第8話

「まずは、隠れ婆のお許しが貰えたね」


 目を真ん丸にして檸檬を見ると、満足そうな笑顔でニャモの頭を撫でた。柔らかい肉球が心地よかった。


「じゃぁ次は仕事を覚えなきゃ。まずは私たちのおさに会ってもらうよ」

おさ?隠れ婆とは違うの?」

「隠れ婆は奇界に住む妖怪の管理者だけど、猫又のおさは別だよ」


 社から参道を戻る道すがら、檸檬は奇界のつくりを説明してくれた。


 奇界は様々な妖怪が交流出来る場所ではあるけど、個別の妖怪を匿っている訳ではにゃい。なので大体は近しい生態の妖怪で徒党を組んで、隠れ婆の仕事を行っている。


 猫又のように同じ種類の妖怪が複数存在する事は珍しいらしく。ほとんどは同じ生態、近い有り方を基礎とした仲間で手を組んでいるって事だにゃ。


「同じ生態って、どんな感じなの?」

「そうさね。身体のつくりが昆虫とか鳥とか生態が似ている集まりや実体を持たない有り方が近い集まり、人に友好的であるとか思想が近い集まりとか色々さ」


 隠れ婆の仕事を請け負う場合に達成しやすい仲間を集めた結果、いつの間にか出来た徒党のようにゃ。仲良しと云うより仕事仲間って事かにゃ?


 他の妖怪と接触を嫌っていたニャモには、他の妖怪の能力や生態のイメージが湧かなかった。人間社会でも色んなグループがあったにゃ。と考えるのを諦めた。


「そんな中で同じ妖怪だけ集まっている猫又は少し違うんだ。仕事だけを目的とせず、共存生活をしているんだ。人間でいう家族みたいなもんかな?」


 気付けば参道の入り口、鳥居の下に辿り着いた。


「隠れ婆の社を中心として鳥居までの距離で円を描いた範囲が隠れ婆の管理下『奇界』、隠れ婆に許可貰った者は身体のどこかに『いん』が刻まれ、隠れ婆のルールに従わなければならない」


 言われて身体の調べてみたが『隠』の字が見つからにゃかった。あちこち身体を探している姿を見て笑いながら檸檬が指をさした。


「右耳の内側に付いているよ。さすがに自分じゃ見えないね」


 『隠』のしるしは、隠れ婆からの許可証であり、その反面で呪いでもあると檸檬がニャモの右耳を触りながら教えてくれたにゃ。


 奇界の出入りを自由に出来る反面、奇界でいる限り隠れ婆に嘘が付けなくにゃったり、身体の自由を奪われたりする。だから許可証で呪い、奇界にいる限り隠れ婆には逆らえない絶対服従の呪い。


「まぁ、嫌なら奇界を出れば良いさ。あくまで効果は奇界の中だけの話さ」


 隠れ婆は奇界を構成する事に、ほぼ全ての能力を使っている為にを離れることは出来にゃい。だから奇界から逃げ出したって、追っては来ないという事だにゃ。


「だけど、ルールを犯した者を追い捕らえる組織も存在するから、真面目に働くことをおススメするよ」


 全力で頷くニャモを見て笑顔で頭を撫でる。罰がある代わりに奇界はルールに基づいて、弱い妖怪でも強い妖怪でも能力や力に関係なく安全に交流、売買が出来る場所になっていると説明してくれた。


 隠れ婆が欲しがるのは人間社会や妖怪社会の情報や物になる。自らが動くことが出来ないために、代わりに手足になって動く部下が必要になる。


 また奇界の安全を確保する為の武力や知力。安全と言っても同じ空間を操る能力を持つ妖怪や力業で空間を壊す相手だと対応するすべを持たない為、維持するために他の力が必要となる。


 また敵対する可能性がある勢力が無い訳でもなく、同様に組織立って動いている妖怪も存在する。現時点では明確な対立する目的が無いから争いが起きてないだけと言う事である。


「ニャモは戦う能力は無いにゃ」

「それは分かってるし、猫又の仕事は別だから安心して」


 笑顔を向けた檸檬は、そのまま鳥居から離れるように走り出した。また遅れないように、後ろを必死で追いかける。


 

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