第6話 うわぁ。
よし! そんじゃ早速金属スライム狩りと行こうか! ……ってもういない。
そういえば金属系スライムは逃げ足が早いんだっけ。
探知系スキル、バインドスキル、高防御突破スキル、こんなのを全部合わせた専用パーティーじゃないと儲けとしては微妙とか噂程度には聞いてたけど……本当にめんどくさいモンスターなんだな。
でももう俺の身体が高経験値を求めて止まんねえよ。最低3匹は狩る!
「――きき!」
最初の1時間。成果0。金属系スライムの姿見えず。
「――き、きっ!」
2時間経過。成果コボルト2匹。金属系スライムの姿見えず。お腹減ってきたかも。ベビードラゴンすら見なくなる。モンスターの数がなんとなく少ないような。
「――きき……」
3時間経過。鳴き声で自分を鼓舞すんのがしんどくなってきた。成果コボルト1匹。金属系スライムの姿見えず。ベビードラゴンの死体がちらほら。モンスターはほとんど見ない。
「――きき……。きぃ」
4時間経過。喉乾いた腹減った。成果0.金属系スライムの姿見えず。モンスターとの遭遇無し。
俺のやる気はもうほとんど0。そんでさっきから飲み水探しに意識とられる始末。
金属スライムのことがタ天野隅に追いやられ始めたその時、俺の耳にある音が。
――ぱち。
火の音。ベビードラゴンのそれじゃない。
焚火の音。それにこれは……食い物の匂い! 間違いない! 人間が、探索者がこの階層で野営をしてるんだ!
その階層のモンスターはリポップに約半日かかる。
だからモンスター避けのアイテムが買えなくても、その階層のモンスターを根絶やしにすることで安心して野営ができるわけだ。
ということは実は俺、滅茶苦茶ピンチだったのでは? 多分忍び脚が活きたんだろうけど……いや、あっぶね。
人間と戦闘できない身体だし、この辺りに来る探索者って絶対俺より強いじゃん。
食べ物の匂いに釣られて近づきそうになったけど、あんまり近いと速攻殺されるかも。
というか、そうだよな。人間は基本モンスターを容赦なく殺す。
だからもし俺が強くなったとしても、御影さんは俺をテイムするよりも殺しに来る可能性が高い。
あれ? ただ強くなるだけでいいと思ってたけど、そんな単純じゃないのでは――
「――はぁ。お前、もうパーティー抜けろ。はっきり言って使えねえよ。『察知』スキル? それを信じて信じて信じて……ボス部屋まで突っ込んで、結局この様。金属系スライムなんてどこにもいやしないじゃねえか! しかも戦闘できないとか、先に言っとけや! ったく、それでいて前線に出てくるとか正気じゃねえ」
「それは、その、悪いとは思ってますけど……。この辺りの階層に金属系スライムがいるのは間違いないんです。それで倒せば経験値もお金も――」
「なんかそれも嘘くさいんだよな。自分が弱いから嘘ついてパーティーに入れてもらって、道中で倒したモンスターからの稼ぎを山分けしてもらおうって、そんなつもりだろ?」
「違います!」
――ピコン。
「スキル『嘘探知』。実はさっきレベルが上がったときに手にいれてたんだが、これが反応するってことは……やっぱりお前嘘ついてんじゃねえか。……。消えろ。俺たちの前からとっとよおっ!」
「で、でも、まだモンスターが、金属系スライムが近くにい――」
「しつこい! 嘘つきを肥やしてやるために俺たちは働いてんじゃねえんだぞ、クソ野郎! どうしてもまた仲間になりたいってんなら10階層のボスでも倒して、俺たちの分まで稼いでこいや! 誠意を見せろ!」
うわぁ。滅茶苦茶修羅場やん。
救いのない追放ものじゃん。
『察知』スキル。それで俺のことがバレてないことも考えるとマジで嘘ついてるっぽいし。
見た目は図書委員が似合いそうな大人しめの女の子なんだけど、人って分かんないもんだよね。
「――ボスを倒せって……。そんなの無理に決まってる……。嘘じゃないのに、この辺りに金属系スライムがいるのは……。それに察知スキルって言わなきゃ、私の言うことなんてもっと信用してくれないじゃない」
野営場所から追い出された嘘つき女性探索者。
空気重いし、攻撃してこないとも限らないからここは退散退散――
「がるぅっ」
「あっ! コボルト『さん』! すみません、この辺りに金属系スライムがいるはずなんですけど……どこにいるか知りませんか?」
「がっ!」
「ほ、本当ですか! そ、その手持ちのアイテムを差し上げますからその捕まえてるモンスターのところまで案内してください!」
え? あの女の人コボルトについて行っちゃったんだが。
しかもコボルトと、話してたっぽい?
うーん。どうするかなぁ。面倒事に足を突っ込んで危険に晒されるのはまずい、けど……今コボルトに見せびらかしてたアイテム、あれ。
おつまみセット。内容はジャーキー、鮭とば、チータラ、バタピー。
ワンチャン盗みたい。
それに本当に金属系スライムがいるならこっそり殺せるかもしれない。
ついて……行くか。流石にコボルトが罠張ってるってことはないでしょ。
「――があっ!」
「これは、ベビードラゴンの巣!? まさかコボルトたちの手を借りてこんなところに巣を作っていたなんて……。それで、金属系スライムは……。あっ! い、いる――」
「があっ!!」
「え? え? えっ!? あなたたち、まさか……。私たち、いえ、何かを警戒して、こんな『罠』を……。『会話』スキルのデメリットはモンスターに親近感が湧きやすくなってしまうところ。気を付けろって、あれだけ言われてたのに……」
えー。ベビードラゴンが5匹。コボルトが10匹。コボルトに抱きかかえられてる金属系スライムが1匹ですね。
罠でした。そうでした。こいつら連携もとれるくらい頭がいいんでした。
ただ都合よく俺には気付いてない。
こっそり金属系スライムだけ倒しておさらばしよ。
差し脚忍び足でこっそりこっそり、全員が探索者に気をとられてるうちに……。
よし! 間合いに入った!
貫け! 俺の角! このスライムを!
「――助けて! だれか!」
「ぺ、ぷ……」
―――――
種族:ブロンズボロスライム
ランク:F
HP:30→5→0
※9階層経験値効率高。ダンジョン全体の経験値ランクC+
―――――
金属系スライム? あはははははは! 豆腐みたいに柔らけえや! ガードブレイク最強! 最強! 最強……あれ、身体が、あれ?
『レベルが――』
「死にたくないの! まだ! 私は死ぬわけにはいかないの!」
金属系スライムによる大量経験値取得。
それと同時に訪れるレベルアップのアナウンスと、それを遮る女性探索者の助けを乞う声。
うーん。人間からの干渉を受けやすいって言っても、レベルが上がったって言っても、このモンスターたちを相手に真正面から戦わないといけないって……マジですか?
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