第12話
太陽が一番高く上がる時間帯に目を覚ます。カーテンの隙間から差し込む光に脳みそを一刀両断されたような衝撃を感じながら、ベッドから腰を上げる。
シャワーを浴びるために向かった洗面台の鏡に映る自らの肢体を見て、『まだまだ若い子には負けてない』と呟く。
週に一度はスポーツジムで身体を鍛え、月に何度かはエステで身体を磨く。
勤めるキャバクラ『
27歳になり、引退が目の前にチラつき始めた。昔は『可愛い』と騒がれた顔だって若さが減り、威圧感が増した為なのか『綺麗』と評価はされても『可愛い』とは言われなくなった。
ネガティブな想像が頭に浮かんだが、熱いシャワーで流し去る。今日は、せっかく夕方から会えるんだから、しっかり準備したい。
メイクと髪。たっぷり時間を掛けたおかげで、急いで夕食の材料を買いに行かなければならなくなった。買い物バッグを片手に玄関のドアを乱暴に開く。外から少し肌寒い風が入り込む。と同時に足元を何かが過ぎ去る。
「なあーお」
「なんだ。昨日の子じゃないか。今、遊んであげられないよ」
ドアの隙間から入り込んだのは昨日の夜もいた三毛猫だった。追い出そうとした瞬間、三毛猫はリビングのソファーに走り出し満足そうに座り込んだ。
追いかけっこする時間を考えて、『大人しくしててよ』と願いながら、玄関に鍵を掛けた。まずは買い物を済ませてから考えようと諦め、スーパーへと走り出した。
通い慣れたスーパーで、ひとしきり食材を買い込んで重い買い物袋を担いで家路に着く。家に向かいながら、下ごしらえの時間や段取りを思い描く。キャバ嬢だって家事は得意なんだよと自虐に走る。
自宅のドアを開くと、すかさず重い荷物を床に置く。置いた荷物に『にゃあお』と忘れていた存在がまとわりつく。
「あ。忘れてた。ほら、出てって」
首筋を掴もうとした瞬間にトテトテと部屋の奥に逃げて行き、ソファーの上に座ると眠りにつく。どうやら性格的には、大人しい性格なんだろう。猫は後回しにして、料理に取り掛かろうと諦めた。
部屋中に料理の匂いが充満し始めた頃にスマホが騒ぎ出した。画面には『借受』と表示されている。明久は警戒心が強い人間で使う電話番号で要件や状況が伝えられるように用意している。
『借受』の番号からの着信は、周囲を警戒しながら、連絡をしていている時の番号だ。明久が何かあった際に借金取りと負債者の関係に偽装する為の仕掛けだと言っていた。実際には借金が無いどころか、金額は大きくないが金を貸しているのは私の方だ。
鳴り続けたスマホが音を止める。窓から駐車場周辺を確認すると黒いベンツが停まる。尾行している車や人の姿が見えない事を確認してから、電話をかけ直す。数分してドアがガチャリと開く。
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