突発配信 駄菓子と、雷獣姉貴と

「どうも、ドリームマッチの夜にまたまた配信です。揚羽、なんでカメラ回すの」


 蕾花がカメラを持つ揚羽——ギンギツネの半妖である依澄揚羽に問いかける。


「いやいや、みんなの雑談がこう、結構盛り上がってましたのでちょっとカメラ回そうかと」

「盛り上がるも何も魅雲村の田舎っぷりを椿姫が喋ってただけじゃないか?」

「何蕾花、田舎の何が悪いのよ」



 ユッキー☆:一コメ

 キメラフレイム:さっきの対決の熱のままに稽古してました

 ペガサス:すごく燃えたよねえ

 ユッキー☆:えらい

 MIKU♡:えらい

 サニー:調子乗るからやめて(怒)

 きゅうび:雷獣率高い……高くない?

 隙間女:あ、居間だ


 コメントに早速いつものメンバーが揃った。

 同接は、大手と比べると決して大量ではないがコメントの多さは引けを取らない。また、配信よりも単発ネタの動画や妖術講座の方が結構見られるのがこのチャンネルであった。なので、突発的な配信に関しては身内ネタに走ると、概要欄にも書いてあった。


 すねこすり:癒し系妖怪だぞっと

 がしゃどくろ:栃木からインする骨ほね系サラリーマンです

 だいてんぐ:がしゃどくろニキはもう少し太って、どうぞ

 がしゃどくろ:食べてるんですけどねえ……

 オカルト博士:食べて太らないとか理想すぎる

 トリニキ:これ

 見習いアトラ:蕾花ニキコメント見る目が泳いでて草


 確かに蕾花の目が泳いでいる。それを目ざとく気づいた菘が、「しょうじきに、いいな」と囁いた。


「あん。……ケツがいてーって話か?」

「お前だけじゃなくて俺もだけどな」

「れん、うめいてたもんね。で。にいちゃん、なんトンあるの?」

「もうちょい泳がしてからストレート投げような、菘。えー、変わらず七五トンです」


 MIKU♡:ファッ!?

 サニー:幽世怖い

 きゅうび:何度聞いても信じられん……

 オカルト博士:キロじゃないの? トン??????

 ユッキー☆:普段はキロ単位に体重操作してるけどほんとにトンみたいだゾ

 だいてんぐ:ところで田舎トークとのことでしたが


 だいてんぐのコメントで、蕾花がはっと我に返った。

 そうそう、と言ってから、ほとんどプライベートのテンションで話し始める。


「いや、駄菓子屋があるって言われてさ。いやもうそれど田舎じゃんっていう流れなんよ」

「駄菓子屋なんかどこにだってあるでしょうよ」

「そうかあ? オタクくん、どう?」


 椿姫が言い返し、蕾花は現代的な感性が自分と近いオタクくんに助け舟を要請する。


「僕愛知の地方都市にいたけど、駄菓子屋はなかったかなあ……あ、でも商店みたいなのはあって、そこにちっちゃい駄菓子いっぱいあった」

「まさか豊富市か?」

「うん。……え、蕾花と僕と穂波さんって同じ町にいたの?」

「うっそだー。蕾花ってなんか、都会に生息してそうだけど」


 きゅうび:豊富市っていうのは裡辺がある現世の都市かな

 だいてんぐ:だろうねえ。こっちにはないし

 ユッキー☆:駄菓子屋ってそこら辺にあった気するけど最近見ないな

 サニー:コンビニでことたりますし

 MIKU♡:今調べたら駄菓子屋っていうか一文菓子店ってのが明治時代くらいから出来始めたらしいんだよな。ワイは昭和の駄菓子屋ってのが馴染み深いけど


 MIKU♡のコメントを受けて、明治時代を知る蓮と万里恵が「そうそう」と頷く。


「水飴とかカルメ焼きとか、ボンタンアメとか売ってたんだよな」

「そうそう。今の通貨だと五十円から二百円だから、昭和より高いんだけどね」

「俺はガキの頃から魍魎捻って稼いでたから、あんまり困らなかったけど」

「やんちゃ坊主なんだからもう」


 隣の真鶴が呆れたようなため息をついた。万里恵が悪ノリして「ブフー」と吹き出して笑う。蓮は嫁になる女と姉から挟まれて、なんともバツが悪そうな顔をした。


 ユッキー☆:なんかこの図、オオカミがよくやるモフサンドみたいだな

 サニー:真鶴姉さんのモフサンド!?

