第29話 御三家の集結
七海は巨大なパフェを綺麗に平らげると、そのまま喫茶店を後にする。
裕作が会計を済ませてくれた事は分かるが、去り際に何を言っているか分からないくらい口を震えさせていたので、心配になり後を追いかけることにした。
意外にも裕作をすぐに見つける事は出来たが、七海は信じがたいものを目にする。
圧迫感のある巨体が小さく見えてしまうくらい情けない姿で正座し、申し訳無さそうに何度も頭を下げている。
本気になればどんな相手でも屈服させられそうな逞しいイメージを持つ彼が、二周りも体が小さい二人の女の子に成す術無く敗北している。
「……先輩?」
一瞬見間違いかとも思ったが、優しそうで男らしいその横顔を見て本人だと確信する。
どうやら三人で揉めている様子で、先輩はトラブルに巻き込まれていると七海は考える。
――もしかして、僕のせい?
七海はその時、裕作がなぜここに来たかという事を聞いていなかった事に気がついた。
特に買い物をしている形跡も無ければ、暇を持て余していたという訳でも無さそうだった。
それに、喫茶店へ向かう時何やら携帯電話でメッセージを送っていた。
以上を踏まえると、彼がたまたま別行動をしていただけであって、誰かと出かけていたという可能性が極めて高いことに気がついた。
「――やっぱり、先輩って人気ものだよな」
身長も高く、優しく、何より男らしくてカッコいい。
七海の目に映る彼は、まさしく誰もが好むような好青年だ。
そんな彼が、予定も無くこんな場所に来るはずない。
もしかすると、ここへは誰かと出かけていて、自分が無理矢理誘ってしまいややこしい事態になっているかもしれない。
そういう結論に行き着いた七海は、急いで彼のフォローを入れるために駆け足で裕作の元に向かう。
「あのー、すみません」
話しかけると、その場にいた三人は一斉に振り返る。
――うわっ、めっちゃ可愛い
裕作の姿よりも先に、彼の前に立つ二人の美少女の姿が七海の目を奪う。
一人は銀髪の少女。
とても小柄で柔らかな体つきだが、大人びた綺麗な顔つきに吸い込まれそうになる不思議な瞳。
七海はこれまで見た女の子の中でも、一番可愛いと思ってしまう程、顔の整った少女だった。
二人目は茶髪の少女。
派手なイメージが先行する服装だが、その可愛らしい顔つきのお陰でキュートさが引き立ち、魅力を最大限に発揮している。
足の先から頭のてっぺんまで、何もかもがオシャレで、モデルでもこんな整った人は見たことがない。
二人とも誰がどう見ても超がつくほどの美少女で、思わず見惚れてしまいそうになる。
しかし、ここで気負いするわけにはいけないと自分を鼓舞する。
「どうかしましたか?」
話しかけると、二人は怪訝な表情を止めて彼を見つめる。
「あんた、確か」
「……新海君、だったね」
その可愛らしい顔を見つめ合わせ、お互いの存在を脳裏に焼き付ける。
私立早乙女学院高校に在籍する生徒の中でも、特に知名度の高い三人がここに集結する。
天才画家の才川沙癒。
学院アイドルの早乙女秋音。
性別ハイブリットの新海七海。
――これが、この物語のヒロインとなる三人が初めて出会った瞬間である。
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