みつけて、ここにいるから

 汗を土に垂らしながら、男は空き地に穴を掘っていた。八月のことだった。汗で湿ったシャツが体に張り付き、シャベルを握りしめた手はじんじんと痛みを発していた。それでも男が懸命に穴を掘りつづけることに、理由はなかった。ただ、そこに穴を掘らなければならないと思っていた。蝉が鳴いていた。男が掘り起こした土はやがて山のようになり、穴は男がすっぽりと収まる程度の深さとなった。男は比較的小柄な体格だった。冷えた土の穴に入り、体の力を抜く。土にはよくわからない種類の虫たちがうごめいていた。男はそれらを一つずつ手に取り、捨て、手に取り、捨てを繰り返していた。蝉が鳴いていた。すると、どこからか女がやってきた。女は穴に入っている男を見下ろした。ひどくきれいな女だった。女は土の山の傍らに投げ捨てられていたシャベルを手に取った。そして土を掬い取り、穴に放り投げた。男の顔に土がかぶった。女はお構いなしに土をかぶせるのを続けた。蝉がうるさく鳴いていた。やがて、男が首のあたりまで埋められたところで、女は土をかぶせるのをやめた。蝉の声に交じって、男の声がかすかに聞こえた。


 「みつけて、ここにいるから。」


 女は再び土をかぶせ始めた。男は繰り返し話し続けた。みつけて、ここにいるから。みつけて、ここにいるから。みつけて、ここにいるから。やがて男の声は聞こえなくなり、蝉の声だけがうるさくあたりに響いた。女はどこかへ去って行き、そこには何も残らなかった。男がどこに埋められたのか、誰もわからない。そこにいるのをみつけるまで。

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思想日記 沸騰 進 @pupupuz

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