第13話

 少し機嫌が悪いようで、乱暴に上着を脱ぐと椅子にかける。ソファーに腰掛けようとして、眠り込んだ猫に気づく。


「おい、なんで猫なんて飼ってんだ?」

「あ。違うのよ。勝手に入って来て、捕まえられなかったの」


 明久は悪態をつきながら猫に手を伸ばすが、寸前で身を交わし逃げ出す。わざわざ追いかけるのも面倒なようで、ソファーに重い腰を下ろす。


「ったく、こいつら抜け毛が服につくと面倒なんだ」


 舌打ちしながらも、用意したビールを渡すと少し機嫌が落ち着いたようだ。少し落ち着くとテーブルに座り直し、食事を取り始める。明久は、ガッチャガチャと食器の音を立てて食べる癖がある。『箸なら音は鳴らん』と言っていたのを思い出した。


 基本的には仕事の話は私の前ではしない。不機嫌だと分かっても不機嫌な理由は私は聞けない。『知るだけで大きな罪になる可能性や狙われる的になる』と苦々しい顔で呟いたのを覚えている。


 だから不機嫌そうなのを知っても聞かないが、美味しい料理と好きなビールを用意しておく。明久は裏の人間だが、頭は良い。頭が良いから、脳筋な仲間から自分は嫌われている。とは酔って言っていた。


 足元に猫が擦り寄っていたのを見て、明久は蹴っ飛ばした。不意に蹴られたせいで、避けることも出来ずにポーンと飛んでいく。猫は綺麗に着地すると荷物の影に隠れた。


「だから毛が付くのは嫌いなんだ」


 頭が良いから、脳筋が嫌いだからと言って、暴力的では無い訳では無い。うまく暴力を使うし、無用な暴力は使わない。


「ほらほら、猫くん。もう帰りなさい」


 見上げる猫の頭を何度か撫でると首筋を掴んだ。プラプラと持ち上げて、玄関からポイと投げる。


「今度は、猫が好きな家に行くんだよ」


 部屋に戻ると、食事を終えた明久は、ソファーに腰を下ろしてテレビを眺める。そのうち、うつらうつらと船を漕ぎ始め眠りにつく。


 ニュースの断片だけで理解してるけど、明久を脅してでも身内に入れたい組は多いだろう。警戒心の高い明久の事だから、外では寝れてないのかも知れない。


 あと数時間もすれば、お迎えの電話が鳴り始め出て行くのだろう。起こさないようにソファーの隣に座り、普段の悪行がないかのような少年のような顔を眺める。

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