第7話 角、が……

「が、あっ!?」

「え?」

「き……。ききいいいいっ!」


 ブロンズボロスライムが攻撃され、しかも1発で仕留められたことにようやく気づくことのできたダメダメコボルトが声を上げた。


 スキル忍び脚の影響があるからあんまりディスるのは可愛そうだけど、それでも鈍感すぎたよこのコボルト。


 で、本来考えてたのがこのブロンズボロスライムを逃げないように抱き抱えてたコボルトだけ殺す、或いはなにもせず全員がこっちを向く前に逃げるって選択だったんだけど……。


 今はその反対を実施中。


 女性探索者がモンスターたちに襲われないようにわざとこの可愛らしい声で、喉が痛くなるまで鳴いて自分に注意をひいてます。


 それでさ。多分必死で捕まえたんだろうね、ブロンズボロスライムが殺されたことに気づいて滅茶苦茶怒り始めてるや。


 ベビードラゴンは迷うことなく火を溜めて、コボルトたちは眉間に皺を寄せて近寄ってきてる。


 鈍感ダメダメコボルトにいたってはあり得ないくらい大口開けて俺を噛み殺そうと必死。


 こんなの端から見たら弱いものいじめですやん。


 ……まぁでももう逃げられないんでね。

 とりあえずこのダメダメコボルトには反撃するしかない。


 そんでもって隙を極力与えないように刺したらとにかく急いでグリグリしないと。


 HP削ってる間に横っ腹噛まれましたとかシャレにならなすぎるから。


 急いでグリグリ急いでグリグリ急いでグリグリ……。


 ――ぶしゅっ!


 よし! 刺さった! 急いでグリグ――


―――――


種族:コボルト


ランク:F


HP:80→0


―――――


 え? なんでそうなった? 角は刺さって良く見えないけど変化はなさそう。

 うーん。あ、これクリティカルか!

 多分かなりレベル上がったけど、こんな簡単に倒せるわけないもんね。


 でも……ワンパンは気持ちよすぎるなあ。たまらんわこの快感。


「――が、あっ!」

「きっ!」


 そんなこと考えてる間に結局不意を突かれてベビードラゴンの火があっという間に目の前。


 数匹分のそれは太くて勢いも強い。


 他のコボルトは流石にこの範囲から遠退いたのか姿が見えなかなってるな。


 普通だったらこれで死ぬ。

 けどガチャで神引きした俺にはもうこんなのは効かない。


 この行動パターンは俺にとって当たりってわけ――


 ――しゅぅ。


 え? 火がいきなり消えて……。煙たいんだけど。


 もしかしてこれ……。


「「――わおおぉおぉおぉおおおおんっ!」」


 上から聞こえるコボルトたちの鳴き声。


 どうやら今の火は目眩ましで、こっちが本線だったらしい。


 ヤバい。煙たくて周りがよく見えない。


 と、とりあえず煙の外に向かいつつハチャメチャに走ってなんとか凌ぎ……きれるかなぁ?


 いや、やるしかない!


 神様仏様何卒ここ一度俺に運を――


「があっ!」

「きぃいぃいっ!」


 見えないのにいきなりコボルトの声だけ聞こえるのとかお化け屋敷並みに怖いんだけど!


 お、俺ああいうの苦手なんだよっ!

 しかも今の俺って兎じゃん? 余計におくびょうになってるってわけ!


 ――ぐさ。


 うわっ! しかもなんか刺さった! 滅茶苦茶柔らかい!


「があっ!」

「ききゅあああああああああああああっ!」


 ――ぐさ、ぐさぐさ。


 二重の意味で怖い! 死にたくないし驚かされるのももう勘弁してくれ!


 ――ぐさ。


「き、きゅあああああぁあ!……あ?」

「す、すごい……。まさか一角兎が、たった1匹で?」


 取り乱しまくってもうなにしてたかも分かんなかった。

 けど少し経って煙が消えてくるとそこにはコボルトの死体の山。


 それに怯えてるベビードラゴンたちと驚く女性探索者。


 こんなに刺したような気は一切しないけど、この状況にぴったりな言葉はやっぱりこれだろ!


 あれ? 俺なんかやっちゃいま――


「「がああああああああああああああ!」」


 唐突なベビードラゴンの全速前進。


 決め台詞を遮られて舌打ちしそうになったけど……ふ、まぁいい。


 この惨事を見て突っ込んできてくれるのはむしろありがたいからな。


 なぜってそういうやつには必ず隙が生まれるから。


 でもな……それは1匹の場合のみ。

 全員で襲いかかられると話は違ってくるんですよねえ!!


 さて……さっきのコボルトみたいになんとかなれえええええ!!


「――き?」

「え?」


 瞬間俺の想いが、そして俺の角がヘビードラゴンたちに届いた。


 さっきコボルトをグリグリしなくても倒せたわけ、それは……。


「の、伸びてる!?」


 女性探索者さん、簡潔な状況説明ありがとうございます。


 という訳で伸びてるんですよ、角が!


 しかもそれは早く長くだんだんと根本の部分と同じ太さになりながら!


 だから先端が刺さって穴の空いた箇所は次第に広がって、グリグリするよりも簡単に追加でダメージを負わせられるってわけ。


 ただ驚くのはこの後なんです!

 さっきのコボルトも多分こうやって『連なって』刺した。


 そのせいで刺した回数が少なく感じた。


 つまりどういうことかというと、この俺の攻撃は1匹だけでなく、その範囲内なら一気に2匹、いや3匹だって刺し殺せるってこと。


『――レベルが45に上がりました』


 ふふふ。こりゃあ うまいうまい世にも珍しいベビードラゴン経験値串(角)だことで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

一角兎のガードブレイク無双~食肉用のもふもふ呼ばわりですが実は最強の防御無視スキル持ちなので推しの探索者にテイムされるために経験値モンスターもボスも倒しまくって最強を目指します~ ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】 @arutyuuuuuuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