第2話 『特別な人』

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 いや、ターゲットを狙うのはいいのよ問題なくそのお相手が

シングルならばね。



 いくら結婚してないからって恋人がいるのが分かっていて

略奪みたいな真似はねぇ~、普通しないもんでしょ。


 

 前々から忙しい業種ではあるんだけれど、近年忙しくて募集して

折角採用したのだから揉めて辞めてくれるなよ~頼むよ~だ。



 今我が社は近年の台風や豪雨そしてあちこちで頻発する地震と自然災害の乱発がすごくて皆、青息吐息で社員は誰も彼も猫の手を借りたいほど

忙しいのだ。




 そんな我が社は旧財閥系列の会社で社名もふたつの財閥の名称から取り

『三居掛友海上火災保険株式会社』と称する。



 島本さんが狙ってる向阪くんは彼女より2才も年下で現在の仕事は

『損害サポート業務部の火災損害サポート部』社員として活躍している。


 自動車損害サポート部も兼任しており将来を有望視されている若手社員だ。


 花ちゃんは向阪くんと同年に同期入社してきて総務部で

テキパキ頑張ってる。



 聞いたところによると向阪くんと花ちゃんは入社前から面識があった

みたいで、交際がいつ始まったかは知らないけれど入社してすぐに

付き合っていることは公認みたいな形になってる。



 別に社内でイチャイチャすることはないよねー、今のところ。



 ランチも一緒に摂ってるところなんて私は見たことないんだよね。


 ……不思議っちゃあ不思議よね。


 そんなふたりが公認の仲? 

 今まで何も不思議にも思っていなかったのに島本さんの向阪くん狙いの

話から彼と花ちゃんのことを考えていたら辿り着いてしまったって感じよね。



 あれだね、きっと向阪くんが花ちゃんに悪い虫が付かないよう、

自分から周りにじわりと小出しにして認識させていったのかも。



          ◇ ◇ ◇ ◇



 準社員として配属された島本玲子の上司で正社員の牧野千鶴38才既婚、大学を卒業してから早16年勤務……は、知らなかった。


 従業員はパートまで含めると約3万人近くになる規模の会社で

取締役会長に始まり同じような執行役員という名の付く役員が

4、50人もいる中、そのような重役から下の役職へとふたりのことは

伝達されていたのである。



 伝播された設定はこうだ。



向阪 匠吾こうさかしょうご掛居 花 かけいはな

中学、高校と学生の頃からの付き合いであり、たまたま就職先が

同じだったと。



 意図的にある人物の意志でそのように社内に流布されていた。



 その人物というのは掛居 花の祖父である向阪茂で、彼の提案だった。


 ふたりが数年後、滞りなく結婚まで順調に物事が進められるようにという祖父心からの配慮だったのだ。

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