケンにオオツキが歩きながら近づいた
「ブレード」
〚Safetydeviceunlock〛
またもやいびつな文字がモニターに写った後、今度は手の甲から霧と共に刃が飛び出た。
刃を振りかざしたその時、オオツキは丘の上から集中砲火を受けた。
『敵は1機だってのに、何手こずってんだよミヤモト特別兵!』
シジマ機がブロッケンに無線で叱る。
『気を付けろ、シジマ21時兵。奴は化け物だ』
『確かに、撃破されたコードの数は尋常では無かったが…』
(それに、あんだけ食らったのに損傷が見られないってのは少し妙だ…)
会話をしながらもじりじりとシジマ小隊はオオツキの方へ近づく。
『兎に角、先に援軍に来ていたコードを回収してから出直そう』
『俺は嫌だぜそんなの』
『…だったら、コードの残骸は私が回収するから、その間に奴を足止めしておいてくれ。』
「……ミヤモト、お前が後で俺を食事に誘うなら考えてやっても良いが…」
しかしミヤモトは既に無線会話を切っていた。
『お前等!白いコードに向かって陣営を崩さずに集中砲火を開始しろ!』
「マズい、あんな大群からバカスカ食らったら化け物みてぇなあのコードでも耐えられない!」
現在コードを1機しか持っていないショウビ達にとっては、人員を失うのも機体を失うのも非常に不味い状況だった。
『……大丈夫、策ならあるから…』
まだ無線が繋がっていたのか受話器からオオツキの声が聞こえた。
『本当か?信じるからな!絶対に帰還しろよ!』
ショウビが受話器を取った時には既に無線の接続は切られていた。
「所で、何であいつってあんなに操縦上手いんだ?」
ひと息ついてから会話を始めた。
「さあ」
キキョウがキノに話を振る。
「知らないですぅ」
キノがキサミに話を振る。
「良く分かんないなぁ」
(やっぱり本人に聞こう…)
「…シールド」
〚atomizedsteel〛
身体の関節のいたる所から露出しているコードを上の装甲からシャッターの様に装甲をスライドさせてコードで言う所の短時間運用モードになった後に身体のありとあらゆる部分から自機が持ち上がる程の高威力の霧を噴出した。
「何だよあの防御方法はよ…」
辺り1面が霧に包まれ、シジマ小隊のコードはカメラに白い目隠しが掛かった。
『シジマ隊長、超低熱源体がこの低温の霧と紛れて判別不能になりました…』
『……又、一部の隊員からコードの制御が出来なくなるとの不具合が報告されています…』
(霧と関係があるのか…?やはり、意地を張らずに撤退するべきだったか……)
『隊長、まだ間に合います!一時的にでも撤退するべきで……』
隊員が恐怖もあってか声を張り上げる。
「何だと!俺に、ミヤモトを置いて逃げろと言うのか!」
バン、と操縦席を叩いたが興奮が収まる頃にはモニターやライトが一切明かりが付いていない事に気付いた。
手動で操縦席を開けると、外から魂が抜けた様に立ちすくんだコードから音の出ない悲鳴が響いた。
(ブロッケン、もといミヤモトは無事なのだろうか…)
操縦席に戻り動力を動かそうとするが、指一つ動かせなかった。
(いや、確か新型機を貰った時に予備電力を蓄えてるって言ってた様な…)
視界が見えない中、次は自分の番かもしれないと不安を募らせながら予備電力を主動力に入れる動作を開始した。
心拍音と地面に金属が叩きつけられる衝撃音が身体を揺らがせる程響いた。
(…よし、これで少しは動けるはず……)
(一応、短時間運用モードに設定しておこう…)
モニターが戻った瞬間に白い化け物がブロッケンを襲おうとしているのが目に写った。
(よし、これで良いだろう…)
ミヤモトは操縦席を四肢から外し、焼き焦げたコードを乗せて金城の元に帰ろうとしていた。
(私が金城様を過保護にしてしまったが故に多数の人間の命が無駄になってしまった…一体、どう懺悔したら良いのか……)
まるでミヤモトのこれまでの行いを責めるかの様にその時は訪れた。
ショウビの噴き出した金属に付着するの独特の磁気を含んだ特性を持った水蒸気がブロッケンにも降り注いだのだ。
(!?何だ、これは!動かしにくい、いや、動かせない!)
