第10話

 子どもが迷子にならないように手を繋ぐように、繋いで手を引っ張られながら歩みを進める。


 途中で何度か手を離され、この建物に張られた能力を実感させられた。意地悪と言った御返しなんだろうにゃ。


「ゴメンにゃ。もう手を離さないでにゃ」

「えへへ。凄いでしょ。黒豆くろまめの能力なんだ」


 黒豆くろまめと呼ばれる猫又は、一定の範囲を縄張りとすると許可した相手以外は侵入出来ない能力を持ってると檸檬が自慢した。


 この縄張りの中で檸檬の手から離れると必ず室内から外に出ている。檸檬曰く、無意識に自ら外に出るように行動しているから、理解してても防ぎようが無いらしいにゃ。


 何度か遊ばれて外に出された後に、荒々しい炎の紋様が入った朱色しゅいろの襖の前に辿り着いた。


「檸檬、戻りました」


 檸檬が少し声をはり襖の奥を呼び掛けた。


「入れ」


 奥から低い雄の声が聞こえると、襖を開いて中に進む。2人仲良く手を繋いで入ると、後ろで音を立てて襖が閉じた。


「で。コイツは誰だ」


 胡座あぐらを組んだ状態なのに、頭が天井に着きそうな程の大きな着物姿の猫又の威圧感にニャモは言葉を失う。ギラリと睨みつけられた目の玉でさえ、ニャモより大きく感じる。


「面白い能力の猫又だよ」


 檸檬はニャモを横目に大袈裟に両手を開いて紹介を始めた。


「なんと猫に変幻へんげできる猫又だよ!」


 馬鹿にされているのかと思い、檸檬を睨みつけようと顔を向けると、大きな猫又が「面白い!」と両の手を叩いた。手を叩いた風圧で吹き飛ばされそうになった。


「儂は炎真えんまだ。猫又のおさだ」


 炎真えんまの瞳が先ほどまでの敵意むき出しから、興味深々の真ん丸な瞳に変わっていた。瞳の中にニャモがハッキリと映り込んでいた。


「ボクの名前はニャモにゃ」

「そうかニャモ。お前は猫にれるのは本当か?それとも言葉使いだけか?」


 炎真に促され、尻尾で地面を叩いて一本尾の三毛猫にる。猫又が猫になれて当たり前だと思うのだけど、炎真は大きな口を開けて笑った。


「確かにだ。正真正銘のに見える。面白い猫又だ」


 何が面白いのか分からないニャモを見て、檸檬が説明する。


「あのね。猫又はには成れないんだ。猫から妖怪になるのはで、猫又は猫ではなく最初から猫又なんだ」


 理解が追い付いてないニャモを見て、炎真が補足する。


「妖怪の能力は望んだ力だ。化け猫は猫が妖怪に成りたいと望んだ猫の姿。猫又は猫に近い姿だが猫に成りたい訳では無い。逆に猫とは別物だと認識している。だから猫又は猫では無いと思っても猫に成りたいとは思わない。だから猫に成れない」


―――――お前は猫又なのに猫に憧れた奇異な猫又なんだ。

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