エステ

 ロンドンにいる時、私たちには、髪を切ってくれたりステージ衣装を用意してくれるスタイリストがいた。

ステージ衣装と言っても、ほぼ黒のシャツとジーンズなのだが、私たちが余りに無頓着だったので、ファンで美容師のトランスジェンダーの女の子ロビンがやってくれていた。

もちろん、お金は個人的にそれぞれ払っていた。

それ程稼いでもいなかったのに、まったくもって生意気な話なんだけど。


 髪の毛が伸び放題になっていた時、この前レイちゃんに坊主頭に刈られたこともあり、果穂ちゃんに強く進められた近所の美容院に行ってみた。

もともとは美容院だけだったところに、エステサロンも併設されて新装オープンしたと、果穂ちゃんが言っていた。


私に様子を見て来いというのだ。

予約もせずに送り出された。

ケイトは、預かってくれた。


 お店に入ると、60代のお母様が対応してくれた。


私が、「カットお願いしたいんですけど」と言うと、「予約してないと少し待つわよ」と言われた。

ソファに座って待つことにした。


そこに、娘さんらしい人が現れた。

そして、私の顔をまじまじと見て、こう言った。


「カーリー?カーリーよね?」


えっ!私のこと知ってるの?

ドキッとした。


「覚えてる?

私、杉崎のパパの後輩で、昔、Scream of No Nameのスタイリストやらせてもらったことあるの」


バンド名も知ってるの?


「ほら!ライオンの被り物、覚えてる?」


「たてがみを全部切り落として雌ライオンにしてくれた人?」


「夏美よ。覚えていてくれたのね」


「ちょっと待っててね」


そう言って、夏美さんはどこかに行ってしまった。



 高2になる前の春休みに、オリジナル曲2曲のMVを作ることになった。

その時撮影や編集を協力してくれたのが、レイちゃんのパパの知人でCM作成会社をやっていた男の人だった。


その頃、私はまだ親にも内緒でバンドをやっていたので、顔出しはできないと言った。

それで、レイちゃんのパパが夏美さんに電話して、被り物をいくつか持ってきてもらったのだ。

当時は、たしかテレビ局のスタイリストをやっていた。


キリンや犬や猫など動物の被り物の中から、私たちは雄ライオンの被り物を選んだ。

でも、私は、女の子だから雌がいいとわがままを言った。

自分でも驚いたが、なんだかそこは譲れなかった。


 すると、夏美さんが戻ってきた。

手には、あの時のライオンの被り物を持っている。


「まだ持っていてくれたの?」


なんだか涙が出てしまった。


「懐かしいよねー」


と言って、夏美さんも涙を流した。


 夏美さんは、当時からScream of No Nameを応援してくれていて、海外にいる時からネットなどで私たちの動向を見守っていてくれたのだという。

レイちゃんのパパから聞いて、私たちの今の状況も知っているらしい。

レイちゃんのパパのお見舞いにもお葬式にも来てくれていた。


「撮影に協力してくれた近藤ちゃんとも、有名になって私たちの自慢だよねってよく話してたの」


 その後、昔話に花が咲いた。


「ママ、この娘は私がやるわ」


と言って、髪の毛を切ってもらった。

果穂ちゃんから少し女の子っぽくねって言われたのは一応伝えた。


髪を切ってもらった後で、私の肌を見て、


「お肌荒れてるわね!痩せすぎよ。今日は特別料金ね」


そう言って、エステもしてくれた。

そして、小さな容器一瓶で1万円位する栄養クリームの試供品をいくつもくれた。


「よかったら、また来てね」


そう言って、エステ割引券を何枚かくれた。


 家に帰って、私のピカピカになったお肌と割引券を見て、果穂ちゃんはその美容院に通い出した。

修平ママやショウくんママや真澄ママにも割引券を渡した。


 私は両方から喜ばれ、美容院の特別待遇。

今や、夏美さんは、私の日本でのスタイリストになってくれている。





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