第8話

   

「これだ!」

 大きな手がかりは、思いもよらぬところに転がっていた。

 自分自身の実験データでもなければ、他人の論文報告でもない。オカルト系のまとめサイトに書かれていた、ネット記事だった。

 残留思念とかポルターガイスト現象とかの話だ。広い意味では霊能の範疇だとしても、霊能遺伝子とは全然違う。非現実的な与太話であり、だからこそ研究の息抜きには相応しい読み物だったが……。

 そもそも昔、遺伝子が同定される以前は、霊能遺伝子も「非現実的な与太話」のたぐいだったはず。そう考えて自分の常識をいったんリセットしたら、ようやく俺は気づいたのだ。

 そもそも霊能力の「霊」は、それ一文字ならば「幽霊」を意味する言葉ではないか、と。


 霊能遺伝子の研究は、ヒトのがわから始まっている。除霊師にしろ霊媒師にしろ、霊能力者はあくまでも人間。幽霊そのものでなく、幽霊を相手にするがわだから、幽霊自体は遠い概念として、非現実的とすら感じていた。

 しかし、よく考えるまでもなく幽霊とは後の存在であり、アポトーシスも細胞。その二つは「死」という点で共通しているではないか。

 ならば、霊能遺伝子とアポトーシスの関連を研究していく上では、幽霊についても真面目に考察する必要があり……。


「もしかすると霊能力って、幽霊を相手にどうこうする力じゃなくて、幽霊になるための力なんじゃないか?」

 自分の口から出てきた言葉に、俺は愕然とする。


 つまり生物は進化の過程で、死んでも魂を残すすべを獲得してきたのではないか。

 この世界のリソースは有限だから、生物が生き続けたら次世代の邪魔になり得る。しかし幽霊として現世に留まるならば、意識や知識だけを残す形だ。食物連鎖などからも外れて、世界全体には負担をかけないはず。

 そう考えると、霊能力の高い者が「死」に近いのも理屈に合う。副作用などではなく、それこそがPOG9の本来の機能だったのだ。

 ただし、あまりにも若いうちに死ぬのは、生物のしゅとして不都合。だからそれを抑える遺伝子としてPOG4も用意されているのだろう。

   

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