 だいてんぐ:凄い食いつきで草

 がしゃどくろ:モフモフの尻尾がマジで羨ましい骨系妖怪です

 すねこすり:がしゃどくろ兄貴強く生きて

 きゅうび:四尾ワイ、高みの見物


「駄菓子くらい俺だって食ってたさ。現世で人間の子供に混じって暮らしてた頃に、柊が小遣いくれてさ。近くの安いスーパー行って買ってたな」

「そういや、二十年ちょいくらい柊と暮らしてたんだっけ、お前」

「そ。燈真たちには何度か言ってるけど。んで、俺、蒲焼きさんとかビッグカツとか大好きだったんだよ」


 トリニキ:あー、わかる。っていうかいまだにツマミにできるよね、ああいう感じの駄菓子

 だいてんぐ:ビッグカツって今四〇円だっけ

 きゅうび:三〇円だと思ってた

 すねこすり:昔すもも漬けとかあったよね。十円かそこらで、店主の爺さんがフィルムにフッて息吹き込むから「おいおいジジイ!」ってなってたわ

 オカルト博士:ちょっとわかるから草

 MIKU♡:すねこすりニキ可愛いとこあるんやな

 サニー:MIKU♡ニキまずいですよ!

 キメラフレイム:草

 ペガサス:実際可愛いところではあるけど

 ユッキー☆:MIKU♡ニキは浮気なんてしません(断言)


 コメント欄がにわかに白熱する。

 すねこすりのコメントを受けて、燈真がふふっと笑った。


「あったあった。俺自分で入れるからつってもらってた」

「燈真って村育ちだっけ?」


 穂波がそう聞いた。燈真は「いや、生まれと育ちは桜花町で、引っ越したんだよ。高校生の頃の話だな」と答えた。


「ぼくのまちが、あるのかな」

「たまたまだよ。おうかは、さくらのはなみたいに、うつくしくなって、っていみでつけたって」


 隙間女:癒し定期

 きゅうび:ワイの子も、こんな感じになるんだろうか……

 だいてんぐ:その前にしっかり稼いで、どうぞ

 ユッキー☆:玉藻御前の子孫も今や一サラリーマン……悲しいなあ


「よっちゃんイカのあたりが裏から見れるってのあったじゃん。でもさ、スーパーってそういう引き返してくれるのかわかんなくて当たってもそのまま袋捨ててたんだよな」

「蕾花とオタク君はそっか、お店だもんね。駄菓子屋ならフツーに引換できるんだけどね。菘が豪運でアイス二連続であたり引いたときはめっちゃ面白かったなあ」

「おねえちゃん……はずかしいよ。だってわっちそのよる、おなかこわしたもん」

「菘が僕の隣でずーっと苦しそうにしててさ、原因分かってたとはいえ心配だったんだよ。でも姉さんは平気な顔して寝てたんだよね」

「はくじょうものー!」


 思いがけず竜胆が暴露し、菘が椿姫の背中をぽこぽこ叩いた。

 椿姫が「もー、過ぎたことでしょ」と諌める。


 オカルト博士:実際問題きょうだいってそんな感じなんだよね(無慈悲)

 トリニキ:もうちょっと妹を可愛がってもろて……

 きゅうび:弟も可愛がってあげて

 ユッキー☆:失敬な、ワイは弟妹を可愛がってるぞ!!

 だいてんぐ:君は可愛がり過ぎ

 キメラフレイム:僕も兄のことは大好きなので……

 サニー:耳にタコできるくらい聞いてるセリフ


「そうだよ、弟妹は可愛がらなきゃな。なあ竜胆」

「兄さんのは……セクハラ」

「リスナーの皆さんこれが現実です。私は弟に毎日罵倒されて気持ちよくなってるんですよ」


 きゅうび:気持ちよく???????

 がしゃどくろ:羞恥プレイ動画ですか?

 トリニキ:まずいですよ子供見てるんですよ!

 隙間女:蕾花ニキ、ドSと聞いたはずなのだが……?


