第2話
「お前、また来たんだ」
くすんだ茶髪を雑に後ろで縛った20代位の女の足元で、頭を擦り付け甘えてみせる。
女性は仕方ないとばかりに、抱え上げると室内に上げ、小さめの皿に牛乳を入れ猫の前に差し出す。牛乳を飲み始めた猫の背中を優しく撫でながら、「旨いかい?」と声を掛けた。
撫でられた猫は上目遣いで女性を見ながら、牛乳を飲むと腹がいっぱいになったとばかりに伸びをした。さらにお気に入りのソファーの上へと移動し、周囲を確認する。
――――まだ帰ってきてにゃいか・・・
「また、そんな場所にいると、投げ飛ばされるよ」
――――仕方にゃい、待つとするか
掛けられた声を無視するかのように目を閉じる猫を見て、女性は中断していた料理を再開する為、キッチンへ移動する。
晩御飯の準備が終わり、ソファーの上で眠る猫を眺めていると、スマホが大きな音を立てて、女性を慌てさせた。
「うん、うん。分かった。待ってる。うん、晩御飯あるよ、うん」
短い電話の後、ご機嫌な表情でテーブルに料理の皿を並べ始める。
数分後に、黒いスーツ姿で短髪黒髪の男が部屋に現れた。女性は「おかえり」と声を掛け、男からスーツの上着を預かると、皴にならないようにハンガーに掛ける。
「なんだ。また野良猫入れてんのかよ」
ソファーで寛ぐ猫を片目に入れながら、男は冷蔵庫から缶ビールを取り出す。面倒くさそうに文句を漏らすと、缶ビールに口をつけ、料理が並んだテーブルへと向かう。
椅子に腰掛け、料理に箸をつけようとした瞬間、男の上着から着信音が鳴る。箸をテーブルに置き、立ち上がると上着のポケットをまさぐる。
画面に表示された着信相手の名前を見て、舌打ちをしながら電話に出る。
「俺だ、なんだ」
スマホを耳に当てながら、乱暴に椅子に腰かける。片手に缶ビールを揺らしながら、相手の言葉に適当に相槌を返す。
「あー、清流会の件なら、来週だ」
――――来週、清流会
目を閉じながら、耳だけは男の方へと向け、声に合わせてピクリピクリと反応する。ゆっくりと目を開けると、男へと視線を送る。
「あぁ、そうだ。和田んところの若いもんが土産を持って来るって話だ」
――――清流会、次期若頭『和田』
その後も男が漏らす言葉を正確に聞き取りながら、情報を頭に記録していく。男がスマホを切る頃には、期待した以上の情報を聞くことができた。
男の機嫌が悪くなったのを見て、ソファーから降りると、玄関の扉をカリカリと引っ掻くと、小さく「なあーぉ」と鳴いた。
「早く外にだしちまえ!野良猫なんて」
男の声に慌てて、女性が扉を開く。隙間から身体を出すと、一度振り返り女性の顔を眺め、改めて「なあーお」と鳴いた。
――――何日も世話になったにゃ
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