第9話
鳥居から離れると、民家が並ぶ住宅街になっていた。隠れ婆の能力は人間社会のカタチを引き継いで世界を創り出すから、人間世界と同じ景色が創られる。と檸檬が思い出しながら説明してくれた。
鳥居から数分走って、檸檬が立ち止まる。見上げると立派な瓦門が目の前に建っていた。瓦門からは左右に端が分からないほどに、塀が伸びて敷地を囲んでいた。
「ここはね。人間世界では、とっても偉い人が住んでいた場所なんだって」
「へぇ、凄いところに住んでるんにゃ」
キョロキョロしながら、檸檬に続いて門へ脚を伸ばした瞬間の出来事だった――――――バチン、雷が落ちたかのような衝撃と強烈な音を立てて、ニャモの身体は後方へと吹き飛ばされた。
「うにゃっ」
吹き飛ばされた身体は門の反対側の壁に衝突する事で停止した。情けない声が出たと思いながらも身体を動かそうとしたが、痺れて動けなかった。
「大丈夫?動ける?」
慌てて駆け寄る檸檬に『大丈夫』と伝えようとしたが、痺れて声が出なかった。そんな様子を見て、なんとなく無事を察したようで怪我が無いことを確認すると、突然脚を掴まれた。
脚を掴んだ檸檬は、痺れたニャモを荷物のように引きずり、今度こそ門の中に入った。砂だらけになった背中を向けて、抗議の視線を送ってみた。
「ごめんね。触れてないと『お守り』が発動するんだった」
全く悪びれない檸檬が失敗、失敗と笑った。少しずつ痺れから解放された身体で砂を叩き落としながら立ち上がる。
『お守り』って何?と尋ねようと顔を上げると、すでに家の中に駆け込んでいく檸檬の背中が見えた。独り言のように小声で「意地悪にゃ」と非難を口に出しながらも遅れないように後を追う。
長い長い廊下を走る。いつの間にか檸檬の背中も見えなくなった。
「なんでにゃ?こんなに廊下が長いはずにゃいだろ」
立ち止まり後ろを見ても前を見ても真っすぐな廊下が続く。入ってきた玄関もない。いつから檸檬の背中を見失ったのかも分からにゃい。真っすぐな長い廊下の両脇に沢山の襖。
襖を開けてみると、同じような廊下が続いている。何枚も襖を開けても廊下がある。こんな造りの建物なんて変だにゃ。檸檬は何処行ったにゃ?混乱で頭が変になりそうにゃ。
突然、尻尾を引っ張られる痛みを感じると、檸檬が笑って立っていた。見回すと入り口から一歩も進んでない家の前の玄関に立っていた。
「仲間の能力で許可された者以外は建物に入れないんだ」
玄関前で幻覚を見て、慌ててたニャモを楽しく観察させて頂きましたと笑顔で説明してくれた。最後に「私、意地悪だからね」と意地悪く笑った。
――――――しまった。聞こえてたにゃ。
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