5 クラスメイトの勇者たち(追放者視点)


「えー、それじゃ時雨くんを遺跡に置いてきちゃったわけ?」


 月白つきしろ葉月はづきは彼らを軽くにらんだ。


 ここは彼女たち『異世界の勇者』に与えられた一室だ。

 教室くらいの大きさがあるラウンジで、勇者たちはここで自由にくつろいでいいことになっている。


「そりゃ、あんたたちが時雨くんを嫌ってるのは知ってるけど……やりすぎよ」


 と、葉月は顔をしかめた。


 時雨はスキルが弱く、クラス内では役立たずとみなされている。


 彼女もそう認識していた。


 だからといって、遺跡に置き去りにするのはやり過ぎだ。

 遺跡の内部はモンスターや罠に満ちており、一人で置いていかれたら、十中八九助からない。


 もちろん、クラスの中で戦闘力上位の者たちなら単独で生還できるだろうが、時雨には無理だろう。


「死んだらどうするのよ。今から救助に行きましょ」

「救助ぉ? 必要ねーよ」


 藤堂とうどうらん――クラスのみんなは『ラン』と呼んでいる――が口の端を歪めた。


 外国人の血が入っていて、外見は金髪碧眼の繊細そうな美少年だ。

 が、その内面は傲慢で攻撃的だった。


「だって、あいつ使えねーし」


 ランがゲラゲラと笑った。

 彼はこの中ではリーダー格である。


「むかつくんだよ、あいつを見てると」


 同調したのは剣咲けんざきじん


 野性味あふれる顔立ちに暴力的な雰囲気。

 その雰囲気通り、素行不良な生徒だった。


「弱い奴はそれだけでイライラする」

「はは、けっこう脳筋だよな、剣咲って」

「まあな」

「いや、なんでドヤ顔!? 別に褒めてないけど!?」


 ランはゲラゲラ笑いながらツッコんだ。


「ねえ、冗談言ってないで……」


 葉月が二人の会話に割って入った。


「グズグズしていたら、時雨くん殺されちゃうよ」

「あいつだって勇者のスキルを持ってるんだ。そいつを使って生き延びてみろってんだ」


 ランが言った。


「むしろ、生き延びて遺跡から出てきたら、あいつのことをちょっとは認めてやるよ」

「だな。俺たちは魔王軍と戦争やってんだ、戦争。弱いってのは、それだけで罪だぜ」


 剣咲がニヤリとする。


「あんな遺跡すらクリアできないなら、さっさと死ねってんだ」


 言ったところで、彼はハッとした顔になった。


「――誰だ?」

「ひっ……」


 息を飲む声。

 ラウンジの入り口に一人のメイドが立っていた。

 王宮付きのメイドだろう。


「ここは勇者以外は立ち入り禁止だろうが」


 ランが彼女に近づいていく。


「そ、その、誰もいないと思い、お掃除を――」

「あ? お前、俺たちの話を聞いたか?」


 ランの表情が険しくなる。


 自分たちは今、『時雨を遺跡に置き去りにした』という話をしていた。

 もしそれが外部に漏れたら、さすがに問題になるだろう。


 口止めが必要だ――。


 葉月がそう思った刹那、




 ばしゅっ。




 メイドの頭が粉々にはじけ散った。

 まるでザクロのように。


「ち、ちょっと――」


 葉月は呆然となる。


 今のはランのスキル攻撃だ。

 まさか、躊躇なくメイドを殺すとは……。


「口止め」


 ランはこともなげに言った。


 笑うでもなく、怒るでもなく――。

 まるで虫でも叩き潰したかのような、平然とした表情だった。







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