第14話

 投げ捨てられた勢いで、コロコロと転がり通路の壁に到着する。結局、何も情報を掴めなかったにゃ。


 隠れ婆が命じたのは、荒神会跡目の鍵を持つ弘前組情報だった。今回の揉め事は、弘前組の若頭が何処かで行う会合が重要になる。


 いつ・何処で・誰と。可能であれば何の目的で。出来るだけの情報を握って帰宅すること。猫に化けて近づいて勝手に喋る内容を聞くだけ、毎回簡単な仕事だと思っていた。


 なぜか人間は、猫に甘い。どんな偉い人間でも何故か猫の姿で近づくと、勝手に愚痴や相談事として会話を始める。無碍むげに扱われることは無かった。


 ただ今回は違う。弘前組に潜り込もうとしたら、坊主頭の男に蹴っ飛ばされた。直接、若頭に近づこうとしたら、また蹴っ飛ばされた。若頭の近親者を探して、ようやく潜り込めば結局は蹴っ飛ばされた。


「全く、何なんにゃ。猫又は抜け毛なんてしないにゃ」


 彼女さんが買い物に出掛けている隙に室内を調べてみたが、若頭に関する物は置いてなかった。若頭の事務所は、最近は24時間を通して、誰かがいるので潜り込めない。


 今の所、ニャモは猫に変化する以外の能力は発現していない。だから猫のふりして近づく方法しか出来ない。檸檬なら幽体化して壁を擦り抜けるんだろうにゃ。


「手詰まりにゃ」


 根気良く張り付くしか方法が思いつかない事に我ながらガッカリにゃ。隠れ婆から成長しないと小言を言われる未来予想が出来る。


 廊下でゆらりと揺れるとニャモの身体が青白く幽体化を起こす。幽体化した身体は檸檬ほどではないにしても、透過性が高くなり、視認性が低くなる。


 幽体化した身体でマンションの外壁を飛び降りる。そのままマンションを

回り込み、もう一度マンションを駆け上がる。さっきの部屋のベランダに辿り着くと、中を覗き込む。


 家の中を覗き込んでみると、ソファーに2人で並んで座る姿が見えた。しばらく眺めていたが、電話が鳴り響いたと思ったら、短く言葉を交わして帰る準備を始めた。


 今回は空振りだにゃ。ドアから男を見送る女の姿を見て、ベランダから下を眺めると駐車場に車が入ってきた。車に乗り込む男を眺めながら、部屋の中の女を眺める。


「まぁ、今日はここまでにゃ」 

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