ブロッケンが作動しなくなってから約10分程が経過した。
機械音と共に強い揺れと共に操縦席に白い霧が入って来た。つまり、この分厚いブロッケンに1撃で穴を空けたという事だ。
「…金城様………」
何分も口を開けなかった事によりかすれてつぶやく程の声量しか出なかった。
シジマは今、まさに人生の最高潮を迎えていた。感情的な昂り、境地に立った際の異常なまでに研ぎ澄まされた神経が科学では証明出来ない人間の秘めたる力を偶然発現させたのだ。
「うおおおお!」
銃を縦に持ち斬りつける体制のまま走り込んでくるシジマの姿には、オオツキも怯まざるを得なかった。
銃の長く鋭利な部分を白い化け物に差し込もうとしたが、不運にも装甲に付着いていた水と、あまりの興奮による手のブレをコンピュータが察知してしまった事が重なって、角度が大きく変わり、装甲を滑った事によりシジマは腕を内側に入れ、とても無防備な状態になってしまった。
『……』
無慈悲にもショウビは地面に突き刺さった右腕をブレードで叩き斬った。
「チン、チン、チン」
二の腕しか残っていないのをすぐさまコードの脳は理解して、警戒のアラートをシジマに流した。
シジマは玉砕覚悟で白い化け物に突っ込み、脇腹の辺りから突き出たトラバサミの様なワームを白い化け物のコックピットに差し込み、睨み合いを始めた。
ショウビはあまりにも距離が近すぎてブレードで斬りつけられなかった。
睨み合いをしている間に霧も晴れ、シジマ小隊に生き残った5、6機が集中砲火を始めた。
『お前等は逃げとけ!』
シジマが拡声器で小隊隊員達に叫ぶ。
『ここは我々が抑えておきます!ミヤモトさんを連れて逃げて下さい!』
霧が出た直後に退避をシジマに勧告したと思われる小隊員から死を覚悟しているのか大声で叫ばれた。
『俺達にとっての小隊長はあなただけなんです!』
『必ず、必ず本部にこの事を報告してください!必ず!』
他の小隊員も続けてシジマに叫んだ。
『一旦避難しよう、ミヤモト』
無線でブロッケンに避難を誘う。
『いや、私は操縦席に穴が開いているだけでまだ戦える』
『ミヤモト、俺達の行動で大きく隊員の命運が変わる…経験した通りだ……』
『………了解した。退避しよう…』
シジマはトラバサミを引き抜いて白い化け物を蹴飛ばし、ブロッケンの操縦席から飛び出たシートを受け取り金城の待つ方向へ逃げ出した。
……左手の隙間から見えた、白い化け物が死の音を立て操縦席を横真っ二つに斬りつける様をミヤモトは忘れる事は無いだろう…
シジマ達は金城を回収して、本部へ帰還しようとしていた。
『シジマ、そっちに陸軍基地は無いぞ?』
『いや、こっちで合ってる。死んだ奴等のためにも行かねえとだしな…』
覚悟を決めている声が2人の操縦席に響く。
『そんな事、本当に小隊員達は望んでいたと…?』
金城が対立を止めるか集中している間に話がついていた。
『じゃあな、ミヤモト…金城、ミヤモトに迷惑かけんじゃねェぞ…』
(………かなり時間が掛かったけど、第一波は終わったっぽい…)
戦闘が終わり小休憩をしていたオオツキに1機の機影が迫ってきた。
シジマは普段なら使わないであろう音声認識を起動した。
『
インフルエンサー、トップアスリート、政治家、芸能人。どの業界でも「とっておき」を保持している人物は大成するのが定石だ。これは人に限った話ではなく、機械においても同じ事が言える。最新の小隊長機にも装甲の分解による高速化、人呼んでパージというプログラムが追加されている。
オオツキを前にしてシジマは装甲を脱ぎ捨てると、熱排気量が上がったのか可視化出来るまで高熱、高圧化していた。
「全く、嫌な時代だ…顔が見えないからこそ更に怒りがこみ上げる…」
「部下の分まで斬らせてもらう!」
見事にコックピットを通って真っ二つにされたコードが見守る中、2人の歴史に残らない戦いが始まった。
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