ネコの目、ネコの耳。猫又の情報屋を雇いませんか?
空想坊や
第1話
月が雲に隠れても、現代の街は暗闇には落ちない。どこもかしこも灯りが照らされ、小さな影は作るが、完全な闇には程遠い。
街灯の隙間にできる住宅の影が動く。影と影の切れ目で灯りに照らされ、薄青い小さな姿が現れる。その姿は素早く公園の植木に身体を滑り込ませた。
何もない誰もいない深夜の公園でさえ、灯りが点き続け、陰に潜む不審な者を炙り出すかのように明るく辺りを照らしている。
「誰もいにゃいな」
呟き、辺りを警戒をしながら植木から四つ這いで身体を出す。枯れ葉が付いていることに気付いて、何度か身体を振る。
四つ這いから2本足で立つと、複数の照明に照らされ、影は複数の方向に伸び、本体よりも主張激しく地面に姿を描いた。
「夜目が逆効果で眩しい」
灯りに照らされた顔は、眩しそうに眼を細め街灯を睨んだ。
睨んだ先へ。2本の尻尾で地面を叩いて勢いをつけ飛び上がる。弧を描くように音も無く街灯の上に飛び乗ると、少しだけ街灯が揺れた。
街灯の上で軽く伸びをすると、目的地の古めの12階建てマンション―4階通路への道筋を頭に描く。周囲に人の気配が無いことを確認し、自慢の髭で風向きを確認する。
「よーいドン」
街路樹の枝に乗り、古ぼけたトタン屋根に飛び乗り、レンガ調のマンションの壁を駆け上がり、最後に足の爪を立てて、大きく飛び上がる。人が居ないことを確認すると、音も無く目的の扉の前まで駆ける。
403号室と表記した鉄製の扉の前に立ち止まる。中からはパタパタと人が歩く音が聞こえ、テレビの音声と思われる大勢の笑い声が聞こえた。
軽く毛づくろいをして身だしなみを整え、身体を震わせると2本だった尻尾が1本になり、薄青い毛色も茶色となり、何処にでもいそうな三毛猫に変わった。
鉄製の扉を前脚でカリカリと引っ掻くと、軽く甘え声で「にゃぁーお」と中にいるであろう人間に声をかけた。
何度か愛想を繰り返していると、玄関の扉が少し開いた。開いた僅かな隙間から、滑り込むように室内へと入る。
――――さて、お仕事の時間にゃ
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