第2話



「私が泣いているように見えた?」


 嗚呼、貴方には嘘が吐けない。


 私が泣いているように見えただなんて。

 どうして分かるの。

 揺蕩いた花弁を追いながら呟いた。


『……見えたから、心配してるんだ』


 凛とした声で。


『本当、僕は笑わすのが下手だな。…泣かせたい訳じゃないんだ』


 貴方の言葉に胸が疼き、昂る。貴方は優しすぎると。沈黙が場を満たしてゆく。

 そんな沈黙──…清涼なる雰囲気の中で口を開いた。


「知ってる」


『僕は、』


 次いで出た私の言葉に応えるように貴方も口を開く。聞きたくない。なんて言えない。言わないから。


 受け止めるって決めたから。


「……うん」


『──君に笑って居て欲しい。桜が似合う、君に』


「……私もね、笑って居て欲しいよ。だって貴方は」


 だから笑顔で居ないと。貴方に心配されてしまう。それだけは、絶対。なんて言ってしまっているが。これは私のエゴだ。

きゅっと唇を噛み締め、毅然と言い放つ。


「──春を司る神様なんだから」


 貴方は再び困ったように眉を下げ、髪を弄り呟く。


『敵わないな。君には』


 その言葉は小さく聞き取れないようにも思えた。途端、視界が薄桃色のちいさな花弁で埋め尽くされてゆく。

 そんな中、貴方は泣きそうな表情で私を眺めえていた。


『……今年こそは、喜んで欲しかったのに』


 そんな貴方を見るのが辛くてつい、反射的に掴んでしまう。温かい筈なのに生気をともわない、その腕を。


「……よ、喜んでるよ…!」


 貴方は掴まれた腕を吟味しながら訊ねる。

それもそうだろうなと思いながら、思いあぐねる。


『本当に…?』


「本当…!」


 声を荒らげそうになり、押し留まる。

が、想いは止まらないと知るのである。

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