坊主頭

 あれは、レイちゃんのパパが亡くなって、まだショウくんが帰国する前だった。

その頃、レイちゃんのママがよく私達を夕食に招いてくれた。


パパが元気だった頃から、会社の社員やバンド仲間を招いて、大勢でよくご飯を食べていたということだ。

なので、テーブルはとてつもなく大きい。

まあ、家も広いんだけど。


 レイちゃんのパパが入院してから、ママはひとりでご飯を食べるのが寂しいからと、社員の小山さんと一緒に料理をし、夕飯を食べるようになったという。

小山さんの二人の子供たちも一緒だ。


パパが亡くなってからは、私にまで声をかけてくれるようになった。



 その日は平日で、私は退社後まっすぐお邪魔することになっていた。

姉と姪っ子ケイトは先に行っている。


会社からの帰り際、ママからメールが来た。


「果穂ちゃん、本当にごめんね!

うちのレイちゃんが、とんでもないことしちゃった」


えっ!

何かあったの?

でも、文章の後の絵文字は笑っている。


 レイちゃんの家についた。

小山さんとママは、お料理を並べている。

子供たちは、先に食べていた。

レイちゃんが、ケイトに何やら食べさせてくれている。


「お姉ちゃんは?」


「シャワー」と、素っ気なく答えるレイちゃん。


「果穂ちゃん、ほんとうにごめんね!」


そう言いながらも、ママは笑っている。


「レイちゃんがね、バリカンないかっていうから、自分の髪をやるのかと思ったの。

カーリーにやってもらうんだと思ってたの」


すると、レイちゃんが、


「カーリーが髪伸びてきたから、果穂ちゃんが髪切って来いって言うのーっていうからさ」


そこに、姉がバスルームから出てきた。


坊主頭だ。

五分刈りというやつだ。


「えーーーーー!」


本人は平然としている。

みんな薄笑いしている。


「レイちゃん!うちのお姉ちゃんに、なんてことしてくれたんですか!」


「大丈夫!初めてじゃないし」


たしかに、ロンドンにいた頃の写真で、3人で坊主頭にしていたのは見たことはある。


「お姉ちゃんはいいわよ、自分じゃ見えないんだから。

一緒に歩く私の身にもなってよ!」


「えっ!そこ?」


ママと小山さんがハモった。


「私の男の子の好みも疑われるんだから。

ただでさえお姉ちゃんと歩いてたら、恋人同士だと思われてるんだから」


「大丈夫よ。坊主頭がこれ程似合ってる女の子初めて見たわ」


「うんうん!大丈夫!似合ってる」


たしかに似合ってはいる。

でも、認めるものか!



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