「兄さんは魍魎に対しては病的にサディストだけど、普段は普通の狐なんだよね」

「そうそう、普通の狐だからことあるごとに俺を罵倒するのはよくないんだよ」

「にいちゃんの、じごうじとく」


 蕾花が閉口した。

 その間に、真鶴が口を開く。


「駄菓子で思い出したんだけど、激辛のコヤングってどこで買ったの? コンビニにもスーパーにもないって言ってたのに」


 それが、真鶴の助け舟だと気づいた蕾花は飛びつくようにその話題に乗っかった。


「幽世一の激安の殿堂、ポン・キホーテさ」


 見習いアトラ:ギリギリを攻めてるなあ

 だいてんぐ:現世にもありますね。神戸とかにも確かあったはず

 がしゃどくろ:どこにでもあることないですかね?

 すねこすり:僕の住むど田舎にはなーんもないぞ、ガハハ なんでコンビニ行くのに二時間かかるんですか

 きゅうび:田舎っていうか秘境では……

 ユッキー☆:でも妖怪が住むには適してへんか……?


「ポンキに売ってるんだ……」椿姫が呆れたような、感心したような顔をした。「いやー、変なことに興味持つわねえ男って」

「何言ってんだ。そのうち桜花も俺みたいに馬鹿なことで笑うんだ」

「ってか椿姫も変なことでツボにハマってゲラッゲラ笑うタイプじゃないの」

「万里恵、あんた時々私の黒歴史を暴露するけどひょっとして恨まれてる?」

「たまにスイーツ取られると腹立つかな」


 万里恵の目が笑ってない。

 と、襖を開けて何名か神使が戻ってきた。

 秋唯、光希だ。


「おー、光希、秋唯さん。狐春さんは?」

「狐春は取材対応だ。柊様の術のことで質問攻めにあってるよ」

「あのひとそういうののらりくらり躱すの上手いからな。姉貴が押しつけただけだけど」

「いらんことを言うな」


 きゅうび:秋唯さんガチのイケメン美女やなあ……まあワイの妻も負けてないが

 だいてんぐ:惚気ないでもろていいですか

 ユッキー☆:触れたら切れそうな感じの麗人っすよね

 オカルト博士:女から見ても憧れるタイプの女やんな

 サニー:真鶴姉さん推しは、変わらないので……

 がしゃどくろ:真剣みたいな眼光だ……


「私のことで盛り上がっているな。……あまり、こういうカラクリの使い方がわからんのだが……」

「よせ姉貴っ、姉貴がいじる機械だいたい壊れるから!」

「なんだと、私が何を壊したってい——」

「テレビ、電子レンジ、洗濯機、乾燥機、食洗機、あと何もしてないのに壊れたって言って、ケーブル刺さってないPCに電気叩き込んで爆発させてたろ」

「細かいことにこだわる男だ」


 光希の怒涛の暴露と、秋唯の機械音痴。これに、コメント欄が沸いた。


 だいてんぐ:これはやばい

 ユッキー☆:何もしてないのに壊れたからの通電は狂気やで……

 MIKU♡:サンダーニキとは逆方向の獣性やな

 隙間女:お師匠様が聞いたら流石に言葉失うかもしれない……

 きゅうび:機材全部壊れたら……考えたくない

 がしゃどくろ:ワイの給料全てを注ぎ込んだマシンだけは守らなくては……!

 すねこすり:雷獣の能力が仇になることもあるんだ……

 キメラフレイム:言うてワイは音系統なので、ちょっと違うかな


「音? ああ、鵺の能力か。興味深いな。私もアカウントを作って、キメラ君の動画を見るのもありか」

「見たい動画ある都度俺か狐春さんに言って見てるもんな」

「機械はよくわからん」


 秋唯の意外な一面が顕になると同時に、やはり弟という存在が苦労するのがよく分かった。

 秋唯は座布団の上に座り、煎餅を齧りだす。


「お、いい匂いが……。そろそろ晩飯なので、一旦ここで配信をきりまーす。揚羽、いいところで配信切って」

「りょーかいです総長」


 きゅうび:お疲れ様ですー 500¥

 オカルト博士:お疲れ様でしたー

 トリニキ:配信おっつおっつ

 ユッキー☆:おつでーす 500¥

 だいてんぐ:対決の方もお疲れ様でした 1000¥

 MIKU♡:おつ!

 がしゃどくろ:お疲れ様でした。寝る前にもっかい温泉言ってきます

 すねこすり:おつー


 その後もコメント欄にはお疲れ様コメントが流れ、一分ほど待機画面が流れたのち、配信は終了するのだった。

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